「イタリア代表の歩み」シリーズ(?)その5は、ワールドカップまであと1ヶ月を切った段階での、イタリア代表をめぐる状況をまとめたテキスト。23人の招集メンバーが発表になった時にそれを伝えた原稿もオマケでつけておきます。次回からは、ワールドカップでの歩みを1戦1戦振り返って行く予定。全試合、『エル・ゴラッソ』にプレビューとレビューを寄せたので、それをメインに。

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本番まであと1ヶ月あまりとなった今も、イタリアは“ワールドカップモード”に入っていない。

5月初めに勃発し、おそらくカルチョ史上稀に見る一大疑獄に発展することは必至と見られる「モッジ・スキャンダル」(文末の注参照)が、サッカー界のみならず世間一般までを騒然とさせていることも、大きな理由のひとつではある。

しかしもうひとつ、今回は珍しく、アズーリをめぐって世論をまっぷたつに割るような論争の種が見当たらない、という事実も大きい。ひとことでいうと“燃料”が足りないのだ。

これまでイタリアでは、ワールドカップやユーロを目前にすると、必ず何かしらの大論争が沸き起こるのが常だった。最もよくあるのは、招集メンバーを巡る議論だ。フランス98と日韓2002、過去2回のワールドカップでは、「ロベルト・バッジョを代表に呼ぶか呼ばないか」が、世論を盛り上げる最大の“燃料”だった。

2年前のユーロ04でも、ジョヴァンニ・トラパットーニ監督(当時)が、パルマで売り出し中だったアルベルト・ジラルディーノを招集しなかったことを巡り、激しい論争が展開されたものだ。ところが今回はそれがない。

マルチェッロ・リッピ監督は、以前から「招集メンバーについて、私ははっきりした考えを持っている。迷いはほとんどない」と明言していた。事実、23人のうち17-18人には、もう何ヶ月も前から当確サインがついている。

ただ実のところ、残るいくつかのポストを巡っては、大きな議論を呼び起こしかねない火種もないわけではなかった。リッピは、もはや肉体的な衰えは明らかだと誰もが見ていたクリスティアン・ヴィエーリ(モナコ)について、常々「チームに欠かせない重要な選手。故障していなければ23人に入ってくる」と語る一方で、フィリッポ・インザーギ(ミラン)の招集には積極的ではなかった。

また、ユーロ04で唯一明るい材料をアズーリにもたらしたアントニオ・カッサーノも、レアル・マドリード移籍後の活躍次第では、再び代表候補に浮上してくる可能性があった。リッピは、表向きは「カッサーノのようなタレントは重要な存在」と言いながら、実際にはそのトラブルメーカーぶりを嫌っており、シーズン前半にはローマのスパレッティ監督に「このまま試合に出さないでおいてくれると、私の悩みがひとつ減るので有り難い」と漏らしていたらしい。

ところが幸か不幸か、リッピご執心のヴィエーリは、膝の故障で手術を受けることになり、代表招集の可能性が自動的に消滅してしまった。一方、インザーギはシーズン後半に復帰するとゴールを量産してマスコミを味方につけ、5月初めの代表候補合宿でも「ボクは監督の決定に従わないエゴイストなんかじゃない」とアピールして、23人のメンバー入りをほぼ確実にした。

カッサーノはカッサーノで、移籍したレアルでも控えの座から抜け出すことができず、スペインのマスコミからデブ呼ばわりされて嘲笑を浴びるなど、復活のきっかけを掴むことができないまま。リッピも「彼とはもう話すべきことを話した」と、今回は招集の可能性がないことをはっきりと匂わせている。

最終メンバー決定を巡る最大の火種になるはずだった2人が、共に“自滅”してしまったことで、リッピが迷う材料も、世間が議論を戦わせるための“燃料”も、ほとんど消えてしまったというわけだ。

2月19日に左足首を骨折して、本番に間に合うかどうか復帰が危ぶまれていたエースのフランチェスコ・トッティ(ローマ)も、順調な回復を見せており、5月10日のコッパ・イタリア決勝で10分間とはいえピッチへの復帰を果たしている。「コンディションはまだ50%」というのが本人の弁だが、開幕まではあと1ヶ月あり、招集は確実である。

