ユヴェントスのB降格シーズンを追った月イチ連載の6回目。3月末を迎えてそろそろ佳境に入ってきたセリエA昇格争いについてなど。ナポリ、ジェノア、ボローニャという今はセリエAで戦っているクラブの10年前のプロフィールは、なかなか興味深い内容です。この時2位だったピアチェンツァはその後破産・消滅、今はピアチェンツァとプロ・ピアチェンツァという2つのチームがレーガプロ=セリエCに参戦するという、人口10万人足らずの小都市としては異例の事態(事情を説明するとちょっと複雑)になっています。

前回アップしたテキストは連載4回目だったのですが、5回目の原稿を送った数日後にハードディスクが飛ぶという出来事があり、直近のバックアップが取れていなかったために、そのテキストは手元に残っていないのでした。当時はまだwifiで自動バックアップするシステムもなく……。

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前回、ディディエ・デシャン監督に対するマスコミの批判をめぐる話題を取り上げた時に、ミッドウィーク2試合を含む7試合が組まれている3月の動向がポイント、と書いた。ところが、セリエBの3月の日程は、3月21日(水)に組まれていた第30節が5月1日に、25日(日)に組まれていた第31節の一部(ユヴェントス対ナポリを含む)が4月10日に延期となり、結局行われたのは5試合にとどまった。

この延期は、<チームから各国代表に2人以上が招集されたクラブは、代表ウィークと重なる試合の延期をリーグに求めることができる>というルールに則って決められたものだ。

通常、セリエBのクラブで代表レベルの選手がプレーすることは稀であるため、これまでセリエBでは、国際Aマッチウィークにも試合の日程が組まれてきた。しかし今シーズンは、A代表、U-21代表を合わせるとレギュラーの半分に達してしまうユヴェントスの存在があって、9月のリーグ総会で上記のようなルールが定められた経緯がある。

ちなみに、今回代表に招集を受けたのは、デル・ピエーロ、ブッフォン、カモラネージ(イタリアA代表)、ボジノフ(ブルガリアA代表)、コヴァチ(クロアチアA代表)、キエッリーニ、パッラディーノ(イタリアU-21代表)の7人。フランス代表のレイモン・ドメネク監督が、トレゼゲをついに招集メンバーから外したことについては、フランス本国でも様々な議論が沸き起こっているようだ。

さて、前回お伝えしたのは、ホームでクロトーネを5-0と下し、2位ナポリに2ポイント差の首位を保った第24節終了時点まで。その後、セリエBはさらに5試合を消化している。

開幕から3ヶ月後の12月半ばに首位に立って以来、セリエB上位の混戦にからめ捕られてなかなか独走体制を築けなかったユヴェントスだが、この5試合を4勝1敗というペースで駆け抜け、第29節終了時点で、2位ピアチェンツァとの差は5ポイントまで広がった。

5試合の内訳は、ホーム3試合、アウェー2試合。ホームでは、2位に浮上してきた強敵ピアチェンツァを4-0で一蹴したのをはじめ、3試合トータルで10得点、1失点という圧倒的な強さを見せつけたが、アウェーでは、ブレシアに1-3の完敗を喫して、今シーズン2つ目の黒星をつけ、モデナ戦も1-0で勝ちはしたものの、終了間際に相手のオウンゴールが決勝点になっての薄氷の勝利。アウェーになるとパフォーマンスが明らかに低下するという弱点は、今なお克服されていない。

ブレシア戦では、トレゼゲがブレシアのDFサンタクローチェに肘打ちを入れたことが、試合後のTV録画チェックで明らかになり、3試合の出場停止処分が下されている。こうした故意のファウルや審判への暴言による長期出場停止処分は、12月のネドヴェド(5試合)、1月のゼビナ(3試合)に続いてシーズン3人目である。

ネドヴェド、ゼビナ、トレゼゲのように経験豊富なベテランが、こうした軽率な過ちを犯すというのは、一見不思議に思えるかもしれない。しかし、デシャン監督が試合の翌日、この問題について述べた次のようなコメントは、状況をよく説明している。

「選手たちが神経質になるのはある意味で当然のことだ。ユヴェントスは大きなプレッシャーの下で戦うことを運命づけられている。私がプレーしていた当時も今も、それは変わらない。むしろセリエBで戦っているいまの方が、プレッシャーは大きいかもしれない。
ユーヴェが全試合に勝つことが当然だと考え、それを要求してくる人々も、マスコミを含めて少なくない。だから、たった1試合負けただけでも大問題になる。それにセリエBは、テクニックよりもフィジカルと闘争心が優位に立っている激しいリーグだ。すべての選手がそれに慣れているわけではない」

