セリエBに降格した06-07シーズンのユヴェントスを追った連載の4回目。セリエBの首位に立った時点ですでに、翌シーズンのセリエAでスクデットを争うための補強について話している、というのは何ともアブノーマルな状況ではあります。10年前の話なので、出てくるのは今や忘れ去られた名前の方が多いのですが、それもまた一興。
ちなみにマルキジオ、パーロと並ぶ「20代前半の生え抜き組」として紹介されているMFフェリーチェ・ピッコロは、その後エンポリ、キエーヴォを経てルーマニアのCFRクルージュで4年間を過ごすという数奇なキャリアを送った末、今シーズンはセリエC・グループAで戦うわがアレッサンドリアでCBとしてプレーしています。そのアレッサンドリアが、前半戦終了時点で2位クレモネーゼに10ポイント差で首位に立っていたにもかかわらず、終盤戦の信じられない失速で2位に転落、45年ぶりのセリエB昇格を逃してしまったのが情けないところなのですが……。

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12月12日のヴェローナ戦(15節)に勝利し、首位タイに追いついてから1ヶ月あまり。さらに5試合を消化したユヴェントスは、シーズンの折り返し点を目前に控えた20節終了時点で、2位ナポリに2ポイント、3位ジェノアに3ポイントの差をつけて、セリエBの単独首位に立っている。

こう書くと、すべてが順調に進んでいるように見えるかもしれないが、必ずしもそうとはいえない側面もある。それは、数字を検証してみても明らかだ。

マイナス17ポイントという重いペナルティを背負ってスタートしたシーズンの序盤戦、ユヴェントスは初戦こそリミニに引き分けたものの、その後は破竹の8連勝を果たして、ほぼ最短距離でマイナスの“負債”を完済、10月29日に行われたCONIの審議委員会でペナルティがマイナス17からマイナス9へ8ポイントも軽減されたおかげもあって、猛烈な勢いで順位表を駆け登った。最初の10試合の成績は8勝2分0敗(勝ち点26/19得点2失点)という圧倒的なものだった。

ところが、その後の10試合(11-20節)は6勝3分1敗(勝ち点21/15得点・6失点)とスローダウン。とりわけアウェーでは直近5試合が1勝3分1敗(4得点・4失点)ともたつきが目立っている。

2007年の初戦となったアウェーのマントヴァ戦では、ついにシーズン初黒星も喫した。首位に並びかけた後、そのままの勢いで一気に抜き去るかと思いきや、僅か5ポイントの間に7チームが固まる混戦模様の首位争いに搦め捕られた格好で、やや足踏み状態が続いているのが現状である。

その背景には、シーズンが深まるにつれて主力に故障者が相次いだという事実がある。開幕からの4ヶ月で、レギュラー組の中で一度も故障による戦線離脱がなく、ほぼフル出場しているのは、中盤のカモラネージとパーロ、ディフェンスのビリンデッリとバルザレッティの計4人くらい。さらに、チームの大黒柱であるMFネドヴェドが、14節ジェノア戦でファリーナ主審に暴言を吐き、5試合の出場停止処分を受けたのも痛かった。

初黒星を喫したマントヴァ戦も、故障者と出場停止で中盤の人数が揃わず、デシャン監督は、デル・ピエーロをトップ下に置き、マルキジオ、ピッコロ、パーロという20代前半の生え抜き組で3センターハーフの中盤を構成するという苦しいやりくりを強いられている。

シーズン序盤のようにフルメンバーが揃っていれば、ナポリ、ジェノア、ボローニャといった昇格争いのライバルと比べても圧倒的な戦力差を誇るユヴェントスだが、レギュラーが4人、5人と欠ければ、さすがにその強さを保つことは難しい。この連載でも以前から指摘しているように、特に中盤とディフェンスに関しては、その選手層は決して厚いとはいえないからだ。

とはいうものの、続出する故障者に苦しめられながらも、ライバルと変わらぬペースで勝ち点を積み重ねていることは事実。序盤戦のように圧倒的な優位を見せつけることは難しいにしても、今後ユーヴェが首位戦線から遅れを取りセリエA昇格ラインから遠ざかる可能性は、それ以上に低いように見える。