さて、イタリアといえば“カテナッチョ”、つまりがっちり守りを固めてカウンターでもぎ取った虎の子の1点を守り切る守備的なサッカーが伝統、というのが、世界的な通り相場になっている。しかしリッピ監督は、2年前の就任当初から「相手に合わせるサッカーはしない。常に主導権を握って自分たちのサッカーをするチームを目指す」と“脱カテナッチョ路線”を打ち出してきた。

昨年9月には「どんな相手に対しても3人のアタッカーを起用する。今や、強豪国はどこもそうしている。イタリアがそれをしない理由はない」と明言、これまでのアズーリとははっきりと異なる、攻撃的な“前輪駆動”のチームを作り上げた。

リッピのこの路線に対して、楽なグループで格下との対戦が続いたワールドカップ予選の間は、マスコミの間で賛否両論があったことも事実だ。世論に最も大きな影響力を持つ国営放送局RAIのオピニオニスト、ジョルジョ・トザッティは当時、次のような警鐘を鳴らしていた。

「格下相手ならいいが、強豪相手に3トップは前がかりに過ぎる。アズーリは中盤にもピルロ、カモラネージという攻撃志向の強い選手を配しており、守備的なMFはガットゥーゾひとり。これでブラジルの攻撃を食い止められるのか。4-4-2の方がずっとバランスがいいのではないか」

しかしこうした、“勝つ”ことよりも“負けない”ことを重視するイタリアサッカー伝統のメンタリティに根ざした保守的な慎重論も、11月にアウェーでオランダを3-1で、3月にはドイツをホームで4-1と下し、しかもそのスコア以上に内容的に、非常に説得力のある試合を見せたことで、すっかり影を潜めた感がある。

いずれの試合でもアズーリは、立ち上がりからボールを支配して主導権を握り、決定機をものにしてリードを奪った後の後半も、最後まで受けに回ることなく、攻撃的な姿勢を貫いて勝利をもぎ取った。オランダ戦後の会見で、指揮官はこう語ったものだ。

「手強い相手だった。しかし我々は、攻め込まれてもすぐに押し返し、最後まで防戦一方になることなく戦い切ることができた。勝ったことはもちろんだが、それ以上に、どんな相手とでも攻撃的なスピリットを持って戦うことができるという自信を手に入れたことに満足している。もちろん、過信は禁物だがね」

トラパットーニ時代には、引き分けではなく勝利が必要とされる試合で、1点先制して優位に立ちながら、あまりに早く追加点の可能性を放棄して守勢に回った揚げ句、土壇場で失点を喫してすべてをふいにしてしまう――という形で敗退を喫するのがイタリアだった。だが、少なくともここまでの戦いぶりを見る限り、リッピが率いる現在のアズーリは、その限界を乗り越えたように見える。

日韓02、ユーロ04と、2大会続けて不甲斐ない敗退を喫しているだけに、イタリア国民がこのワールドカップにかける期待は大きい。そしてリッピは、その期待から目を背けることなく、率直にこう語る。

「優勝候補の筆頭は誰が見てもブラジルだ。しかし我々も、アルゼンチン、ドイツ、フランス、イングランドと共に、優勝を狙えるレベルにある。少なくとも、ブラジルを含めてどの国とも、互角に戦うことができると確信している。これは過信などではなく、シンプルなリアリズムだ。私が怖れているのは、怪我だけだ」

冒頭で取り上げた「モッジ・スキャンダル」は、ワールドカップに赴くイタリア選手団の団長を務めるはずだったサッカー協会副会長のインノチェンツォ・マッツィーニ、そして会長のフランコ・カッラーロの辞任という、のっぴきならぬ事態までもたらしているのだが、その影響が何らかの形でアズーリに及ぶと見る向きは、今のところ明らかな少数派である。

というよりもそれは、このスキャンダルをアズーリやワールドカップとは切り離しておきたい、という願望の表れであるように見える。

5月15日の最終メンバー発表を前にしたマスコミと世論は、今のところ期待と楽観に満ちている。最近よく引き合いに出される次のようなエピソードが、今の気分を最もよく表しているかもしれない。

70年メキシコ大会に始まって、82年スペイン大会、94年アメリカ大会と、アズーリは12年ごとにワールドカップの決勝を戦っている。この計算で行けば、今度のドイツ大会でも……。
 
注)トリノ、ナポリ、ローマの検察局による、電話傍聴を含む内偵捜査により、ユヴェントスのゼネラルディレクター、ルチアーノ・モッジが、審判や中小クラブの会長と癒着して、ユーヴェに有利な状況を作りだすよう圧力をかける「モッジ・システム」と呼ばれる人脈をサッカー界に張り巡らせ、隠然たる影響力を行使していたことが明らかになった。

