2015年11月18日 W杯・EURO/代表関連

イタリア人監督・コーチが見る日本サッカー(2013.08)

サッカーというスポーツが面白いのは、同じルールの下でプレーしているにもかかわらず、そこに国や民族の文化やメンタリティがおのずとにじみ出て来るところです。イタリアで暮らす日本人という立場から、日本とイタリアという2つの国のサッカーを観察していると、その違いについて考えさせられることも少なくありません。ということで今回は、イタリア人の監督・コーチと日本のサッカーについて対話した内容を、彼ら自身のコメントで並べてみたテキストを。

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筆者は、アルベルト・ザッケローニも含めて少なくないイタリア人監督、コーチと、日本のサッカーについて話をした経験がある。そこで耳にしてきた印象や意見は、ちょっとした偏見や先入観に支配されていたり、うまく説明できない違和感を内包していたりと、イタリアならではのフィルターがかかっているがゆえに、今まであまり自覚していなかった側面をあぶり出してくれるような、興味深い内容だった。

以下、これまで筆者が行ってきたインタビューや対話の中から、日本サッカーについての率直なコメントを、あえて発言者を伏せた形で羅列することで「イタリアサッカーのフィルターを通した日本サッカー」を浮き彫りにしてみたい。

「Jリーグのサッカーはヨーロッパのサッカーとはまったく違うコンセプトに基づいている。すべての土台にあるのはテクニックで、その意味ではブラジルサッカーの影響を強く受けている。イタリアにはこれだけのテクニックの土台はない。日本のサイドバックの技術の高さは、イタリアの監督なら誰もが夢見るようなレベルだよ」

「日本の選手たちの大きな強みは、速いスピードで正確なテクニックを駆使できるところにある。彼らのテクニックは本当に素晴らしい。プレーは必ず2タッチ。ストップが絶対にブレない。マークを外してフリーでパスを受ける動きも優れている。

でも、それらすべてがボールポゼッションを保つことだけに使われていて、ゴールに向かってまったく収斂して行かない。見ていて楽しいサッカーだけれど、縦の推進力や突破力が小さく、ゴールを目指してプレーすることに優先順位を置くという感覚が、我々と比べるとずっと弱い」

「私は日本に来てサッカーの楽しさを思い出させてもらった。イタリアでは試合を見ていても全然楽しめない。パスが3本つながることすら珍しいんだから。Jリーグの試合を見ていると、夢の世界にいるような気持ちになることすらあるよ。現実じゃないみたいだ。我々が知っているサッカーには付きものの、インテンシティ、強烈な闘争心、マリーシアといったものが見当たらないからね」

「Jリーグでは同じタイプのサッカーをするチーム同志が戦うから非常に楽しい試合になるけれど、違うコンセプト、違うタイプのサッカーと戦う時には、それがハンディキャップになり得る。例えば、激しく当たってボールを奪っては最短距離でゴールを目指すというプレーを繰り返すようなチームだ。試合の主導権は与えてくれるけれど、結果的には相手の注文通りになっている」

「イタリアでは、危険な状況は汚いファウルをしてでも止めるというのはイロハのイだが、日本にはスポーツマンシップの文化があり、相手の隙を突いたり罠に陥れるような狡猾さ、マリーシアは持っていない。試合を見ていると、ファウルしろよファウル、と言いたくなることがよくあるよ(笑)。ダーティである必要はないが必要以上にクリーンである必要もない」

「日本の選手たちは一般的にコンタクトを避けようという意識が非常に強い。実際、狭いスペースでの2対2や3対3を、相手に寄せる時間を与えるために3タッチ以上でやらせてみると、思ったよりも困難に陥る場面が多かった。身体をぶつけ合ってプレーするという感覚も、そのためのトレーニングも重視されていないという印象だ。

確かに、日本の選手のスピードとテクニックがあればフィジカルコンタクトを避けることができる。しかし試合の中で運動量が落ちてくるとコンタクトは避けられないし、そこで困難に陥ることになってしまう」

「日本は敵陣のゴール前、最後の20mを除く85mに関しては、きわめて質の高いサッカーを見せるチームだ。最大のネックは、攻撃をフィニッシュできる得点力のあるセンターフォワードを欠いていること。苦しい時に強引にでもねじ込んでくれるCFを擁しているだけでチームがどれだけ楽になるかは、バロテッリやチチャリートの活躍を見てもわかる。

残念ながら日本は、香川、本田というチームで最もクオリティの高いプレーヤーもゴールは決して多くない。同じことは自陣最後の20mを預かるCBのクオリティについても言える。こういうチームはいい試合をするけれど勝てないというジレンマに陥ることが多い。いいCFといいCBがいるチームは、酷い試合をしても勝つことが多いんだけどね」

「チームを構築する時には、持っている長所を最大限に引き出し、その上で弱点をできるだけ克服するというアプローチを取るものだ。日本代表がこれまで見せてきた戦いから明らかな長所は、アジリティが高く持久力があり、しかもテクニックにも優れている、さらにチームスピリットとディシプリンがあるという点だろう。

これは、テクニカルかつ組織的なスタイルを基本にしたインテンシティの高いサッカーをする絶好の土台を持っているということだ。それを前面に押し出そうとするザッケローニのアプローチは正しいと思う」□

(2013年8月4日/初出:『SOCCER KOZO』)

About admin

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。

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