巷では、きちんと取材した内容をまとめている記事を憶測だけで「エアインタビュー」呼ばわりして、あたかもゼロから捏造したかのごとくに印象操作しながら誇大にあげつらう悪質な煽りが不毛な騒動を引き起こしていますが、ここではそういうのは無視して、3バックのシステムについてその元祖の1人でもあるイタリア監督協会会長レンツォ・ウリヴィエーリが存分に語り尽くした長いインタビューを。もちろんエアでも捏造でもありません。

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――まず、イタリアにおける3バックのシステムの歴史的流れから聞かせて下さい。

「最初にシステマティックな形で3バックを導入したのは、90年代初めにパルマを率いていたネヴィオ・スカーラだ。システムは3-5-2だった。両サイドには純粋なサイドバックを起用していたから、5-3-2と言った方がいいかもしれない。

その後、90年代半ばになって3-4-3が生まれた。このシステムを初めて使ったのは私で、ザッケローニよりも早かった。ボローニャがセリエBで戦っていた95-96シーズン、コッパ・イタリアでミランと戦い、サン・シーロで勝利を収めてミランを敗退に追い込んだんだ。当時はほとんどのチームが4-4-2で戦っていて3-4-3なんて誰も見たことがなかったから大きなサプライズだった。

その次のシーズン、セリエAに昇格した我々ボローニャに加えて、ザッケローニのウディネーゼも途中からこのシステムを使うようになった。ザッケローニはミランに移ってこのシステムでスクデットを勝ち取ることになる。

その後は一時廃れたのだが、私の弟子であるマッザーリ、それにガスペリーニなどが、独自に3-4-3システムを発展させていった。

一口に3バックと言ってもバリエーションがある。3バックのシステムに共通している要素は、3人のDFと両サイドのウイングバックだが、ここに『攻め上がるサイドバック』を起用するか『戻るウイング』を起用するかは、チーム全体の振る舞いを左右する大きなファクターになる。

一方にサイドバックを置き、もう一方にウイングを置くというやり方もある。例えばユーロ2012でのイタリア代表は、右にSBのマッジョ、左にウイングのジャッケリーニを使っていた。

システムとしても、中盤センターと前線の構成によって3-5-2、3-4-3、3-4-1-2など様々なバリエーションがある。私自身は、中盤で相手のプレーメーカーをマークするか、トップ下をマークするかによって、3-5-2と3-4-1-2を使い分けていた。相手が4-4-2の場合は3-4-3だ」
 
――システムを相手とかみ合わせるという考え方ですね。かみ合わせを重視せず、常にひとつのシステムで戦い自分たちのサッカーをすることを優先するという考え方もあります。

「もちろんだ。その場合、システムのズレをカバーするため、ボールの位置によってマークを受け渡してポジションを修正する必要が出てくる。それができれば本来のシステムで戦えるが、受け渡しがうまく機能せず問題が生じる場合はシステムをかみ合わせることで修正を図ることになる。そのあたりは監督の判断次第だ」

――ここ1、2年、3バックで戦うチームが再び増えてきた理由はどこにあるのでしょうか?

「3バックは、守備においても攻撃においても、いくつかのメリットを持っている。攻撃においては、低い位置からのビルドアップがしやすくなるというメリットが挙げられる。4バックでボールを回すとチームの重心を上げられないが、かといって両サイドバックが上がってしまうと、CB2人でボールを回さなければならず、敵のプレッシャーを受けやすい。3人ならば2トップに対しても数的優位が作れるので、いい形で中盤にボールを供給しやすくなる。

守備においては、最も危険な中央のゾーンの密度を高めることができるというのがメリットだ。中央を破られての失点が多いチームが、守備を厚くするために3バックにするというのはよくあることだ。今シーズンも、ミランやインテルが3バックを採用したのはその理由からだろう。

そういう消極的な理由からではなく、よりアグレッシブな守り方をするために3バックを採用することもあり得る。3バックは敵の1トップ、2トップに対して常に数的優位を保てるため、FWへのパスに対して積極的なアンティチポ(パスの受け手を背後からマークし、その足下に入って来る縦パスを身体を前に入れて、あるいは足を出してカットするプレー)を仕掛けることができる。もしかわされても後ろにカバーがいるからね。

数的優位を活かして常にボールの受け手にプレッシャーをかけ自由にプレーさせないことで、チーム全体を高く押し上げても背負うリスクは小さくなる。ユヴェントスはこのやり方で、相手にサッカーをさせないアグレッシブなディフェンスを実現している」
 
――3バックの場合、守備のメカニズムが4バックのそれとは違ってきますよね。

「ああ。チームがそれをきちんと身につけないと機能しないね。昨日まで4バックでやっていたものを、じゃあ今日から3バックにしようと言ってもうまく行かない」

――そのメカニズムの原則において最も大きな違いはどこにあるのでしょう?