つい1年前までイタリアとヨーロッパの頂点を目指すトップレベルでプレーすることが当然だったプレーヤーにとって、セリエBという(彼らにとっては)明らかに低レベルなリーグでプレーするというのは、別な意味で非常にストレスフルな状況に違いない。

圧倒的な実力差を知っているからこそ手段を選ばず死に物狂いでぶつかってくる相手に対して、常に冷静さを保ちながらプレーするのは、トップレベルでの戦いとは違う意味で大きなプレッシャーだということだ。

そしてそのプレッシャーは、これからの終盤戦、さらに大きくのしかかってくることになる。2位以下に6ポイントという現在のリードをそのまま広げて、セリエA昇格を確実なものにするか、それとも再び混戦に巻き込まれることになるのか、その大きな分かれ目になるのが、4月7日から5月5日までの4週間である。

最初に見た代表ウィーク絡みの2試合に加え、2月のカターニア暴動事件の余波で延期になった1試合も含めた計3試合が4月のミッドウィークに埋め込まれたため、28日間で8試合という、セリエAのビッグクラブ並みのハードな日程を戦わなければならない。しかもその中には、ナポリ、ジェノア、リミニと、混戦の2位争いに絡んでいる強豪との対戦(幸いにしていずれもホーム)が含まれている。

疲労とストレスが蓄積するシーズン終盤の連戦は、どのチームにとっても大きな負担になる。42試合の長丁場であるセリエBの終盤戦は毎年、大ブレーキや大躍進など思いもよらぬサプライズをもたらすのが通例だが、おそらく今シーズンも例外ではないだろう。

常識的に考えれば、実質勝ち点では2位以下にすでに15ポイントの差をつけており、1試合平均勝ち点が2位ピアチェンツァの1.72に対して2.29と、明らかにレベルがひとつ違うペースで走り続けているユーヴェが、ここから大きくスピードダウンすることは考えにくい。

しかし、終わってみるまでは何が起こるかわからないのが、カルチョの恐ろしさである。シーズン終盤に突如失速して、まったく勝ち星が挙げられなくなって首位戦線から脱落したり降格の憂き目に遭ったりしたチームの例は、枚挙にいとまがないのだから。

セリエBのシステムは、1位、2位の2チームがセリエAに自動昇格、3つ目の昇格枠を、3位から6位までの4チームがトーナメント方式のプレーオフで争うという仕組みになっている。戦力とここまでの戦いぶりから見て、2位争いに絡んできそうなチームは、ピアチェンツァ、ナポリ、ジェノア、ボローニャという、読者にもおなじみの4チームに、マントヴァ、リミニという伏兵2チームを加えた6チームまでだろう。

ここで、終盤戦の昇格争いへの興味を掻き立てる意味も含めて、今シーズンの主要な「ライバル」4チームの簡単なプロフィールをご紹介しておくことにしよう。

<ピアチェンツァ>
 90年代後半をセリエAに定着して過ごしたプロヴィンチャの優等生も、02-03シーズンを最後にトップリーグから遠ざかり、これが4シーズン目のセリエB。過去3シーズンはいずれも中位にくすぶっていたが、04-05シーズンに就任して今年が3年目となるジュゼッペ・イアキーニ監督の下、80年代生まれがほとんどという若いチームを、着実に熟成させてきた。今シーズンは、前半戦から安定して首位戦線に絡んでいる。

システムは4-3-3。今シーズンのセリエBには少なくない3トップだが、両SBにCBでもプレーできる守備的な選手を置き、「7人で守って3人で攻める」タイプのソリッドなサッカーを見せる。中盤にはイタリアU-21代表のノチェリーノ、ラッザリ、前線にはセリエAのクラブから注目を集める点取り屋カチアと、生きのいい若手を擁しており、彼らがさらに自信をつけてくると、終盤戦をかき回す台風の目になる可能性もある。

<ナポリ>
 80年代末、あのマラドーナを擁して2度のスクデットとUEFAカップを勝ち取った名門だが、その後は没落の一途をたどり、セリエAは00-01シーズンが最後。04年夏にはクラブが破産し、新会社設立によりセリエC1からの出直しを強いられた。現在のオーナー会長は、映画プロデューサーのアウレリオ・デ・ラウレンティス。