シーズン前半を通したここまでの戦いぶりは、ディディエ・デシャン監督とアレッシオ・セッコSDに、今シーズンのみならず、セリエA昇格を前提とした来シーズンの戦力構想について、重要な判断材料を提供してきた。

事実、ユヴェントスはすでに、1月に再開したこの冬のメルカートにおいて、来シーズンを見据えたチーム強化に向けて積極的な動きを見せている。これは、すでに来期セリエAで戦うべきチームに関して、すでに明確な構想が確立されていることを意味している。

その具体的なチーム構想に話を進める前に、まずはユヴェントスがクラブとして、どのような中期ビジョンを持っているかを、改めて確認しておく必要があるだろう。

前回取り上げた通り、「サッカー界のフェラーリになる」(ジャン・クロード・ブラン代表取締役)というのが、復活に向けたスローガン。1年でも早くヨーロッパの舞台で頂点を争える立場に返り咲くためにも、セリエA復帰1年目から優勝争いに絡めるだけの戦力を備えたチームを作りたいというのが、コボッリ・ジーリ会長以下、首脳陣が繰り返し口にしている基本姿勢である。

スクデットはともかくとして、ヨーロッパの舞台に復帰する上では、チャンピオンズリーグ出場権、すなわち4位以内のポジションを確保することが不可欠だ。それは何よりも、チャンピオンズリーグというコンペティションが、クラブに年間2000-3000万ユーロ(30〜45億円)の収入を保証してくれるドル箱だからだ。

チームの戦力は、クラブの資金力と非常に直接的な相関関係にある。ユヴェントスというチームがヨーロッパの頂点を目指す地位に返り咲くためには、ユヴェントスというクラブが各国のビッグクラブに対抗できるだけの資金力を取り戻すことが不可欠なのである。

その意味において、現在のユーヴェは大きなハンディキャップを背負っている。それはほかでもない、B降格に伴う困難な財政事情である。

セリエAとチャンピオンズリーグで戦った昨シーズン、ユーヴェの売上高は2億5100万ユーロ(約395億円)と、ヨーロッパでも5本の指に入る数字だった。

しかし、セリエBに降格しヨーロッパの舞台からも遠ざかった今シーズン、その売上高はほぼ半減して1億3000万ユーロ(約200億円)まで下がることが見込まれている。入場料収入からTV放映権料、スポンサーフィー、そしてUEFAからの分配金まで、すべてが大幅に減少することは避けられない。

問題は、これだけ収入が減少するにもかかわらず、支出、すなわち人件費をはじめとするコストはあまり減っていないことである。今シーズンの第1四半期(7〜9月)の収支報告書を見ると、売上高が実質47%減少しているのに対し、支出は14%減でしかない。

したがって、今シーズン末の決算が大幅な赤字となることは避けられない。仮に、今シーズンの売上高が1億3000万ユーロ前後、支出が昨シーズンの20%減(約2億ユーロ)と想定して単純計算しても、7000万ユーロ(約109億円)という巨額の赤字が出る勘定になるのだ。

ユヴェントスはこの状況を予測し、昨シーズン末の決算においてすでに、今シーズンの赤字を補填するための内部留保として、2500万ユーロ(約39億円)という特別損失を計上している。しかしそれも、赤字の一部を埋める以上の役目は果たさない。

来シーズンのセリエAで、ユヴェントスがすぐに優勝を争えるような戦力を整えるためには、それなりの金額を投じてチームを補強することが不可欠だ。しかし、数千万ユーロもの赤字を抱えているクラブに、ワールドクラスのトッププレーヤーを複数補強できるだけの資金的余裕があるはずもない。

それではどうするのか。唯一の策は、オーナーであるアニエッリ家が財布を開いて、そのための資金を拠出することである。

前回触れたように、アニエッリ家はすでにユヴェントス再建のために投資を行う準備があることを表明している。また、コボッリ・ジーリ会長は、当面の決算が赤字になったとしても、トップチームの強化には必要な資金を投下するつもりだ、それがユーヴェが頂点に戻るための唯一の道、とかねてから言明している。