「3バックの場合、相手の2トップに対して常に数的優位を保つことができる。そのため、2ライン間に引いてパスを引き出す動きに対しては、躊躇なく飛び出してタイトにマークし、アンティチポを狙うことができる。4バックだとCBは敵の2トップと2対2の数的均衡になるため、戻ったFWに向けてパスが出る瞬間まで、CBは最終ライン上の、自分のポジションに留まっていなければならない。

もしFWの動きにつられてついて行った後、後ろに残したスペースにMFが入り込んできてそこにパスを出されたら、カバーは誰もいないから決定的なピンチを招くことになりかねない。しかし3対2の数的優位にあれば、背後にはカバーがいるので、思い切って前に出て行くことができる。それが3バックで守る大きなアドバンテージのひとつだ。

一方、もし相手が3トップで3対3の数的均衡を強いられる時には、ウイングバックを最終ラインに下げて5バックにする。相手の3トップにサイドバックも含めた5人に対して5対5の関係になるわけだ。中央のゾーンで相手がボールを持っている場合は、次にどちらに展開されるかわからないから、5人が最終ラインに並ばざるを得ないが、そこから中央にパスが入った場合には、CBが前に出てアンティチポを狙い残る4人が内に絞ることで、背後のスペースをカバーしながら中央で数的優位を作ることができる。

サイドにボールがある場合、ボールサイドのウイングバックは前に出てMFとしてボールにプレッシャーをかけ、残る4人がボールサイドにスライドして3トップに対して4対3の数的優位を保つ格好だ。いずれにしても原則的には5対5の関係なので、中盤でも数的不利に陥ることはない」
 
――ここまでの話は、左右のウイングバックがボールのラインよりも後ろに戻っている場合ですよね。3バックの場合、4バックと比べてピッチの横幅をカバーできていないため、ウイングバックがサイドでボールを失ったり、高く張り出したその背後のスペースをサイドチェンジなどで突かれた場合、困難に陥りやすい、ということがあるのでは?

「原則論としてはある。それを補って3バックを機能させるためには、それに合ったタイプのDFが必要だ。3バックの左右には、CBに必要な高さと強さを備えながら、外のスペースに飛び出していくスピードも備えたDFが求められる。具体的に言えば、例えばキエッリーニがそうだ。一方中央には、アンティチポに優れたアグレッシブなCBであると同時に、ビルドアップの能力も備えたDFが必要だ。ボヌッチはそれにぴったり当てはまる。

いずれにしても、ウイングバックの背後を衝かれた場合には、3バック全体がボールサイドにスライドして対応しなければならない。そうなると中央で保たれていた数的優位が崩れ2対2の数的均衡を強いられることになるが、それに対しては逆サイドのウイングバックが最終ラインに入って内に絞るか、あるいは中盤の底にいるアンカーが最終ラインに落ちるか、そのいずれかの対応を取って数的優位を確保することができる」
 
――このスカラトゥーラ(マークの受け渡しを伴うポジション移動)のメカニズムは、4バックのそれよりも複雑で難しい、ということはありませんか?

「いやそんなことはない。一度覚えてしまえばシンプルだ。トレーニングで繰り返せばすぐに身につくことだよ」

――このメカニズムを機能させる上で、適切なタイプのDFを起用するという以外に、必要なことはありますか?