04-05シーズンには昇格に失敗したが、昨シーズンはセリエC1グループBで1位となりセリエBに復帰。今シーズンは昇格1年目にもかかわらず、ドミッツィ、P.カンナヴァーロ(DF)、ダッラ・ボーナ(MF)、ブッキ(FW・昨シーズンはモデナで17得点を挙げセリエB得点王)と、セリエA経験者をでセンターラインを固める大型補強によって、一気にA昇格を狙ってきた。

チームを率いるエディ・レーヤ監督は、結果重視の手堅いサッカーで実績を残してきたベテランであり、今シーズンの戦いぶりも、得点がリーグ8位(33)ながら失点がユーヴェ(19)に次ぐ2位(20)という、非常にディフェンシヴなもの。ここまで12勝のうち8勝が1-0、2失点以上したのが28試合中わずか2試合、敗戦わずかに3というデータが、このチームの強さと限界を物語っている。

<ジェノア>
1893年設立という現存する最古のプロサッカークラブだが、日本のカズがプレーした94-95シーズンを最後に、12年間セリエAから遠ざかっている。2年前のセリエBで1位となりA昇格を決めながら、プレツィオージ会長自らによる買収事件によってセリエC1への降格処分を受けた。昨シーズンはC1グループAで2位となり、プレーオフを経てB昇格。ナポリ同様、大型補強によって昇格1年目のA昇格を狙っている。

ジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督は、ユヴェントスの育成部門で10年間キャリアを積んだ後、セリエBのクロトーネを3シーズン率いた48歳。3-4-3の攻撃サッカーが身上で、その戦いぶりもナポリとは対照的に、得点はユヴェントス(56)に次ぐリーグ2位(44)ながら、失点(33)はリーグ13位という、完全な「前輪駆動」。冬のメルカートでも、ディフェンスを強化するどころか、前線にレオン(レッジーナ)、ディ・ヴァイオ(モナコ)という大物2人を補強するという徹底ぶりだ。

ちなみに、ディ・ヴァイオほどの大物がセリエBを受け入れた背景には、代理人を務めるフェデリコ・パストレッロの父ジャンバッティスタが、1月にジェノアの副会長に就任したという事情がある。パストレッロは、90年代にパルマのゼネラルディレクターを務めた後、97年にヘラス・ヴェローナのオーナー会長となったが、昨年11月にクラブを売却していた。

<ボローニャ>
04-05シーズンにパルマとのプレーオフの末セリエB降格を喫し、オーナーもジュゼッペ・ガッゾーニから、ボローニャのフィエラ(見本市会場)を経営するアルフレード・カッツォーラに変わった。セリエB1年目の昨シーズンは、前半戦に大不振に陥って監督交代を繰り返すドタバタ(ウリヴィエーリ→マンドルリーニ→ウリヴィエーリ)を演じ、後半戦に追い上げたものの8位止まり。

ウリヴィエーリ監督が留任した今シーズンは、GKアントニオーリ(出戻り)、DFブリオスキ、カステッリーニ、MF E.フィリッピーニといったベテラン中心の補強で、平均年齢が高いエキスパート揃いのチームとなっている。相手のFWの枚数によって3-4-3と4-2-3-1を使い分ける柔軟な戦い方を見せる。

いずれにしても攻撃の中心は、昨シーズン25ゴールを挙げたベテランFWベルッチ(今シーズンもここまで14ゴールで、デル・ピエーロに次ぎ得点ランキング2位)と、3-4-3では右サイド、4-2-3-1ではトップ下に入って攻撃を操る若きタレント・メグニ。10代の頃から「ジダン二世」と呼ばれて将来を嘱望されながら、このところやや伸び悩んできたメグニだが、22歳で迎えた今シーズンは、コンスタントに出場機会を得て安定したパフォーマンスを発揮している。


 
ピッチ上での戦いが続く一方、クラブレベルでも来シーズン以降に向けたプロジェクトが着実に進みつつある。前回取り上げたスタジアムのプロジェクトも含めて、長期的なクラブ経営上最大の課題となっていたのは、セリエB降格により大幅な収入減を被ることになった財政面の基盤強化だった。

以前にも取り上げた通り、今シーズンのユヴェントスは、レアル・マドリード、バルセロナに次いで欧州3位だった2億5100万ユーロという昨シーズンの売上高が、ほぼ半減に近い大幅な減少を被る見通しとなっている。

しかも昨シーズンの決算は、これだけの売上高にもかかわらずマイナス3545万ユーロという大幅な赤字。今シーズンは、人件費削減その他によるコストダウンも見込まれるとはいえ、売上高の減少をカバーするにはほど遠い。したがって、昨シーズン以上の大幅な赤字は避けられない状況となっている。