コボッリ・ジーリ会長とブラン代表取締役が策定した向こう5年間の経営プラン・中期経営計画は、本稿執筆時点ではまだ公になっていないが、漏れ伝わってくる情報によれば、ユヴェントスの筆頭株主であるアニエッリ家の持ち株会社Ifilに対して、来シーズンのための選手獲得予算に3000〜3500万ユーロ(約47〜54億円)、さらにユーロ2012(イタリアが開催国に立候補中)に向けたスタディオ・デッレ・アルピの改修費用に2000万ユーロ(約31億円)、合計で5000〜5500万ユーロ(約78〜85億円)の投資を要請する構想になっているとされる。ただし、アニエッリ家とIfilが、最終的にこの経営計画をどう評価し、要請された金額に「満額回答」を出すかどうかは、まだわからない状況である。

ここから推測できるのは、来シーズンのセリエA昇格に向けたユヴェントスの強化予算は、多くとも3500万ユーロ(約54億円)にとどまるだろうということだ。

参考までにいうと、今シーズン、レアル・マドリードが、ファン・ニステルローイ、ディアッラ、カンナヴァーロ、エメルソンの4人(レジェスはバプティスタとの等価交換)を補強するために投下した資金は、およそ6400万ユーロ(約100億円)、さらにこの冬のメルカートでは、ガーゴ、イグアイン、マルセロの3人に約4000万ユーロ(約62億円)を追加投資している。それと比べれば、ユーヴェの補強予算は決して潤沢とはいえないことがわかるだろう。

以下、ここまで見てきたような状況を踏まえた上で、ユヴェントスの来シーズンに向けた構想を検証していくことにしよう。

コボッリ・ジーリ会長とブラン代表取締役は、「まず大前提になるのは、現在の主力選手を来シーズンもチームに引き留めること」と繰り返している。ここで主力選手というのは、今シーズンあえてユーヴェに残った5人のビッグネーム、すなわちデル・ピエーロ、ネドヴェド、トレゼゲ、ブッフォン、カモラネージを指している。

キャリアの最終局面を迎え、ビアンコネーロで引退することを明言している最初の2人に関しては、残留は100%確実といっていい。しかし、なかば強制的にユーヴェに残りセリエBでプレーすることを強いられたトレゼゲとカモラネージ、そして世界中のビッグクラブから引く手あまたのブッフォンの3人にとって、さらにもう1年、チャンピオンズリーグの大舞台から遠ざかってプレーすることは、キャリア上大きな機会損失である。

彼らに残留を説得するためには、向こう数年間のユヴェントスが、他のビッグクラブとあらゆる意味で遜色のない活躍の舞台であることを、具体的な形で示さなければならない。そのためには、1)来シーズンにセリエAで主役として優勝を争えるだけの戦力を整える、2)続く08-09シーズンには、チャンピオンズリーグでも十分な競争力を発揮できるところまで更なる強化を約束する、という2点が不可欠だろう。

それを誰よりも自覚しているユーヴェは、冬のメルカート再開とともに積極的に動き出し、他のビッグクラブに先んじて、来シーズンに向けた布石を着実に打っている。

セッコSDがこの冬のメルカートでまず取り組んだのは、今シーズン末に契約満了でフリーになる有力選手にピンポイントでアプローチし、来シーズンからの契約について合意を取り付けることだった。

チームの中核を担うようなワールドクラスを移籍金ゼロで獲得することは不可能だが、特に年俸の水準が相対的に低いドイツ、オランダ、フランスといった国々には、即戦力として獲得に値する地味ながら質の高い人材が少なくない。

実際ユーヴェはすでに、サイドのポジションなら中盤、ディフェンスとも左右両方をこなせるユーティリティプレーヤー、サリハミジッチ(30・バイエルン/ボスニア代表)、アヤックスとチェコ代表でCBと右SBをこなすグリゲラ(26)という質実剛健なプレーヤー2人に、レンヌの若手CBジャック・ファティ(22)を加えた3人の獲得に成功。さらに、ドイツ代表CBメツェルダー(26・ボルシア・ドルトムント)、バイエルンでプレーするペルー代表FWピサーロ(30)、そして何とバルセロナでくすぶっていたセカンドトップ、サヴィオラ(アルゼンチン代表)にまで食指を伸ばしている。