(2006年5月12日/初出:『STARsoccer』)

イタリア代表:予想通りの23人

5月15日午後4時30分、マルチェッロ・リッピ監督は、イタリア代表23人の最終メンバーと、怪我など不慮の事態に備えたリザーブメンバー4人、計27人を発表した(リストは文末)。

顔ぶれは発表前から予想されていた通りで、サプライズはまったくなかったといっていいだろう。リッピ監督は「どんな相手に対しても3人のアタッカーをピッチに送って戦う」と、攻撃的な布陣で大会に臨むことをかねてから明らかにしている。今回選出されたメンバーも、基本的には4-3-3(4-3-1-2)の各ポジションに2人ずつ、という原則に基づいた構成になっている。MFが6人と標準からすると少なく、FWが6人と逆に多くなっているのもそのためだ。

リッピ監督の構想の中には当初、ヴィエーリ(モナコ)、カッサーノ(レアル・マドリード)という2人のFWも入っていた。ミランでほとんど出場機会を得られず、冬のマーケットでモナコに移籍したヴィエーリは、もはや衰えが目立つという評価が一般的だが、リッピの評価は高く、招集の意向をはっきりと表明していた。しかし、モナコに移籍してからも故障がちで、招集できるコンディションではなかった。

一方のカッサーノは、2年前のユーロ2004で活躍したのを最後に、この2シーズンはピッチ上よりも、ピッチの外でのトラブルメーカーぶりばかりが目立っていた。レアルへの移籍で心機一転を図れれば、代表復帰の目も十分にあったが、活躍らしい活躍ができず、地元のマスコミからデブ呼ばわりされて笑いものにされる始末。まずは、持てる実力をコンスタントに発揮できる環境を作ることが先決だろう。

このふたりが候補からも外れ、代表に呼ぶ、呼ばないが大きな議論の種になるような選手がいなくなったこともあり(ロベルト・バッジョも引退したことだし)、今回の代表選考は、近年になく波乱の少ないものになった。

予想されるレギュラーの顔ぶれも、ほぼ固まっている。
GK:ブッフォン
DF:ザンブロッタ、ネスタ、カンナヴァーロ、グロッソ
MF:カモラネージ(ガットゥーゾ)、ピルロ、デ・ロッシ
FW:トーニ、ジラルディーノ、デル・ピエーロ(トッティ)

前線に関しては、左足の骨折から復帰したばかりのトッティが、どこまでコンディションを取り戻せるかがポイント。中盤は、上に挙げた4人のうちピルロを除く3人が、2つのポストを争う形になるだろう。

今、イタリアサッカー界は、ユヴェントス絡みの「モッジ・スキャンダル」で大騒ぎになっており、代表の話題も霞んでいる感がある。しかしこの状況は、見方によってはプラスだ。マスコミの興味が分散する分、必要以上に騒がれず落ち着いて大会に臨む準備ができるからだ。

戦力的には、優勝を狙えるだけのクオリティを備えている。守りに入って墓穴を掘った日韓2002、ユーロ2004の失敗を繰り返さなければ、アズーリが大会の主役になる可能性は十分にある。
 
GK:ブッフォン(ユヴェントス)、ペルッツィ(ラツィオ)、アメリア(リヴォルノ)
DF:ザンブロッタ(ユヴェントス)、ネスタ(ミラン)、カンナヴァーロ(ユヴェントス)、グロッソ(パレルモ)、ザッカルド(パレルモ)、バルザーリ(パレルモ)、マテラッツィ(インテル)、オッド(ラツィオ)

MF:カモラネージ(ユヴェントス)、ピルロ(ミラン)、ガットゥーゾ(ミラン)、デ・ロッシ(ローマ)、ペロッタ(ローマ)、バローネ(パレルモ)

FW:トッティ(ローマ)、トーニ(フィオレンティーナ)、デル・ピエーロ(ユヴェントス)、ジラルディーノ(ミラン)、インザーギ(ミラン)、イアクインタ(ウディネーゼ)

リザーブ:デ・サンクティス(GK・ウディネーゼ)、ボネーラ(DF・パルマ)、マルキオンニ(MF・パルマ)、セミオーリ(MF・キエーヴォ)

(2006年5月16日/初出:『El Golazo』)

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。