ザックジャパンの総括を上げた流れで、その4年前、南アフリカW杯の日本代表総括もご参考までに。4年間でどれだけ日本代表が進化したか(というか別のステージに進んだか)がよくわかります。オマケとして、大会直前のスイス合宿時にシオンで行われたコートジボアールとの親善試合(闘莉王がドログバを壊した試合ですね)のマッチレポートもつけておきます。

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南アフリカでのワールドカップ4試合を通じて明らかになった「日本の現在地」をひとことで表せば、「守備は世界に通用したが、攻撃は全然通用しなかった」ということになるだろう。

4試合で2失点(しかもPKとミドルシュート。最終ラインを崩されての失点はゼロ)という堅固なディフェンスは、出場国中屈指のレベルにあった。問題は、その守備力が攻撃を全面的に犠牲にすることでしか成立し得なかったところにある。

それを客観的に示すのがFIFAの公式スタッツだ。1試合平均の総パス数は31位、パス成功率(60%)は32位、平均ボール支配率は42%。攻撃の指標はほとんどが出場国中最低レベルだった。

まあ、少なくとも9人、しばしば本田も含めた10人をボールのラインより後ろに戻し、深いラインを敷いて守っているのだから、そこで奪ってもそう簡単に敵陣にボールを運べないのは道理である。しかし、日本が現在地よりも先に進むためには、現在の守備力を保った上で、そこに攻撃の量と質を上乗せして行くしかない。

攻撃の量というのは、端的に言えばボールポゼッションのことだ。アジアレベルではなく世界レベルの厳しいプレッシャーと速いプレーリズムの中で、スピードのあるパスを正確につないで攻撃を組み立てるためには、何よりも基本技術のさらなる向上が必要だ。

攻撃の質に関しては、個人と組織の2つの側面がある。もし日本に本田レベルのタレントがもう2、3人いれば、現状のままでもベスト8までは行けただろう。単独で違いを作り出すことができるタレントの有無は、絶対的なチーム力に直結している。組織という観点では、ボール奪取能力の向上(今大会の守備は、相手の攻撃を食い止めるための守備であり、積極的にボールを奪って逆襲に転じるためのそれではなかった)、奪った直後の展開のスピードアップ(カウンターの質向上)など、戦術的な課題は少なくないように見える。

しかし、それと同じくらい重要なのは、実は守備力のさらなる向上である。今大会、FWとしての絶対的なクオリティが最も高い森本に出場機会がなかったのは、彼の守備力に不安があったからだろう。しかし、1トップにまで得点力より守備を求めなければディフェンスの帳尻が合わないのだとすれば、攻撃力の劇的な向上は今後も期待薄。W杯ベスト16レベルのチームに「負けない」と「勝てる」の間にある深い溝を埋めることは難しいだろう。せめて森本のような攻撃のタレントを躊躇なく前線に起用する「贅沢」を許せるところまで、残る9人での守備力を高めてほしいと思うのだが。□

(2010年6月29日/初出:『エル・ゴラッソ』)

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日本 0-2 コートジボワール
2010年6月4日(金)12:20 シオン(スイス)

一部で「ハエサッカー」と揶揄されるハイラインプレス戦術を抑制、DFラインを普通の高さに保ち、敵が自陣に入ってきたところから連係を保ってプレッシャーをかけに行くというオーソドックスな守備戦術は、まずまず機能しているように見えた。フィジカルコンタクトで劣勢に立ち中盤をじわじわと押し込まれながらもフリーの敵を作らせず、決定機らしい決定機をほとんど与えなかったことは、ポジティブな収穫には違いない。

しかしその代償が、流れからの枠内シュートゼロ、「最後の30m」に侵入した回数すら数えるほどという、あまりに貧弱な攻撃力なのだとすれば、トータルの収支がプラスに転じたとは言い難い。ワールドカップ本番に向けた最後のテストを終えた日本代表が与える印象は、つまるところ「上手く行けば勝ち点1、行かなければゼロ」というそれから動かないままだ。

攻撃に関して最も腑に落ちないのは、(ラインの高さはどうあれ)組織的なプレッシングにより中盤でボールを奪う守備を打ち出しているにもかかわらず、奪った後の切り替えが緩慢で無駄な横パスが多く、相手の守備陣形が整う前に縦に勝負するというカウンターの意識が薄いこと。この試合ではフィジカルで上回る相手に素早く寄せられ、慌てて逃げの横パスを出しそこで早くも行き詰まる場面が何度も目についた。カメルーン戦でも同様の場面は容易に起こり得るだろう。

中盤でパスをつなぎポゼッションベースで攻撃を組み立てようというのが日本の基本的な姿勢だが、相手のプレッシャーが厳しい場合には、むしろ一旦DFラインに戻してそこから早いタイミングで前線に放り込み、そのセカンドボールを狙って押し上げるといったシンプルな展開も、もっと試みていいのではないか。日本が作り出した数少ないチャンスのうち2つが今野のアーリークロス絡みだったこと、その一方では中盤のパスミスからカウンターのチャンスを与えた場面が3度もあったことは象徴的だ。

CFに岡崎を起用しているのは、敵のCB2人をひとりで追い回す運動量ゆえなのだろうが、ポストプレーで組み立てに絡むよりは裏を狙うタイプということもあり、攻撃の局面では持ち味が出し切れていない印象は拭えない。もしハイラインプレッシング路線を妥協するのであれば、守備力では岡崎に劣るものの、ポストプレー、スペースにパスを引き出す動きのいずれにおいてもより高いクオリティを持つ森本のスタメン起用も「あり」ではないだろうか。もし機能すれば、「上手く行けば勝ち点3」に向けて大きな希望をつないでくれるのではないかという気がするのだが。■

(2010年6月4日/初出:『エル・ゴラッソ』)

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片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。