契約切れのプレーヤーを移籍金ゼロで獲得するのは、経済的に見れば最も効率のいい補強の手段である。ただし、クラブに魅力がなければ、グリゲラやサリハミジッチのように引く手あまたで質の高いプレーヤーを獲得することは難しい。その点ではユヴェントスの“ブランド力”がモノを言ったといえるだろう。

もちろんこれらの補強は、戦力の絶対レベルを高めるというよりも、そこに厚みをもたらすタイプのそれであり、あくまで補助的なものでしかない。来シーズンに向けた補強の最大のポイントは、現在のレギュラー陣を上回る実力を備えたキープレーヤーを、どのポジションに何人獲得するか(できるか)である。

その点で、デシャン監督が最も高い優先順位を置いているのは、最終ラインの強化である。右SBのゼビナは監督との関係が悪く、放出(ミラン?)が確実視されている。CBの軸として獲得したフランス代表ブームソンは、期待されたほどのパフォーマンスを発揮できず、来シーズンはリザーブに格下げされる可能性が濃厚。ペアを組んでいるロベルト・コヴァチも、監督の評価は高くないようだ。

左SBは、キエッリーニ、バルザレッティという若手がポジションを争っているが、共にセリエAのトップレベルで戦うには、まだ力不足という評価。したがって、来シーズンは少なくとも、右SBとCB2枚にレギュラー級のプレーヤーを補強することが急務である。獲得済のグリゲラに加えて、マスコミレベルでは、メツェルダー、バルザーリ(パレルモ)、ジヴェ(モナコ)、サムエル(インテル)といった名前が候補として挙がっている。

DFラインに次いで補強が求められるのが中盤センター。現在は、ボール奪取専業のC.ザネッティと、生え抜きの若きレジスタ・パーロというコンビだが、ミラン、インテル、ローマといった来期のライバルと比較すると、質的に見劣りすることは否定できない。

イングランドのマスコミからは、ユーヴェがジェラード(リヴァプール)獲得に4500万ユーロを準備している、というニュースが流れてきているが、この噂の信憑性はともかく、ワールドクラスのセントラルMFを少なくとも1人必要としていることは確かである。

年末から年明けにかけては、マスチェラーノ(ウェストハム/アルゼンチン代表)の名前が本命として囁かれてきたが、どうやらリヴァプール行きが濃厚で獲得は望み薄。ここに来て、レアル・マドリーに失望していると伝えられるエメルソンの出戻りが話題に上っている。その他、マヴバ(ボルドー)、シッソコ(リヴァプール)といった名前も挙げられているが、ターゲットの絞り込みはまだこれからだろう。

前線に関しては、トレゼゲの去就が最大のポイントになる。セリエAでシーズン20ゴール前後を確実に保証してくれるストライカーは、ヨーロッパ中を見回しても数えるほどしか見当たらない。その中で獲得可能な選手となると、法外な大金を積むのでなければほとんどゼロに近いと言ってもいいだろう。ユーヴェにとって、トレゼゲ残留が第一オプションになるのは、その意味で当然の理である。

しかし、トレゼゲ自身はもう1年チャンピオンズリーグから遠ざかって過ごす意思を持っていない、と見る向きが多いことも事実。現在のユーヴェでは(ブッフォンを除けば)最も高い値札をつけられる選手だけに、もしふさわしい代役が売値よりも安い値段で見つかるのであれば、その差額を決して潤沢とは言えない補強予算に回すことができるという面でも、放出というのも現実的な選択肢ではある。

後釜の候補として現在名前が挙げられているのは、クローゼ(ブレーメン/ドイツ代表)とフンテラール(アヤックス/オランダ代表)。ただし、前者が1500万ユーロ、後者が2000万ユーロと、決して安くはない値札がついている上に、イタリアサッカーへの適性は未知数というリスクもある。ユーヴェにとっては、トレゼゲの引き留めに全力を上げるか、リスクを承知でエースストライカーの世代交代を図るかが、来シーズンに向けた最も大きな思案のしどころとなるだろう。

まだ、構想の全貌をカバーできているわけではないが、紙幅が尽きてしまった。次回改めて、全体像を整理した上で必要な部分を掘り下げていくことにしたい。■

(2007年1月23日/初出:『ワールドサッカーダイジェスト』)

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片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。