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翻訳者として手がけたはじめての小説『シベリアの掟』(ニコライ・リリン著/東邦出版)が発売になりました。ツイッターの公式アカウントは @Siberia_Okite 。

どうして片野道郎がサッカーと関係ない文芸書なんか翻訳してるのよ、というもっともな疑問にお答えすると、この本を日本に紹介したかったから、というひとことに尽きます。

そもそものきっかけは、2年ほど前、この本を原作としてイタリアのアカデミー賞監督ガブリエーレ・サルヴァトーレスが撮った映画「Educazione Siberiana」を観たことでした(ジョン・マルコヴィッチ主演。日本では『ゴッド・オブ・バイオレンス シベリアの狼たち』というタイトルでDVDが発売されています)。

その後すぐに、原作であるこの小説を手に入れて読み耽り、これを何としても日本に紹介したいという気持ちが抑えられなくなって企画書を書き、それに乗って下さった東邦出版からの翻訳・出版が実現したという経緯です。

じゃあこれはいったいどんな本なのか。

原著は、イタリアで2009年に発表されてベストセラーになり、25ヶ国で翻訳出版されている著者ニコライ・リリンの自伝的小説「Educazione Siberiana」。

内容を手短に説明するとこんな感じでしょうか。

<旧ソ連南部の紛争地帯でシベリアに起源を持つ特殊な犯罪共同体に生まれ育った主人公“コリマ”が、少年時代を一人称で振り返り、いくつもの逸話を重ねながら、自らが受けた教育、そしてそれを支える深い哲学と価値観を丹念に描き出した、きわめて興味深く示唆に富んだ自伝的小説>

なんというか、スリリングな犯罪小説であると同時に、良くできたノンフィクションのような手触りもあり、さらに主人公の成長過程を追った一種のビルドゥングスロマンでもあるという、様々な表情を持った一冊です。

著者ニコライ・リリンは、1980年、この小説の舞台である旧ソ連のトランスニストリア(沿ドニエストル共和国)に生まれたロシア人なんですが、24歳の時にイタリアに移住し、イタリア語での創作活動を行っています。イタリアの小説なのに舞台が旧ソ連だというのもそれが理由。

もう少し具体的に内容を知っていただくために、本の中から印象的な言葉や一節を抜き出して、ツイッター @Siberia_Okite で配信しています(なかなかディープな言葉が並んでいます)。

これらのツイートを拾い読みしていただくだけでもわかると思うのですが、この小説が描いている共同体のあり方、そこに提示されている価値観や人生哲学は、あまりにも極端かつ時代錯誤的でありながらも、善悪や現代社会への適否を超えたところで、何故か強く心を引きつける力を持っています。

それは、自分は何を拠りどころにし、何に幸福を見出して生きて行けばいいのか、それを手に入れ守るために他者や社会とどう関わりを持って行くのかという、われわれ誰もが持っているけっこう切実な問いに対して、思いもよらない形でひとつの答えを投げかけているからだと思います。

約400ページという厚い本ですが、一度はまったら一気に読み切ってしまうに違いありません。厚さと内容からすれば1944円(税込)はお買い得です。

どうかご一読のほどを。

By admin

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。