「カルチョポリ」でセリエBに降格した06-07のユヴェントスを追ったWSD月イチ連載の2回目。カルチョポリ(当時はカルチョスキャンダルと呼んでいました)の中間総括とか、マルキジオのデビューとか、それなりに興味深いトピックスが入っています。

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前回の本稿で、「3月初旬にはすでに昇格圏内に浮上する」という『コリエーレ・デッロ・スポルト』紙の予測を取り上げ、「現実味の薄い机上の空論」と書いた。ところが、それから1ヶ月が過ぎ、第13節までを消化したセリエBの順位表を見ると、ユヴェントスは勝ち点24で首位ナポリにわずか1ポイント差の2位という位置にいる。11月末の段階で、すでにセリエAに自動昇格できる2位以内に入っているわけだ。

第8節終了時点での19位(勝ち点2)から、第13節終了時の2位(勝ち点24)へ、大き過ぎる飛躍を果たしたその理由は、ピッチの上ではなくその外にある。

10月27日、FIGC(イタリアサッカー協会)の上位団体であるCONI(イタリアオリンピック連盟)に設置された審議委員会の調停結果が出て、ユヴェントスに対する勝ち点剥奪のペナルティが、マイナス17からマイナス9へ、8ポイントも軽減されることが決まったからだ。

このCONI審議委員会は、傘下各競技団体が行ったスポーツ裁判の結果に対する不服申し立てを審査して調停を行う、スポーツ界における最終的な調停機関である。したがって、ここで下された決定は、もはや覆ることはない。今年5月にカルチョスキャンダルが勃発して以来、半年にわたって続いた騒動にも、これで一応の決着がついたことになる。

最終的にユヴェントスが被ることになった、2つのスクデット剥奪、セリエB降格、勝ち点9ポイント剥奪という処分が重いか軽いかについては、議論が分かれるところだろう。

今回のスキャンダルで処分の対象となった6つのクラブ(ユーヴェ、ミラン、ラツィオ、フィオレンティーナ、レッジーナ、アレッツォ)のうち、降格処分を受けたのがユーヴェだけだったという事実に着目して、ユーヴェだけが不当に重い処分を受けたと主張する向きもある。

しかし、検察の捜査資料が明らかにした通り、ユーヴェの旧経営陣は、サッカー界に網の目のように張り巡らされていた「腐敗の構造=モッジ・システム」の発案者であると同時に、首謀者としてその中心に君臨していた。それを考えると、そのシステムの恩恵を受けるにとどまった他のクラブとは、罪の重さが異なるのは当然である。

事実、FIGCが行ったスポーツ裁判の第1審で、他でもないユーヴェのチェーザレ・ザッコーネ弁護士は、「容疑事実から見れば、セリエB降格とペナルティが妥当な処分」とはっきりと認めている。その点から言って、ユーヴェが受けることになった最終的な処分は、軽過ぎるということはあっても、重過ぎるということはないというべきだろう。

それはさておき、カルチョスキャンダルに関わるユヴェントスの対応で最も強調すべきなのは、ユーヴェは処分の対象になった中で唯一、経営陣を総入れ替えし、経営姿勢も大きく改めるなど、自らの罪を認めた上で自浄のための徹底した改革を行い、新たな体制で再出発したクラブだという事実である。

ユーヴェを除く5つのクラブは、スポーツ裁判のプロセスを通して、容疑事実が明らかであるにもかかわらず一貫して罪状を否認して無罪を主張するという、ほとんど「ゴネ得狙い」としか言いようのない反スポーツ的な振る舞いに終始し、当事者として不正行為に関わった経営陣が今なおその座に居座っている。

それと比べれば、ユーヴェの新経営陣、そしてそれを背後で支えるオーナーのアニエッリ家のフェアで真摯な姿勢は、大きな評価に値する。実際、現在のユーヴェは、ユヴェンティーノではない人々からも、以前のようにあからさまな嫌悪や憎悪の対象ではなくなってきている。これが、セリエAに戻ってからも続くのかどうかはわからないが。

 “アヴォカート”ことジャンニ・アニエッリとその弟ウンベルトなき後、30歳の若さでアニエッリ家当主を務めるジョン・エルカン(ジャンニの娘マルゲリータと作家アラン・エルカンの息子)は、「前経営陣のやり方は過去のものになった。このところ何年か、ユーヴェは反感を買う存在でしかなかった上に、人々に微笑みをもたらす存在ですらなかった。これからは企業としてのイメージも変わっていく」と明言している。
 

