チャンピオンズリーグ14-15、R16のドローが決まりました。それに合わせて、6年前(08-09)のCLベスト16について書いたテキストを。ここで挙げた当時の「常連」と今回のベスト16を比べると、ミラン、インテル、マンU、リヴァプール、リヨン、PSVが脱落して、マンC、PSG、ドルトムント、アトレティコあたりが入ってくる感じでしょうか。6年経つと色々なことが変わってきますね。「後退が目立つ」と書いたドイツは、バイエルン、ドルトムントにレヴァークーゼンとシャルケを加えて4チームすべてが勝ち上がる盛況ぶり、それと比べてイタリアは……orz

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「常連クラブ」による独占が進むCLベスト16

今シーズン(08-09)は、CLが現在のシステム(シード16チーム+予備予選経由16チームの32チーム制)となってから10年目にあたる。来シーズンから、シードと予備予選の比率が22対10に変わるという小変更があるが、「32チームによるグループリーグ+決勝トーナメント」という基本フォーマットは、ひとつのモデルとして完全に定着したと言っていいだろう。

決勝T開始に当たって、この10年間のベスト16進出チームの顔ぶれを一覧にして見てみると、クラブや国の栄枯盛衰、そして欧州サッカーの大きな流れが俯瞰的に見えてくる。

ここ数年すっかり顕著になった傾向は、ベスト16の固定化である。過去5シーズン連続でベスト16進出を果たしているチームは、イングランド勢3(アーセナル、チェルシー、リヴァプール)、スペイン勢2(レアル・マドリー、バルセロナ)、イタリア、フランス、ポルトガル各1(インテル、リヨン、ポルト)と8チームにも上る。5年間にわたり、全体の半分はいつも同じ顔ぶれというわけだ。

ここに、4回進出の3チーム(マンチェスターUtd、バイエルン、ミラン)、3回進出の3チーム(ユヴェントス、ローマ、PSV)を加えると、ベスト16常連リストの出来上がりとなる。この中で、今季勝ち残っていない(出場していない)のはミランとPSV、たった2チームに過ぎない。

これが何を意味するかといえば、16チーム中12~13は常に同じ顔ぶれによって占められており、常連以外のクラブに残された「枠」は、3つか4つでしかないという事実である。

90年代末、主要国のビッグクラブが結成した圧力団体G-14は、自らが興行主となることによってCLという「利権」を独占しようという意図の下に、「欧州スーパーリーグ構想」の実現を目指した。この構想は、昨年1月、プラティニUEFA会長との合意によってG-14が解散し、UEFAとの対立関係が解消されたことによって決定的に頓挫することになった。

とはいえ、現在のCLの状況を見る限り、G-14は所期の目的をほぼ達したと言っても過言ではない。CLというコンペティションのビジネス規模は毎年着実に膨れ上がっており、しかも、分配金という名前がついたその「果実」の大半は、結局のところ彼ら「常連クラブ」の懐に転がり込んでいるのだから。そして、ここに挙げた14の「常連クラブ」のうち、チェルシーとローマを除く12クラブは、G-14のメンバーだったのである。

この10年間を通しての栄枯盛衰を見てわかるのは、イングランド、スペイン、イタリア、すなわち三大リーグの勢力がますます強くなっている一方で、ドイツ、フランス、ポルトガルという二番手グループ(UEFAカントリーランキングでも4~6位を占めておりCLに3チームをエントリーできる)は横ばい状態、そしてそれ以下の中堅国がベスト16に勝ち残るのはどんどん困難になってきているという事実である。

99-00シーズンから03-04シーズンまでの5年間と、04-05シーズンから今シーズンまで直近の5年間を比較してみると、それがよくわかる。

99-04の5年間をトータルで見ると、ベスト16の中に三大リーグのクラブが占めた割合は54%だった。最も多くのクラブを送り込んだのはスペインで、予備予選も含めた出場枠の合計20に対し、85%にあたる17ものクラブがベスト16に勝ち上がった。それに続くのがイングランドで、ほぼ毎年3チームが勝ち残っている。イタリアは4チームすべてが勝ち上がった02-03シーズンを除き、CLにエントリーした4チーム中のうち半分はグループリーグあるいは予備予選で敗退していたことになる。

それが、04-09の5年間になると、三大リーグのクラブが占める割合は61%にまで高まって来る。中でも一気に勢力を伸ばしてきたのがイングランド勢だ。アーセナル、チェルシー、リヴァプールは5年連続のベスト16、唯一マンUが、世代交代の端境期となった05-06シーズンにGL敗退の不覚を取っただけである。

