「イタリア代表の歩み」シリーズ(?)その5は、ワールドカップを3ヶ月後に控えた2006年3月、フィレンツェで行われた親善試合ドイツ戦の短いレビュー。開始7分後にはすでに2-0、あとは流して結局4-1という圧勝でした。

こんなに強くていいのか、というよりも、ドイツがこんなに弱くて大丈夫か、という気持ちになったのを覚えています。その印象は本大会のグループリーグ初戦でもまったく変わらなかったわけですが、最終的にはリアリズム方面に修正を重ねて、ベスト4までたどり着くことになります。

レーヴ監督になってからの2年間は、ちゃんと試合を見る機会が一度もなかったのですが(イタリアでは他国の代表戦はめったに放送されません)、ユーロではどんなチームになっているのか。ドローも悪くないし、隠れた優勝候補かもしれないという予感(根拠薄弱)がしているのですが。

ちなみに、このドイツとの親善試合に関しては、こんなエピソードもありました。

bar

「今日はイタリアにいい勉強をさせてもらった。これだけ経験豊富なチーム相手にミスを連発し、開始7分で2-0になってしまってはお手上げだ」

試合後の会見、流ちょうなイタリア語でこう語ったのはドイツのクリンスマン監督。その言葉が示す通り、まったく一方的な試合だった。

トッティ、ザンブロッタ、ガットゥーゾというレギュラー3人を怪我で欠いたイタリアは、やはりトッティが不在だった11月のオランダ戦と同様の4-3-3でスタート。前線は、トーニ、ジラルディーノの“Wセンターフォワード”をデル・ピエーロが左サイドから支えるやや変則的な3トップである。

序盤からボールを支配して主導権を握ると、4分にはFKからのこぼれ球をジラルディーノが押し込み1-0、その3分後には、絵に描いたようなカウンターからジラルディーノが並走するトーニにラストパスを送り、楽々押し込んで2-0。あまりにあっけなく試合を決める。

若手を積極的に登用したドイツは、伝統にあえて反するがごとく、まったくロングボールを使わず、最終ラインからグラウンダーのパスをつないで攻撃を組み立てようと試みる。しかし残念ながら足下の技術がついて行かないため展開が遅く、ボールを敵陣深く運ぶ前に悪い形で奪われて、イタリアの逆襲を浴びるという繰り返し。クリンスマン監督のやりたいサッカーはわかるが、ちょっとお国柄に合わない、というか、何よりも人材がついてこない印象である。

前半半ばに10分間ほど、やや勢いに乗りかけた時間帯もあったが、珍しく押し込んだ場面から生まれたダイスラーのシュートも、ブッフォンという壁に阻まれる。逆に39分には、CKからの流れでカモラネージが上げたクロスをデ・ロッシが頭で叩き込み3-0。

後半も流れは変わらず、57分にはFW陣のしんがりを切ってデル・ピエーロがゴールを決める。リッピ監督は4-0になった後、FWジラルディーノを下げてMFペロッタを投入して4-4-2にシステムを変更。さらに10分後には、ピルロを下げて同じMFのバローネを入れ、デル・ピエーロを左サイドに下げて4-5-1の布陣とした。

――と書くと、イタリア伝統の守り倒し戦略のように見えるかもしれないが、実際には決してそんなことはない。主導権を渡すことなく試合をコントロールして、リスクを冒さず手仕舞いするという、リッピ監督らしい成熟した戦いぶりだった。

イタリアにとっては、11月のオランダ戦(アウェーで3-1)に続き大きな自信となったことは間違いない。でも、こんなに順調な仕上がりだと逆に本番が怖いような気も……。□

(2006年3月1日/初出:『El Golazo』)

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。