さて、この辺で話をピッチの上に戻すことにしよう。第9節から第13節まで5試合の成績は、3勝2分(勝ち点11)。第2節のヴィチェンツァ戦から続いてきた連勝は、第10節ナポリ戦(アウェー)での引き分けによって8でストップ、さらに第12節にもエミリアーノ・モンドニコ監督率いるアルビノレッフェと、やはりアウェーで引き分ける波乱があった。

アウェーで2戦連続の引き分け。結果だけ見ると、開幕後の2ヶ月あまりを、勢いに乗って駆け抜けてきたユーヴェも、ここに来てややペースが落ちてきたように見えなくもないが、実際にはそう言い立てるほどの材料があるわけではない。

ナポリ戦は、相手も昇格を狙う強豪であることを考えれば、アウェーでの引き分けは受け入れられる結果。後で見るように、レギュラー5人落ちという緊急事態で試合に臨んだことを考えればなおさらである。それと比べれば、セリエBでも弱小に属するアルビノレッフェとの引き分けは、明らかな取りこぼしのようにも見える。

しかしこれは、前半25分にブッフォンがFWとの1対1でファウルを強いられPK&レッドカードという判定を受けて、残る1時間以上を10人で戦わなければならなかったという事情によるもの。こうした不運がシーズンに何度か起こるのは、どうしたって避けられないものである。

この2引き分けも含めて、13節までの成績が10勝3分0敗、25得点・5失点は共にリーグ1位という圧倒的な強さを誇っているのだから、ここまでの戦いぶりに関してはほぼ満点をつけてもいいのではないだろうか。

最初に見た通り、ペナルティが大幅に“ディスカウント”されたことで、順位的にも、シーズンがまだ3分の1も終わっていない時点ですでに、首位ナポリとわずか1ポイント差の2位という、開幕当初には考えられなかったほどポジティブな状況となっている。ただし、ユーヴェのA昇格はほとんど決まったようなものと考えることができるかどうかとなると話は別である。そう言い切るにはまだまだ時期尚早だろう。

もちろん、このセリエBの中で、ユーヴェの実力が飛び抜けて突出していることに、疑いの余地はない。それは、ここまで13試合の実質勝ち点で、すでにナポリに8ポイントもの差をつけているという事実からも明らかだ。しかし問題は、1試合平均勝ち点2.53(単純計算するとシーズン終了時には3ケタの勝ち点を積み上げている勘定になる)というペースを、今後もずっと保てるとは限らないという点にある。

8連勝という序盤戦の快進撃は、ベストの顔ぶれを見出したデシャン監督が、レギュラーを固定して結果重視の手堅いサッカーを展開したことから生まれた。だが、長いシーズンの間には故障者も出れば、調子を大きく落とす主力選手も出てくる。それをカバーして戦い抜けるだけの選手層の厚さが今シーズンのユーヴェにあるのか、そのひとつの試金石となったのが、スタディオ・サン・パオロに6万人近い観客を集め、かつてのマラドーナ対プラティニの時代を彷彿とさせる盛り上がりを見せたナポリ戦だった。

この日のユーヴェは、トレゼゲ、ブームソン、コヴァチ、マルキオンニ、ジャンニケッダの5人を故障で、さらにネドヴェドまでも風邪による発熱で欠くという困難な状況で試合に臨むことを強いられた。プレシーズンキャンプ以来、一貫して4-4-2で通してきたデシャン監督だが、中盤を3センターハーフとし、1トップのザラジェータをカモラネージとデル・ピエーロが1.5列目から支える4-3-2-1へと、初めてシステムに手をつけることになった。

この日のスターター11人は次の通り。GKブッフォン、DFビリンデッリ、レグロッタリエ、キエッリーニ、バルザレッティ、MFザネッティ、マルキジオ、パーロ、OMFカモラネージ、デル・ピエーロ、FWザラジェータ。

レギュラーCB2人が不在の最終ラインは、左SBが本職のキエッリーニを中央にコンバートして何とか折り合いをつけた格好だった。右SBのレギュラーとなってしかるべきゼビナは、デシャン監督との折り合いが悪いようで、故障から復帰した後もベンチを暖めるだけにとどまっている。