「トレーニングだよ。私が考案したメニューはこういうものだ。中盤の3人がボールを回して、そこからFWに縦パスを入れる。2ライン間でも裏でもいい。その時にFWがボールに2タッチしたらポイントが入る。DFは2タッチさせないように、2ライン間に縦パスが入った時には躊躇なく飛び出してアンティチポすることが必要になる。このトレーニングで、数的優位にある時にはアグレッシブにアンティチポを仕掛ける習慣を身につけさせる」

――これは2トップの場合ですね。最近は前線を1トップにして1.5列目に2人あるいは3人のアタッカーを置き、彼らがポジションを入れ替えて2ライン間のスペースに出入りすることで、守備側に基準点を与えないようにしようというチームも増えています。システムで言うと4-3-2-1、4-2-3-1などがそうです。

「それはこういうことだね。4-2-3-1を例に取ろう。相手のアタッカー4人に対してこちらは5人で数的優位を作っている。中盤からトップ下にパスが入った場合、ボールサイドのDFは思い切ってアンティチポを狙う。後ろは3対1になっているのだから、躊躇は全く要らない。ウイングに対しては原則ウイングバックが対応しているので、中にタリオ(ダイアゴナルラン)してきた場合には絞って対応することになる。もちろん、更に中に入ればマークは受け渡し、6番が飛び出して3番はカバーリングポジションを取る。マンツーマンではなくゾーンディフェンスだからね」

――最終ラインは常に数的優位を保つことが原則になるわけですね。

「いやそうとは限らない。相手との関係がそうなれば数的優位で守るが、数的均衡を強いられる場合も少なくない。例えば相手が3-4-1-2の場合はこのように5対5の関係になる。この形になったからと言って、最終ラインを低くする必要はない。トップ下にパスが入った場合、5番が飛び出してマークし、残る4人は内に絞って対応する。ウイングにパスが入った時には、ウイングバックが前に出てマークし、残る4人はボールサイドにスライドする」

――そこからサイドチェンジされた場合は?

「逆サイドのウイングバックは、最終ラインに入って内に絞るが、サイドチェンジの可能性も想定したポジションを取り、サイドチェンジされた時には可能ならばそのインターセプトを狙う。これは4バックのサイドバックと同じだ」

――このように5対5で守る形になると、チーム全体の重心が下がってボール奪取位置が低くなりがちだということはありませんか?その結果、中盤の主導権も相手に渡しやすくなるとか。

「いやそんなことはない。どの高さからプレスをかけるか、どこでボールを奪うかというのは、最終ラインの枚数とは無関係だ。システムとも無関係だ。チームとしての振る舞い方の話だからね。例えばユヴェントスを見てみればわかるだろう。3バックで、両サイドにはサイドバックを置いているが、高い位置からプレスをかけてボールを奪おうとする。

システムにかかわらず、チームの重心を高く保つ上で重要なのは、陣形を常にコンパクトに保つことだ。攻撃時は最終ラインが押し上げ、守備時には前線が戻ってくる。選手間、ライン間の距離が正しく保たれていれば、チームの重心は自由に設定することができるし、その中で攻守のバランスを保つこともできる。

これは縦方向の話だが、横方向についても、相手が中央のゾーンの密度が高いシステム、例えば4-3-1-2や4-3-2-1を使っている場合には、こちらも横方向のコンパクトネスを高めて対応する必要がある。繰り返すが、これはこちらがどのシステムで戦うかに限らずの話だ」
 
――3バックのシステムでは、原則的にウイングバックがライン際すべてをひとりでカバーすることになりますよね。その仕事に合った資質・能力を備えたプレーヤーが、システムを機能させるためには不可欠だと思います。具体的にはどんなタイプのプレーヤーが理想なのでしょう?

「かつてよく言われたのは、3バックはウイングバックの仕事量が多すぎるからバランスが悪い、ということだった。確かに、サイドでの仕事をウイングバック1人に担わせようとすれば、仕事量は過大になる。しかし、時にはボランチやインサイドハーフ、時にはトップ下やFWが外に開いてライン際で仕事をすることもできる。そうやってサイドでの仕事を分散することで、ウイングバックへの負荷も軽減することは可能だ。

それに、最近のやり方だと、ウイングバックは早いタイミングで高い位置まで進出する。自陣で組み立てに絡んでから攻め上がるのではなく、後方でのパス回しやビルドアップには参加せずに敵陣までポジションを上げて、そこからプレーに絡むわけだ。かつてはライン際を縦に上下動するだけだったが、最近は起点が高くなった分、逆サイドからのクロスにファーサイドで合わせてフィニッシュに絡むなど、中に入り込んでの仕事も担うようになっている」
 
――マッジョはそれで年間2ケタゴールを挙げましたよね。

「そうだ。マッザーリはこのやり方を好んで使っている。ボールが逆サイド深くにある時には、ウイングバックが必ず中に走り込むんだ。FWのポジションによってファーポスト際に走り込む場合もあれば、ペナルティアークのあたりに入り込む場合もある」

――3バックを採用しているチームが増えてきたと言っても、みんな同じような戦い方をしているわけではありませんよね。それぞれのチームについて、具体的に見ていければと思うのですが。まずユヴェントスから。システムは3-5-2ですが、ユーヴェのサッカーにはどんな特徴があるのでしょう?

