そろそろ冬のカルチョメルカートもいい感じに熱くなってきたので、基本ルールのおさらいなどを。セリエAの外国人(EU外)選手枠についての解説です。5年半ほど前に書いたものですが、基本的には今も変わっていません。これのおかげで日本人を含むアジア人選手にとってセリエAはハードルの高いリーグになってしまいました。川島永嗣などはこれがなければ何度もセリエA移籍のチャンスがあったはずですが……。

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2010年7月2日のFIGC(イタリアサッカー協会)理事会で、セリエAのEU外国籍選手新規登録枠を、従来の2人から1人に減らすことが決まった。

ひとことで「外国人選手」と言っても、国籍その他によって登録のルールが異なっているため、ここで一旦整理しておこう。

1)イタリア国籍選手
 イタリア共和国の国籍(パスポート)を持つ選手。
2)EU国籍選手
 欧州連合加盟国、およびそれに準ずる国*の国籍(パスポート)を持つ選手。
3)非EU国籍選手
 上記のいずれにもあてはまらない選手。
 
イタリアも加盟している欧州連合(EU)の憲法であるEU憲章は、「EU域内における移動と労働の自由」を掲げており、EU内においては国籍によって就業機会を制限することが禁止されている。

したがってセリエAでも、EU加盟国のパスポートを持っている選手については、登録には何の制限もない。これは、南米出身の選手に多く見られるような、イタリアやスペインとの二重国籍を持っている選手についても、同じようにあてはまる。

セリエAが制限しているのは、3)のEU国籍を持たない選手の新規登録について。2002年に、EU国籍を持たない移民労働者を制限する法律が国会で成立したのを受けて、セリエAでも外国人選手の増加を抑えるために、非EU国籍選手の新規登録を制限するルールが導入された。

これは、EU国籍を持たない選手を「国外から新たに」獲得できる数を、1年につき1人に制限するというもの。さらに、すでに2人以上の非EU国籍選手を登録している場合には、1名の新規登録は「非EU国籍選手1名の放出とセット」で行われなければならないという制約も加わっていた。その狙いは、チームが抱える非EU国籍選手の総数を増やさないところにある。

ただしこのルールには抜け道がある。新規登録を制限されるのは「国外から新たに」獲得した選手に限られるため、国内の他のクラブから獲得する選手や、育成部門から昇格した選手には当てはまらないのだ(育成部門への登録は制限なし)。

インテルが2005年1月(←要確認)にジュリオ・セーザルを獲得した時、すでに新規登録枠を使い切っていたため、友好的な関係にあるキエーヴォに半年だけレンタルする形で一旦「パーキング」し、シーズン終了後に引き取ったのはその典型的な一例だ。

02-03シーズンから07-08シーズンまで、新規登録枠は1人に限られていたが、08-09シーズンからはそれが2人に増やされた(セリエBからの昇格クラブに関しては、最大3人までという例外規定あり)。ただし2人目に関しては「非EU国籍選手1名の国外への放出とセット」という規制がかかっていた。今回のルール改定は、それを2008年以前の状態に戻すものだ。

その最大の動機は、ワールドカップにおけるイタリア代表の惨敗で、若くて優秀な人材が枯渇しているという現実に直面せざるを得なくなったこと。09-10シーズンのセリエAは、登録全選手738人中40.2%にあたる296人が外国人選手(イタリア国籍を持たない選手)によって占められており、その割合は年々増加する傾向にある。EU国籍選手の獲得を制限することが法律上不可能である以上、外国人選手の数を減らそうとすれば非EU国籍選手をターゲットにせざるを得ない。

今回のFIGCの決定に対し、セリエAのクラブによって構成されるレーガ・セリエAが強硬な反対の態度を取っている理由は、少なくとも2つある。

ひとつは、すでに2名枠を前提にした補強計画を立てて新チームの編成に動き出しているため、メルカートでの動きに影響が出てくること。例えばユヴェントスは、FWジェコ(ボスニア)、MFクラシッチ(セルビア)という2人の非EU国籍選手を獲得ターゲットに挙げて交渉に入っていたが、この決定によってどちらか1人を断念せざるを得なくなった。同様の問題は他のクラブにも起こっている。

もうひとつは、非EU選手の「コストパフォーマンス」の高さである。低いコストで質の高い戦力を獲得しようとすれば、南米、東欧、アフリカといったEU外の国々から無名のタレントを発掘するのが一番だ。ウディネーゼやカターニアのように、それを生存戦略の中心に据えているクラブもある。こうしたクラブにとって、新規登録枠が2から1に減少するのは非常に痛い。

さらにもうひとつ、裏の事情もある。こうしたコストパフォーマンスの高い無名選手の発掘には、ほとんどの場合代理人が絡んでいる。クラブの会長やスポーツディレクターの中には、特定の代理人と結びついて選手の供給を受けるのと引き換えに、代理人からバックマージンをもらって懐に入れている人々も少なくないと噂されている。EU外選手枠の減少は、こうした旨味のあるビジネス機会が少なくなることも意味しているのだ。

FIGCのアベーテ会長は、レーガ・セリエAの強硬な反対にもかかわらず、今回の決定を覆す意思がないことをはっきりと言明している。まだ両者の綱引きは続きそうだが、最終的にはFIGCの決定通り、新規登録枠1で決着する可能性が高い。■

(2010年8月10日/初出:『ワールドサッカーダイジェスト』)

By admin

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。