サポーター、ウルトラス関係のテキストをもう1本。これはサポーターをめぐる社会調査の結果を肴に書いたものです。

bar

イタリアは世界有数のサッカー大国として知られている。カルチョは常に最大の国民的関心事であり、セリエAのスター選手は知名度も人気も歌手や俳優よりもずっと上、男たちは日々バールに集まってはサッカー談議に明け暮れる――というのが、ステレオタイプのイメージだろうか。

しかし、ひと月ほど前に大手社会調査機関demosが発表したレポートによれば、ここ数年、イタリアにおけるサッカー人気には大きな陰りが見え始めている。

「イタリアにおけるサッカー熱の現状 Il tifo calcistico in Italia」と題されたこの調査は、全国から無作為抽出されたサンプルに対する電話アンケートによって、イタリア人とサッカーとのかかわりを明らかにする目的で2009年から毎年行われており、今年は9月3日から7日の間に実施された(対象は15歳から69歳。有効回答数1416)。

この国ではサッカーファン/サポーターのことを「ティフォーゾ(複数形はティフォージ)」と呼ぶ。これは元々「チフスtifoにかかっている人」という意味で、サッカーファンが熱病にうかされたように贔屓のチームを応援するところから、この言葉が使われるようになった――という話は、ご存じの読者も多いだろう。

ところが、調査の冒頭にある「あなたはサッカーの<ティフォーゾ>ですか?」という問いに対して、イエスと答えた人(サポーター層全体)の割合は半数にも満たない42.9%。「カルチョの国イタリア」にはあるまじき数字と言っていいだろう。 

とりわけ問題なのは、これが過去4年間を通して明らかな減少傾向にあること。2009年の調査では55.6%がイエスと答えていた。そこからの推移は、2010年52.2%(-3.4%)、2011年45.3%(-6.9%)、そして2012年42.9%(-2.4%)という具合である。たった4年間で15歳から69歳までのイタリア人の1割以上がサッカーから離れた(絶対数では2割以上の減少)というのだから、事態は深刻だと言うしかない。

2010年以降は、ここでイエスと答えた人に対して「あなたの<ティフォーゾ度>は1から10までのどこにあたりますか?」という追加の問いが用意されているのだが、これに対する回答の内訳を見ても、サッカー熱の低下は顕著だ。9ないし10と答えた「コア層」は、2010年の22.1%から18.4%へ、7ないし8の「ホット層」も16.3%から14.2%へと減少している。

6以下の「ライト層」が13.7%から10.3%と比較的少ない減少率に留まっていることから考えると、サッカー離れが最も顕著なのは他でもないコア層だという結論にならざるを得ない。

この調査の中には、その原因のありかを探るうえで参考になりそうな質問もいくつか含まれている。ひとつは、「サッカー界に様々なスキャンダルが起こって以降、サッカーとの接し方は変わりましたか?」というもの。これに対しては最初の問いにイエスと答えたサポーター層全体のうち28.4%もの人々が「以前より少なくなった」と回答している。

2006年の「カルチョポリ」とそれを巡る様々な遺恨がやっと一段落したかと思われたところで新たに勃発し、現在もまだその全貌が明らかにならないままスポーツ裁判と処分が数ヶ月置きに繰り返されている賭博・八百長スキャンダルが、イタリアサッカーに対する信頼をきわめて大きく損なったことが、ここにもはっきりと表れている。

もうひとつの質問は「セリエAは世界で最も魅力的なリーグだと思いますか?」というもの。用意された3つの選択肢のうち「最も魅力的でスペクタクルなリーグのひとつ」を選んだ人はサポーター層全体のうち33.4%、「魅力的ではあるが他にもっと魅力的なリーグがある」が41.7%、「他のリーグと比べて魅力に欠ける」が20.7%。

文字通り「世界で最も美しいリーグ」として世界中の注目と人気を集めた1990年代と比べれば、セリエAが国際競争力を大きく失ったことは誰の目にも明らか。何かにつけて自画自賛する傾向が強く「贔屓の引き倒し」が大得意なイタリアの人々ですら、その現実を受け容れざるを得ない立場に置かれている。

とはいえもちろん、「ティフォージ」が愛するクラブを多かれ少なかれ「熱狂的」にサポートしていることに代わりはない。クラブ別のサポーター数やそのシェアについてはこれまでの様々な調査が行われてきたが、その数字はこの調査も含めて概ねのところ一致している。

最も多いのはユヴェントスで、サポーター層全体の28.5%。続いてミランが15.8%、インテルが14.5%。ビッグ3のサポーターだけで全体の6割を占め、その半分がユヴェンティーノ、残りの半分をミラニスタとインテリスタが分け合うというのが、イタリアの「ティフォージ」の基本的な構図である。

ミラノ勢2チームとユヴェントスのシェアにこれだけ大きな差がついているのは、ユヴェントスが北部から南部までイタリア全土にサポーターを持つ文字通りの「全国区」なのに対して、ミラノ勢のサポーターは地元ミラノを中心とする北部に偏っているため。

興味深いのは南部(シチリア、サルデーニャを含むナポリ以南)に地域を限った場合のシェア。トップはナポリの29.1%、続いてユヴェントスが25.8%、インテルが13.5%、ミランが11.8%となっている。

ナポリは中部以北では2~3%という小さなシェアしか持っていないにもかかわらず、南部では圧倒的な人気を誇っている。とりわけここ1,2年はピッチ上でもビッグ3に次ぐ実力を発揮するようになったことで、全国でのシェアも13.2%まで高まり、逆に落ち目(2010年比で3%もシェアを下げた)のインテルに迫ろうという勢いだ。

いかにもイタリアらしいのは、どのチームに対して反感を感じるかという質問。

2010年にはインテル16.1%、ユヴェントス13.4%、ミラン8.0%だったが、2011年にはインテル19.7%(+3.6%)、ユヴェントス13.6%(+0.2%)、ミラン12.2%(+4.2%)とミラノ勢、とりわけミランへの反感が高まり、2012年になると今度はユヴェントス26.6%(+13.0%)、インテル12.7%(-7.0%)、ミラン9.3%(-2.9%)と、一気にユヴェントスへの風当たりが強まった。これはつまるところ、その時に強いチームが他チームのサポーターから嫌われるという単純な話である。

例えばミラニスタは、2011年にはインテルに33%、ユヴェントスに9%が反感を感じていたものが、2012年になるとユヴェントスに38%、インテルに18%とまったく逆転している。これはインテリスタも同様だ。

一方ユヴェンティーノは、2011年にはインテルに39%、ミランに9%だったものが、2012年にはインテル29%、ミラン14%とややバランスが変わってきた。2006年のスクデットを持っていた宿敵インテルへの嫌悪感が強いのは当然だが、それも相手が弱くなれば多少は和らぐところがある意味微笑ましい。□

(2012年10月16日/初出:『footaballista』)

By Michio Katano

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。