「最初に言えるのは、非常にアグレッシブなチームだということ。最も特徴的なのは、2トップが守備の局面でハードワークすることだ。コンテが多くの場合交替枠のうち2つをFWに使うのもそれゆえだ」

――具体的にはどんな仕事が要求されているのでしょうか?

「敵最終ラインへのプレッシャーだ。ボールロストの瞬間から、足を停めることなくすぐにプレスに転じる。DFのパス回しにプレッシャーをかけ続けることで、高い位置でのボール奪取を狙う。ネガティブ・トランジションだけでなく、相手がGKや最終ラインからリスタートする時も同じだ」

――プレッシャーをかけるのはCBに対してだけですか?

「2トップは敵の2CBに対して2対2の関係を作ってプレッシャーをかけ、SBにパスが出た時には、インサイドハーフ(ヴィダル、マルキジオ)が飛び出していき、その背後はピルロがポジションを上げることでカバーする」

――ウイングバックのタスクは?

「ウイングバックは自分の対面に対して強く寄せていく。相手の7番にパスが出された瞬間、3番は一気に間合いを詰めてマークしに行く。こうしてビルドアップのパスに対して積極的に前からプレッシャーをかけていくことで、相手に落ち着いて組み立てる余裕を与えず、困難に追い込むわけだ」

――ボールがオープンにならないように前線からプレッシャーをかけていけば、リトリートすることなく高い位置に踏みとどまって守れるわけですね。

「そうだ。話はちょっとそれるが、私はいまコーチングスクールで、ボールがオープン、クローズという概念を変えようとしているところだ。ボールがクローズだというのは何を意味するのか?私の生徒たちは、MFがボールを前方にプレーできない状況、と言うだろう。その状況で守備側は何をすればいいのか?簡単だ。煙草を吸っていればいい(何もせずその状態を保っていればいい、という意味)。だとすれば、我々が集中しなければならないのは、ボールがオープンな状況にどう守るべきかということの方だ。

ボールがクローズなのは1秒か2秒のことで、そこからすぐにオープンになる可能性がある。ボールがオープンになった時、私は誰を見なければならないか。ボールホルダーの意図、次になにをしようとしているかだ。彼の身体の向きや動きから、次のプレーを読み取って先手を打たなければならない。

しかし、その読みが必ず当たるとは限らない。私の前にいるFWにパスをつけるかもしれないし、裏のスペースに出すかもしれない。その両方の可能性がある時には、私はリトリートして裏のスペースを消さなければならないが、FWにつけるという確信がある時には、アンティチポを狙って飛び出すこともできる。

しかし、そのFWがトッティという名前なら、その縦パスをダイレクトで裏のスペースに送り込むかもしれない。その時にこちらが飛び出していたら一巻の終わりだ。それがわかっていれば、大事を取ってリトリートする。

そのように、次に起こることを先読みして、それに遅れずに対応しなければならない。アンティチポを成功させるためには、FWの戻る動きよりも速く強く飛び出す必要がある。ここまで来ると戦術ではなくDFの1対1の守備能力の話になるがね」
 
――その守備能力についてですが、イタリアではカンナヴァーロ以降、アンティチポが巧くて1対1に強いDFが生まれていませんよね。それには何か理由があるのでしょうか?

「一番の理由は1対1をあまり重視しなくなったことだ。外国では中央での2対2など数的均衡を受け入れリスクを負って戦う傾向があるから、1対1を重視する。だがイタリアでは組織で守ることを重視している。10mずつの間隔を保ってラインを整え、ボールの位置とゴールの位置によってライン全体が連携を取って動くことでスペースを埋め、次の状況に対応しようとする。1対1でボールを奪いに行くリスクを冒さず、行く時は必ず隣の選手がカバーに入る。

ゾーンディフェンスというのは、自分のゾーンの中に入ってきた敵をマークするというのが基本的な考え方だが、イタリアではタイトにマークして1対1でボールを奪いに行くよりも、組織的な対応で相手のプレーの可能性を限定して危険な選択肢を潰し、あるいはミスを誘うことを狙う」

――より慎重だと言えるかもしれませんね。ゾーンマークによる1対1を受け入れて守るのと、ライン全体の連携で組織的に守るのとでは、基本となる原則も変わってくるのでしょうか?

