ミラノダービーの思い出深いコレオグラフィをふり返るシリーズ第2弾は、05-06シーズン秋のダービーでのクルヴァ・ノルド(インテル)。ずっとやられっぱなしだったこともあって、かなりカタルシスのある一発でした。

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インテリスタが100本以上の発煙筒を投げこんで打ち切りになった前回の対戦(チャンピオンズリーグ準々決勝)以来、8ヶ月ぶりとなるミラノダービー。

当時は、またもタイトル獲得の希望がなくなって自暴自棄になったインテルに対し、ミランはまだスクデットとチャンピオンズリーグ、二冠の可能性を残すという、対照的な状況にあった両チームだったが、それから昨シーズンの閉幕まで、ほんの1ヶ月あまりの間に起こった出来事は、その構図に少なからず変化をもたらすものだった。

インテルは、セリエAでも3位に終わったものの、98年のUEFAカップ以来6年ぶりのタイトルとなるコッパ・イタリアを獲得、ささやかとはいえそれなりのハッピーエンドでシーズンを終えた。

ところがミランは、ユヴェントスとの直接対決を落としてスクデットを奪われ、万全を期して臨んだはずのCL決勝でも、前半を3-0で終えながら「6分間の悪夢」の末にPK負け。あり得ない無冠の幕切れとなった。

これまで何年もの間、ゴール裏の応援合戦でミラニスタに嘲笑とからかいを許してきたインテリスタが、この機会を逃すはずはない。

試合開始10分前、まず最初にクルヴァ・ノルドに現れたのは、黒字に青でこう書かれた2枚の横断幕だった。「インスタンブール、2005年5月25日」、「勝ちたかったのに……」。続いて、2階席の手すりから1階席に向かってするすると下りてきたビッグフラッグには、GK(ドゥデク)がゴールの前におどけたポーズで立ちはだかり、背後のゴールポストにはインテルのシンボルであるビショーネ(大蛇)が絡みついているという構図が描かれている。インテリスタお得意の“イラスト路線”である。

そして、選手入場が近づくと、クルヴァの2階席全体が青く染まり、そこにひとつずつ、大きなフラッグが広げられて行く。「3-1」、「3-2」、そして「3-3」。ベタといえばこれ以上ベタな展開もないが、そこは、長年やられっぱなしだったインテリスタがやっと手に入れた“ネタ”である。ひねりが足りないところは減点の対象だが、まあ許してあげることにしよう。

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一方のクルヴァ・スッドは、つい最近、一大勢力だった老舗のグループ「フォッサ・デイ・レオーニ」が解散し、幹部がゴール裏から追放されるという内紛が起こったこともあり、演出はいつもよりかなり控えめ。まずゴール裏が白一色に染まり、それが徐々に赤と黒に変わって行くという、ビジュアル的な洗練度の高さはいつもながらさすがだが、「唯一の旗印、それは……ロッソネーロ」という横断幕は、紋切り型に過ぎてインパクトに欠けるものだった。

それよりもむしろ、ハーフタイムになって、インテルのゴール裏に応えるためにおそらく即席で作って広げられた横断幕の方が、ずっと味がある内容だった。

「決勝を落とすことができるのは、決勝を戦った者だけだ。お前らは最近この手の問題とは無縁だからな」。■

(2005年12月12日/初出:『El Golazo』)

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片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。