毎年の決算が大幅な赤字となるのは、ユヴェントスに限った話ではなく、ミランやインテルにしても同じこと。にもかかわらず、ミラノの両クラブが債務超過に陥らないのは、オーナーであるベルルスコーニやモラッティが、私財を投じてクラブの資本金を積み増しし、赤字の穴埋めをしてきたからだ。

ユヴェントスは過去10年以上、オーナーが懐を痛めて資金注入を行うという事態を避けてきたわけだが(これは旧経営陣、とりわけアントニオ・ジラウドの手腕の賜物である)、B降格という非常事態に陥った今回ばかりは、アニエッリ家の「財政出動」に頼らざるを得ないことは明らかだった。

それが具体化したのが、3月14日に発表された、1億500万ユーロという巨額の増資(実施は5月の予定)である。同時に、かねてから注目されていた中期経営計画の大まかな骨子も明らかにされている。

その内容は、1)ヨーロッパのトップレベルで戦えるチーム作り、2)ユヴェントスのブランド価値をさらに高める新たなマーケティング戦略、3)財務内容の安定と健全化——という3本柱。

今回の増資は、この中の3)にあたるもので、自己資本比率を大幅に高めて、今シーズン見込まれる赤字のかなりの部分を補填すると共に、最大の目標であるトップレベルのチーム作りに必要なチーム補強計画の遂行に必要な費用を賄えるだけの金額、と説明されている。

ユヴェントスの発表に、具体的な来シーズンの補強予算は明記されていないが、マスコミ報道などの情報を総合すると、4000-4500万ユーロというのが、最も信憑性の高い数字のようだ。

この増資が発表されて以降、イタリアのマスコミ、そしてサポーターの間では、「A昇格1年目に即スクデットを狙える大型補強」に対する期待が高まっている。正確には、マスコミがそうした期待を煽るような報道姿勢を打ち出しつつあると言った方がいいかもしれない。

補強のターゲットとして挙げられる名前も、ジェラード(リヴァプール)、ランパード(チェルシー)から、アドリアーノ(インテル)、ジラルディーノ(ミラン)まで、移籍金2000〜3000億ユーロクラスの大物ばかり。

しかし、単純に計算してもわかる通り、ユーヴェの補強予算は、これだけの大物を複数獲得できるほど多くはない。それどころか、最終ラインから前線まで、レギュラークラスを少なくとも4、5人は獲得しなければならないという事情を考えると、1人当たりに割ける予算は、たとえ重要度に応じて傾斜配分するにしても、それほど大きくはない。

そうした事情から、ブッフォン、トレゼゲ、カモラネージのうち1人あるいは2人を「犠牲」にして、さらなる補強予算を工面しなければならない、という議論も出てくるわけだが、ブッフォンはもちろんトレゼゲにしても、たとえ手放したところで同じレベルのワールドクラスを獲得するのは簡単なことではないだろう。

そう考えると、マスコミの「煽り」とは別に、ユヴェントスの来シーズンに向けた補強は、マスコミやサポーターが喜ぶビッグネームよりもむしろ「名より実を取る」タイプの、地味だが質の高いプレーヤーが中心になる可能性の方が、ずっと高いと見ることができる。

事実、デシャン監督は、クラブ公式のTV局である『ユーヴェチャンネル』のインタビューで、「昇格1年目でスクデットというのは不可能。我々よりも戦力が整っているチームはインテル、ミラン、ローマとたくさんある。彼らのアドバンテージは非常に大きい。忍耐が必要だ」と、過熱する期待にあえて水を差すようなコメントを口にしている。

オーナーであるアニエッリ家の後継者ジョン・エルカンも、クラブの経営責任者であるジャン・クロード・ブラン代表取締役も、かねてから「偉大なプレーヤーとクラブ生え抜きの選手をミックスしながら、トップレベルの競争力を保ち続けるチームを作るという、新たな経営モデルを提示したい」と語っており、金の力に飽かせてワールドクラスを買い集めるというやり方は、はっきりと否定してきた。

現実的に考えれば、昇格1年目の目標は、ヨーロッパの舞台、すなわちチャンピオンズリーグへの足がかりになる4位以内を確保し翌年以降の土台を作るところまでだろう。デシャン監督の言葉通り「忍耐が必要」なのである。

おそらく来シーズンのユヴェントスが抱えるであろう最大の問題は、ユーヴェ自身ではなく彼らを取り巻くマスコミやサポーターが、どれだけその忍耐を持てるか、ということになりそうである。■

(2007年3月29日/初出:『ワールドサッカーダイジェスト』)

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片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。