「組織的に守る時の基本原則は、ゴールをプロテクトするということだ。常にボールとゴールの間に位置を取り、最も危険なシュート、次いでシュートにつながるパスの可能性を消していく。一方、ゾーンマークによる守備の原則はボールを奪回することだ。後者は1対1を受け入れ、積極的にアンティチポを狙い、積極的にボールを奪おうとする。そういう守り方をするために要求されるのは、まず1対1の強さだ。しかしラインを崩さず組織的に守る時にまず要求されるのは、戦術的な判断ミスをしないこと、常に正しいポジションを取ることだ。イタリアのDFは育成年代から戦術練習をたくさんするが1対1の個人技術、個人戦術があまり鍛えられていない」

――ユヴェントスに話を戻しましょう。守備では2トップのハードワークによるハイプレスが特徴というお話でしたが、攻撃における特徴は?

「2トップのコンビネーションだ。2人が常に連動した動きを見せてスペースを作り出し、そこを他の選手が使うことで攻撃に厚みを作り出している。一旦2トップに縦パスが入ってからのコンビネーションは、原則すべてワンタッチ。スピードに乗ったパス交換で相手を後手に回らせて一気にシュートチャンスを作り出す。このコンビネーションは非常によく練られている。

また、2ウイングバックが高い位置取りでワイドに開くことで、敵の4バックと4対4の関係を作ってしかもそれを外に開かせ、間のスペースに中盤からマルキジオやヴィダルが走り込んでくる。最終ラインが内に絞れば、今度はウイングバックに展開してサイドをえぐる。守る側にとっては非常に厄介だ」
 
――同じ3-5-2でも、あなたの弟子であるマッザーリが率いるナポリは、ユヴェントスとはシステムの解釈が異なっていますよね。

「マッザーリの持っているFWはユーヴェのFWとはタイプが違う。カヴァーニ、ハムシクはスピードがあって前方にスペースを必要とするアタッカーだ。彼らを活かすためには、敵陣の高い位置で奪うよりも中盤で奪った方が好都合だから、ユーヴェよりも10mくらいプレッシングの開始位置が低い。中盤で奪ってそこから一気に仕掛けるショートカウンターが、ナポリの最大の武器だ。守りを安定させるためではなく、敵の最終ラインの背後にスペースを残すために、やや低めに守備陣形を敷く。とはいえ10mの話であって、30mも引いているわけではない。

カヴァーニ、ハムシクを活かしてのカウンターだけでなく、ナポリにはもうひとつ、左DFから右サイドを駆け上がるマッジョへ斜めのロングパスという武器もある。マッジョは一旦スピードに乗ったらそうそう追いつけないからね。このように、チーム全体としての振る舞いは、どんな選手を擁しているかによって変わってくる。ユヴェントスにはユヴェントスの選手に適したサッカーが、ナポリにはナポリのサッカーがあるということだ」

――コンテとマッザーリでは、サッカーの基本的なコンセプトに違いはありますか?

「私はないと思うね」

――ナポリの方が、ボールポゼッションを重視する度合いが低くダイレクト志向が強いように見えるのですが。

「ナポリは時間をかけてボールを前に運ぶと、そこから先に困難を抱える。できるだけ早いタイミングで前線にボールを送り込んだ方が効果的な攻撃ができるし、危険な場面を多く作り出せる。それに対してユーヴェは、守りを固めた相手に対してもポゼッションから崩す術を持っている。ピルロがいるからね。ナポリの中盤はそれほどポゼッション能力が高くない。中盤でボールを奪って素早く前に展開するショートカウンターを数多く繰り出すことが、選手のクオリティを最も効果的に引き出す方法だ」

