イタリアがUEFAカントリーランキングでドイツに抜かれて4位になり、CL出場枠が4から3に減ったのは、12-13シーズンからのことです。抜かれそうでやばい、ということになったのはその3〜4年前くらいから。このテキストを書いた09-10シーズンは、CL決勝でモウリーニョのインテルがファン・ハールのバイエルンを下したことで、何とかギリギリ3位を保ちましたが、続く10-11にはついに抜かれてしまったのでした。
面白いのは、イタリアがこの当時のドイツと同じく、CLでは振るわないけどELでは複数のクラブが上位進出してランキングポイントを稼ぐという状況になりつつあること。この調子で行けば最短で来シーズンにはイングランドを抜いて3位復帰できるかもしれません。

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プレミアリーグ、リーガ・エスパニョーラ、セリエAが「欧州三大リーグ」と言われるようになって久しい。ところがここに来て、この構図に変化が起きようとしている。イタリアがUEFAカントリーランキングでドイツに抜かれて4位に転落し、CLの出場枠が4から3に減る可能性が出てきたからだ。

ヨーロッパのクラブサッカーにおける国別の勢力地図を知る上で最も手っ取り早いのは、UEFAカントリーランキングを見ることだ。

このランキングは、UEFAが主催するクラブコンペティション、すなわちCLとEL(旧UEFAカップも含む。以下同じ)における参加クラブの戦績を元に弾き出されるもの。詳しい算出方法は別稿の通りだが、ひとことで言えば、「過去5年間の欧州カップにおける国別の1クラブ平均獲得ランキングポイント」ということになる。

このランキングのミソは2つある。ひとつは、CLでもELでも1勝は1勝であり、コンペティションによってポイントに差がつけられていないところ。そのため、CLで複数のクラブが早期敗退した強豪国よりも、UEFAカップで複数のクラブが上位進出を果たした中堅・弱小国の方が多くのポイントを手に入れることになる。

もうひとつは、国別の合計獲得ポイントではなく、1クラブあたりの平均獲得ポイントによってランキングが決まるところ。

CLとELに合わせて7~8チームを送り込んでいる強豪国でも、ポイントを稼げずに早期敗退するチームが多ければ、たとえCL優勝チームを出しても平均獲得ポイントは低くなる。逆に出場チームが3つか4つに過ぎなくとも、それらがELで好成績を挙げてポイントを稼ぎ出せば、平均獲得ポイントは高くなりカントリーランキングも上がる仕組みである。

昨シーズンにウクライナ、05-06シーズンにルーマニアが単年度ランキング1位になったのは、後者の典型的な例。逆に、参加クラブ数は多いのに早期敗退も多いためにランキングポイントが増えない国もある。その典型が、ほかでもないイタリアである。

過去15年のランキングトップ6の推移を見ていただければわかるように、イタリアは長期的な低落傾向にある。単年度のランキングを見ても、ここ5年間は04-05シーズンの2位から、3位、3位、6位、5位と不振が続いている。

もし今季出場している各クラブが結果を残せないようなことになると、05-06シーズンから09-10シーズンまでの5年間がランキングの対象になる来シーズンは、近年めきめきと力をつけてきたドイツに追い越され、4位に転落する可能性がある。

06-07シーズン以降の成績が対象となる2年後はさらに深刻で、現時点での積算ポイントですでにドイツに抜かれて4位になっているため、今シーズンと来シーズンのポイントでドイツを上回らない限り、トップ3陥落は避けられない。CL出場枠の減少という危機は、現実のものになろうとしている。

この低落の原因はいったいどこにあるのだろうか?

ことCLだけに話を限るならば、イタリアがドイツに抜かれるというのはどうにも合点が行かない話だ。CLにおける両国勢の成績を比較すれば、現在もまだイタリアに分があることは明らかだからだ。となると問題はEL(旧UEFAカップ)ということになる。

実際このところ、UEFAカップにおけるイタリア勢の成績はまったく芳しいものではなかった。昨シーズンは参加3チーム中、ナポリが1回戦敗退、サンプドリアとミランはグループリーグを突破したが、CLから回ったフィオレンティーナとともに決勝T1回戦(1/16ファイナル)で敗退。唯一勝ち進んだウディネーゼもベスト8止まりだった。

07-08シーズンに至っては、サンプドリア、パレルモ、エンポリの3チームが1回戦敗退でグループリーグにも残れず、フィオレンティーナがベスト4に勝ち残っただけ。その前年も1チームとしてベスト16に勝ち残れなかった。一方ドイツは、3シーズン連続でベスト8に2チームを送り込み、ランキングポイントの大半をUEFAカップで稼ぎ出している。

イタリア勢がUEFAカップで結果を出せない理由はシンプルだ。イタリアのクラブがこのコンペティションを軽視し、カンピオナートよりも低い優先順位しか置いてこなかったからだ。