このナポリ戦では、レグロッタリエが肩を負傷した時に監督から交代出場を告げられながら、それを拒否するという事件も起こった。関係はその後正常化に向かいつつあるようだが、結束の固いチームの中で唯一、不穏な火種となっていることは確かだ。

中盤のシステム変更は、ネドヴェド、そしてマルキオンニという2人のサイドハーフが欠場したことが大きな理由。デシャン監督には、ネドヴェドの代わりにパオロ・デ・チェリエを起用して4-4-2を保つという選択肢もあったが、ユース上がりの20歳をシーズン最大のビッグマッチでスタメンデビューさせるのは、あまりにもリスクが大きいという判断だったのだろう。ザネッティ、パーロという開幕からのレギュラー2人に、デ・チェリエと同期の86年生まれのながらすでに前節のブレシア戦でフル出場を果たし、高い評価を得ていた第3のセンターハーフ、クラウディオ・マルキジオを加えた3センターハーフの布陣が選ばれた。

マルキジオは、地元トリノで生まれ育ち、7歳でユーヴェのサッカースクールに入ってから13年間ビアンコネーロ一筋という、これ以上ないほどの生え抜きである。16歳まではフォワード(セコンダプンタ)として育てられたが、その後中盤にコンバートされてプリマヴェーラで頭角を現した。

スティーヴン・ジェラード(リヴァプール)が憧れというだけあって、攻守両面でチームに貢献できるダイナミックなインコントリスタ/インクルソーレで、レジスタのパーロとは補完性が高い。実質的なデビュー戦となったブレシア戦、そしてこのナポリ戦で質の高いプレーを見せたことで、一躍注目を浴びているが、シーズンを通しレギュラーとして安定したパフォーマンスが発揮できるかどうかは、まだ未知数だ。

前線の攻撃陣は、ザラジェータの1トップをカモラネージ、デル・ピエーロが1.5列目から支える布陣。ナポリの最終ラインが3バックだったこともあり、3対3の数的均衡で揺さぶろうとした形だった。

この試合のユーヴェは、これまでの試合のように一方的に試合の主導権を握ることができず、前後半を通じて、どちらもなかなか決定機が作れない膠着した展開だった。ユーヴェの先制ゴール(後半21分)は、デル・ピエーロのフリーキックという“飛び道具”から。やはり、トレゼゲ、ネドヴェドという決定的な違いを作り出せるプレーヤーを欠くと、攻撃のクオリティが明らかに低下することは避けられない印象だった。先制してからわずか6分後に喫した同点ゴールにも、守備陣のちょっとしたマークのズレが絡んでいた。つまるところ、ユーヴェといえども“大御所”たちを2人、3人欠いてしまうと、A昇格を狙う強豪に力の差を見せつけることはできなくなるということである。

このナポリ戦以降も、故障で戦線を離脱する選手の数は減っていない。それどころか、アウェーのジェノア戦という、おそらくナポリ戦と並んでシーズンで最も困難な試合を前にした11月末の状況は、さらに深刻なものになっている。

攻撃陣は、トレゼゲ、デル・ピエーロ(ともに肉離れ)、ザラジェータ(膝)と、5人中3人が故障中で、パッラディーノ、ボジノフという、ここまで出場機会が少なかった若手2人(といってもすでに十分な実績を残しているが)しか残っていない。中盤もザネッティが肉離れ、ジャンニケッダが長く引きずっている膝の不調で、パーロとマルキジオの生え抜きコンビが頼り。最終ラインも、貴重なバックアップのレグロッタリエが肩の負傷で全治3ヶ月。

13節終了時の順位表を見ると、1位ナポリから9位タイのトリエスティーナ、ブレシアまで、10チームがわずか勝ち点6の間に固まる大混戦となっている。ユーヴェがここまでのペースを保つことができれば、このダンゴから抜け出して独走態勢を築くのはわけがないはずだが、主力の欠場が相次ぐ状況では、これまでのように圧倒的な優位を見せつけることは難しくなってくるかもしれない。

前半戦にひとまずの区切りがつくクリスマス休みまであと5試合。それを消化した時点でユーヴェがどの位置にいるかは、シーズンの趨勢を占う上で大きなチェックポイントになる。それによって、冬のメルカートを含めた未来への戦略も変わってくるはずだ。次回はそのあたりにも焦点を当てながら、ユヴェントスの“チーム”ではなく“クラブ“としての側面を見て行くことにしたい。□

(2006年11月29日/初出:『ワールドサッカーダイジェスト』)

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片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。