――そのナポリと比較すると、グイドリン監督率いるウディネーゼはさらに引いて守ります。

「ウディネーゼは、相手を自陣に引き寄せておいて、長いカウンターで逆襲に出るパターンが最も危険だ。1トップのディ・ナターレは長い距離を走る能力はないが、マークを外して縦パスを引き出す動きに関しては誰にもひけをとらない。彼が前線から引いてきて縦パスを受け、裏のスペースに走り込むトップ下に展開するというパターンは最強の武器と言えるだろう。その点でベストのパートナーは、バルセロナに移籍したサンチェスだった。爆発的なスピードと1対1のドリブル突破があったからね。

ウディネーゼの場合、バスタ、アルメロという両ウイングバックもスピードに乗って長い距離を駆け抜ける走力があるので、サイドに展開してのカウンターもある。自陣でボールを奪ってのカウンターを常に狙っているから、最終ラインも必然的に深くなるわけだ」
 
――ここまで挙げた3チームについて、守備のメカニズムに関しては違いはありますか?

「ボールと逆サイドにいるウイングバックの振る舞いが少し違う。ナポリとウディネーゼは、敵ウイングがボールを持った時、最終ラインがボールサイドにスライドすると同時に、逆サイドのウイングバックはそれに連動する形で最終ラインに入ってファーサイドをケアするのが原則だ。

ユヴェントスは、逆サイドのウイングバックは最終ラインに下がらず中盤のラインと連動して動くことがある。最終ラインがすでに数的優位にある場合はもちろんだが、数的均衡でも下がらない。この場合、その背後に敵が入り込んで来た時にはすぐに対応できるよう、注意を払っておく必要がある。左サイドのアサモア、あるいはジャッケリーニは、元々サイドバックではなくMFなので、中盤のラインに入る方が自然だということもあるのだろう。また、左DFがサイドへの意識の高いキエッリーニなので、全体としてバランスが保てるということもあるだろう。このように、チームとしての振る舞いや個々の選手に与えられるタスクは、選手のタイプや能力によっても変わってくる」

――今シーズンはフィオレンティーナもモンテッラ監督の下で3-5-2を導入して、魅力的なサッカーを見せていますよね。

「フィオレンティーナは、ユヴェントスと同じようにボールを奪われるとすぐにハイプレスに転じる。ただしサッカーのコンセプトは、ユヴェントスよりもむしろバルセロナに近い。グラウンダーのショートパスをつないでチーム全体をコンパクトに押し上げていく、ボールポゼッションを重視したスタイルだ。

このやり方で戦うためには、ボールサイドに多くの人数を割く必要がある。そのおかげで、ボールを失った直後からすぐにプレッシャーをかけに行くことが可能だ。90分を通してこの姿勢を保つところまでは行っていないが、60分、70分は持つようになってきている」

――セリエAで最もボールポゼッションを重視しているチームのひとつですよね。

「絶対にボールを蹴り出さないし、GKも組み立てに参加させてビルドアップする」

――モンテッラがこのシステムを選んだ理由はどこにあると思いますか?

「新しいチームにやってきて、しかも選手もほとんどが新戦力だ。3バックはディフェンスを安定させてくれるし、最初に見た通り最終ラインからのビルドアップもしやすい。前線に絶対的なエースストライカーがいるわけでもないから、組織的な攻撃で崩していく必要がある。それを考えれば、中盤でも密度を高くしてポゼッションできる3-5-2はぴったりのシステムだ。

このフィオレンティーナやユヴェントスを見れば、3バックだとチームの重心が低くなるというのは、必ずしも正しくないことがわかるだろう。最終ラインの高さ、チームの重心は、どんな形で攻撃したいかによって決まってくるものだ。フィオレンティーナは、インサイドハーフが外に開いてパスを引き出す展開を多用するのが特徴だ。それと連動して前線から2トップの1人が下がってきて2ライン間を埋め、それによって空いた前線のスペースにウイングバックが外からダイアゴナルに入って行く。

前線のヨヴェティッチとリャイッチはいずれも、本来FWではなく攻撃的MFであり、裏のスペースに飛び出すよりも2ライン間に引いてきてプレーすることで持ち味を発揮するタイプだ。必然的に、最後の30mも、そこからのコンビネーションによって打開することになる。オフ・ザ・ボールで裏に走り込むのは、ウイングバック(ダイアゴナル)やインサイドハーフ(縦)の役割になるわけだ。