このレベルのクラブにとって、カンピオナートと欧州カップの掛け持ちは大きな負担となる。資金的な制約から十分な厚さの選手層を揃えることが難しいし、それ以前に、週2試合のハードスケジュールを乗り切る経験やメソッドの蓄積があるクラブはそう多くない。

それゆえ、欧州カップ参戦のツケが週末のカンピオナートに回ってくるのを避けることは難しい。実際、その負担に耐え切れず国内リーグで不振に陥るクラブは、イタリアに限らず決して少なくない。

問題は、イタリアの場合、少しでも負けが込んでセリエAの順位が落ちると、マスコミやサポーターがすぐに騒ぎ出すことだ。中位のクラブが上位に進出するのは簡単ではないが、下位に沈んで降格争いに巻き込まれるのはずっとたやすい。そうなってクラブの内外が不安と恐怖に囚われると、物事は悪い方へ悪い方へと転がって行くものだ。

イタリアのクラブにしばしば見られたのは、そうした最悪の事態を避けるために、カンピオナートを優先したターンオーバーを敷き、UEFAカップにはメンバーを落として臨むという振る舞いである。UEFAカップ出場権を目標にセリエAを戦い、やっと出場権を手に入れたにもかかわらず、そのUEFAカップで手を抜いて敗退するのだから、矛盾もいいところだ。

もうひとつの理由は、UEFAカップで勝ち進んだところで、クラブにとっては経済的なメリットが少ないことだった。

旧UEFAカップは、CLのようにUEFAがTV放映権を集中管理して各クラブに分配する仕組みを取っていなかったため、ベスト8やベスト4まで勝ち進んでも、得られるプラスアルファの収入は良くて数百万ユーロに過ぎなかった。カンピオナートで深刻な不振に陥るリスクを冒してまで、UEFAカップで上位進出を目指すのは得策ではなかったということだ。名誉よりも損得勘定を優先するイタリア人気質からすれば、さっさと敗退した方がましだという理屈である。

しかし、UEFAカントリーランキング3位を死守するためには、ジェノア、ローマ、ラツィオというEL参戦組が上位に勝ち進むことが不可欠だ。今シーズンからスタートしたELでは、TV放映権料分配の仕組みがCLと同じになり、クラブに金が入る仕組みができたため、各クラブともモティベーションは高まっているはず。

イタリアサッカーの凋落を避けるためにも、CL、ELともにひとつでも多くのクラブがグループリーグを突破してボーナスポイント(今季から大幅アップした)を確保し、さらに上位まで勝ち進んでもらいたいところである。□
 

UEFAランキングの計算方法

UEFAコンペティションに参加した各クラブには、その成績によって以下のランキングポイントが与えられる。CL、ELともポイントは同じ。

・試合ポイント:勝利2ポイント、引き分け1ポイント(予備予選はその半分)。
・ボーナスポイント:グループリーグ参加4ポイント、グループリーグ突破5ポイント、(昨シーズンまではGL参加3ポイント、GL突破1ポイント)、決勝トーナメントで勝ち上がる毎に1ポイント。

各シーズンのカントリーランキングは、その国から参加した全クラブの獲得ポイントを積算し、参加クラブ数で割った数字(1クラブあたりの平均獲得ポイント)によって決められる。最終的なカントリーランキングは、これを過去5年分合計した数字によって決まる。

08-09シーズンのイタリアを例に取ると、CLにユヴェントス、インテル、ローマ、フィオレンティーナ、UEFAカップにウディネーゼ、サンプドリア、ナポリの計8チームが出場し、トータルの成績は26勝18分18敗(試合ポイント70)、ここに各チームが獲得したボーナスポイント16と、予備予選でナポリ、フィオレンティーナが獲得した試合ポイント5を加算したシーズン総ポイントは91となる。

これを8で割った平均ポイント11.375が、イタリアのカントリーランキングポイントとなる。これはウクライナ、イングランド、スペイン、ドイツに次ぐ5位の数字だ。
 
ちなみに、各シーズンのクラブランキングは、各クラブの獲得ポイントの合計に、そのシーズンのカントリーランキングポイントの20%を足した数字によって決められる。最終的なクラブランキングは、これを過去5年分合計した数字によって決まる。

08-09シーズンのバルセロナを例に取ると、CLの最終成績が7勝5分1敗(+予備予選1勝1敗)なので試合ポイントは20、ボーナスポイントが7、ここにカントリーランキングポイント(13.312)の20%(2.6624)を足した28.6624が総ポイントとなる。

これが、グループリーグを最低の成績(2勝2分2敗)で通過し、決勝T1回戦で敗退したインテルになると、試合ポイントがわずかに7(2勝3分3敗)、ボーナスポイントが4(GL参加+通過)で、総ポイントはここにカントリーランキングポイントの20%(2.2750)を加えて13.2750となる。これは昨シーズンの参加全クラブ中34位という情けない数字である。□

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片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。