ただし、2ライン間に引いたFWがそこで奪われると大変だ。ボールサイドのMFがボールのラインよりも上にいるので、実質的にアンカー1人で対応せざるを得ず、カウンターにつながりやすいというリスクがある。ただ、そのリスクを背負っても前線に人数を送り込み、グラウンダーのショートパスをつないでコンビネーションで崩そうという姿勢は、今までのイタリアにはなかったものだ」
 
――ここまで取り上げてきたチームはいずれも3-5-2です。イタリアには他に3-4-3で戦っているチームもあります。パレルモに途中就任したガスペリーニは、ジェノアで完成度の高い3-4-3を見せていましたし、インテルもここ数試合、パラシオ、ミリート、カッサーノの3トップによる3-4-3で戦っています。3-5-2と3-4-3のメカニズムで、大きな違いがあるとすればどこでしょうか?

「2トップよりも3トップの方が動きが複雑になる。2トップの場合は1人が動けばそれに合わせてもう1人が動くだけだが、3トップでは2人が動かなければならないからね。私はボローニャ時代、バッジョ、ケネット・アンデション、コリヴァノフという3トップで3-4-3をやっていた。

ロングボールも使ったけれど、グラウンダーのコンビネーションも使って質の高い攻撃をしていたよ。バッジョが2ライン間に入ってボールを受けると、アンデションとコリヴァノフが裏のスペースに斜めに走り込む、アンデションが引いて作り出したスペースにバッジョが斜めに走り込み、それに合わせてコリヴァノフが外に流れる動きでもうひとりのCBを釣り出すとかね。ザッケローニもポッジ、ビアホフ、アモローゾという3トップで同じようなメカニズムを見せていた」

――3トップのメカニズムは、ゼーマンの4-3-3のそれと原則的に同じだと考えればいいですか?

「いや、ちょっと違う。ゼーマンの場合、両ウイングはサイドに開いてそこから中に入り込んでくる。右に左利き、左には右利きと利き足が逆の選手を使うのも特徴だ。だが私の場合、ウイングは最初からやや内に絞ったポジションを取る。ウイングというよりもトップ下が2人という、3-4-2-1に近いポジショニングだ」

――ガスペリーニのジェノアも、3-4-2-1に近いナローな3トップでした。

「ガスペリーニの3-4-3は最終ラインはゾーンで守るが、中盤はほとんどマンツーマンに近い形で相手をタイトなマークし、落ち着いてボールを扱う余裕を与えないアグレッシブな守備が特徴だ。3トップのコンビネーションも、前線に縦パスが入ると同時に他の2人が裏に走り込む動きでシステマティックにスペースを攻略した。守備でも、相手の4バックに対して3対4の関係にある3トップが、逆サイドのSBを除く3人に一気にプレスに行くことで、自由なビルドアップを許さなかった」

――インテルも今シーズン途中から3バックに切り替えて、チームが機能し始めました。

「インテルは3バックにしたことで守備が安定して攻守のバランスを見出した。そこに結果もついて来たことで、チームがこのやり方に自信をつけている。それは選手たちの振る舞いからも見て取ることができる。今や彼らは、この戦い方は自分たちが選んだ、という気持ちを持っているだろう。ユヴェントスはすでに1年以上の積み重ねがあるが、インテルはまだ2ヶ月足らずだ。これからまだまだ完成度を高めていくだろう」

――インテルの3-4-3に目立った特徴はありますか?

「インテルの場合、ミリートやカッサーノに守備の局面で大きな貢献は期待できない。そのため前線からアグレッシブにプレスをかけることができないから、高い位置でボールを奪う頻度はユヴェントスよりもずっと低い。しかし前線のクオリティではインテルがユーヴェを大きく上回っている。ボールを奪った後前線に送り届ければ、そこから先は彼らが考えてくれるというものだ。3トップを守備で消耗させないかわり、やや低めの位置で7人、パラシオは中盤に戻るのでしばしば8人で守り、そこから手数をかけずに前線に展開して、3トップのタレントに攻撃を委ねるというやり方だ。さらに、左ウイングバックの長友が驚異的な走力で繰り返しボールを追い越して駆け上がることで、攻撃に幅と意外性を付け加えている」

――こうして話をうかがっていると、チーム全体の振る舞いを決定づける最も大きな要因は、前線の攻撃陣のプレースタイルだといえそうですね。

「その通りだ。セリエAで上位を争うチームになれば、多かれ少なかれ選手の質は揃っている。その中で、いかにゴールを奪うか、どうすれば攻撃陣の力を最大限に引き出せるかというのが、チームを組み立てる上で監督が最初に考えることだ。ナポリやウディネーゼのように、カウンターを得意とするアタッカーを擁するチームは、ボール奪取位置を低く設定することで相手をおびき寄せ、素早くスペースに展開して一気にフィニッシュを狙う。ユーヴェやフィオレンティーナのように単独で違いを作り出せるエースストライカーを持たないチームは、高い位置でボールを奪って人数をかけたコンビネーションで崩そうとする。その違いだ」

――最後に改めて、どうしてイタリアでだけ3バックがこれだけ流行しているのか、逆に言えばどうして外国では3バックは広まらないのかについて、意見を聞かせていただけますか。

「私は、サッカーの未来は、相手や状況によってシステムや戦い方を自在に変えることができる、戦術的フレキシビリティにあると考えている。幸いにしてイタリアは、監督も選手も戦術的なカルチャーを備えているから、複数のシステムを導入してそれを使い分けることができるし、新しいシステムに対しても対応力がある」

――それは、システムだけでなくチームとしてのプレーコンセプトやプレー原則まで、試合によって変えるということですか?

「いや、それは不可能だ。チームはひとつの明確なアイデンティティを持たなければならない。プレーコンセプトとプレー原則はその根幹だ。フレキシブルに変わるべきは、それを適用するシステムやプレーする選手に与えられるタスクだ」

――では、チームのアイデンティティを規定するプレーコンセプトやプレー原則というのは、具体的にどういうものなのでしょうか?あなたのそれを聞かせてください。

「私のプレーコンセプトは、主導権を握りボールを支配して戦うというものだ。当時、イタリアでは相手に主導権を委ねてカウンターを狙うリパルテンツァ(カウンター)が主流だった。しかし私がフィジカルな選手よりもテクニカルな選手を好むこともあって、私のチームはほとんどいつも、プレッシングやポジティブ・トランジションがあまり得意ではなく、ボールを支配して攻撃を組み立てたがる傾向が強かった。例えばグイドリンのチームは、昔も今もアグレッシブなプレッシングからの素早いカウンターを武器としているが、私のチームはいつもパスを回して攻撃を組み立てる方が得意だった。

プレー原則は、攻撃については、グラウンダーのショートパスをつないで攻撃を組み立て、1対1やコンビネーションで崩す、守備ではゾーンマーク、つまり組織的な連携でゴールをプロテクトするのではなく、自分のゾーンに入ってきた選手はタイトにマークしできればアンティチポを狙う、ボールを奪回するためにプレーするというものだ。

イタリアでは昔から、相手の守備が整う前に素早く攻撃することが必要だ、パスを5本つないだらもう相手は守備を固めている――と言われてきた。それは統計上確かに事実だが、そうなったのは5本以上ちゃんとパスをつなげるチームが少なかったからだ。今はイタリアでも15本、20本のパスをつなげるチームがいくつもある。スペクタクルという観点から見れば、イタリアサッカーもやっと魅力を取り戻しつつあると言えるだろう。昔はトップレベルの選手が揃っていたから彼らのプレーがスペクタクルだったが、今はチームとしてのコレクティブなプレーがスペクタクルになった」
 
――戦術的フレキシビリティという観点から見ると、4-2-4、4-3-3、3-5-2とシステムを変えながら、一貫して前線からのアグレッシブなプレッシングとスピードに乗ったコンビネーションを武器にしてきたユヴェントスが、イタリアにおけるひとつのお手本のように思えます。

「ユヴェントスのプレーコンセプトは、アグレッシブな守備で相手にサッカーをさせず、奪ったボールを最短距離でフィニッシュに持ち込むというものだ。とはいえ、相手が守りを固めた時には、ポゼッションから崩すだけの力も持っている。だから何が何でも速攻というわけではなく、可能ならば速攻、無理ならば腰を据えて攻めるという二段構えのプレー原則だ。今のイタリアでは最も完成度の高いチームだと言える」

――ユーヴェ以外に注目しているチームはありますか?

「ナポリにはマッザーリがいるので、動向はいつも気にしている。フィオレンティーナも、地元であるというだけでなく、モンテッラが新しい息吹を吹き込んだので、興味深く見守っているよ」

――今日は長い時間ありがとうございました。

「どういたしまして」□

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片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。