逆にスペインはやや後退気味。レアル・マドリー(10年連続でベスト16に勝ち上がっているただひとつのクラブである。この4年間そこから先に行けないのはまた別の話)、バルセロナという二強は安泰だが、それに続く第2グループからデポルティーヴォとヴァレンシアが脱落した。入れ替わりにヴィジャレアル、アトレティコ・マドリーが頭角を現してきたが、まだ16強定着には至っていない。一方イタリアは、毎年コンスタントに3チームを送り込むようになり、直近5年間のトータルではスペインに並びかけた。

ドイツ、フランス、ポルトガルという二番手グループの動向を見ると、全体的には10年間を通じて横ばい。しかしその中ではドイツの後退が目立つ。国内リーグを見る限り、「1強」バイエルンの立場をその時々に勢いのある1~2のチームが脅かすという構図はこの10年間不変なのだが、ことCLの舞台になると、バイエルンに次ぐチームの競争力が徐々に下がってきているという印象だ。

99-00シーズンから05-06シーズンまでは、常連クラブの一角を占めるバイエルンに加え、バラックを擁して01-02シーズンの決勝まで勝ち上がったレヴァークーゼンもほぼ常連格で、さらにヘルタ、ドルトムント、シュツットガルト、ヴェルダー・ブレーメンと、毎年2~3チームがベスト16まで勝ち残っていた。だがここ3シーズンは1チームのみ。ブンデスリーガの経済的な隆盛とは裏腹に、欧州レベルでの競争力はやや低下気味である。他方、フランスではリヨン、ポルトガルではポルトが常連クラブに名を連ねており、シーズンによってそこにもう1クラブが加わるかどうかという格好だ。

10年間をトータルすると、ここまで見た6カ国で、ベスト16進出総クラブ数の84%を占める。99-04の5年間は80%、04-09の5年間はさらに増えて87%。上記6カ国以外の中堅・弱小国のクラブにとって、CLへの参加はともかく、ベスト16への勝ち残りはますます狭き門になっていることがわかる。

実際、ベスト16にクラブを送り込んだ国の数は、99-04の5年間に9カ国(オランダ、ギリシャ、チェコ、ロシア、トルコ、オーストリア――オシム率いるシュトルム・グラーツ――、ベルギー、スイス、ノルウェー)あったのに対し、04-09の5年間は4カ国に減っている。

ここまで見てきたここ10年間の流れをまとめると、1)三大リーグの勢力拡大、2)ジリ貧の二番手グループ、3)中堅・弱小国の後退――ということになる。

これまで何度も取り上げてきたことだが、その大きな背景にあったのは、ビジネスとしての三大リーグの隆盛、とりわけここで「常連クラブ」という括りで取り上げたメガクラブ、ビッグクラブとそれ以外との経済格差の拡大である。次回は、今週発表されたばかりの2009年版クラブ売上高ランキング(デロイト・フットボールマネーリーグ)を題材に、その辺りとの関連を掘り下げることにしたい。□
 

ジリ貧ながら踏ん張るイタリア勢

この10年間のイタリアサッカーを、CLというフィルターを通じて振り返ってみると、結構浮き沈みが多かったことがわかる。象徴的なのは、クラブ別のベスト16進出回数だ。イングランドではアーセナルとマンU、スペインではR.マドリーとバルセロナが、10年で8回以上の勝ち上がりというコンスタントな結果を残しているのに対し、イタリア勢はミランが7回、インテル、ユヴェントスが6回、ローマが5回と、それぞれのクラブがはっきりとした低迷期を経験している。

ミランは、ファビオ・カペッロが5年間で4度のスクデットを置き土産に監督の座を去った95-96シーズン以来、アンチェロッティの下でピルロを擁してビッグイアーを勝ち取る02-03シーズンまで、ヨーロッパの舞台はもちろんセリエAですら凡庸な成績しか収められない時代が続いた(唯一の例外が98-99シーズンのスクデット)。その後6シーズンに渡ってヨーロッパの頂点を争い続けたが、世代交代期を迎えた今季はついにCL出場権を失った。

インテルも、ベスト16の常連になったのは02-03シーズン以降。00年代初めまではいくらカネを使っても勝てないことで知られていた。このところ、セリエAでは常に主役の座を張り続けているが、CLでは02-03シーズンにミランと準決勝を戦った以外、良くてベスト8止まりで、ビッグイアーからは40年以上も遠ざかっている。今季、マンUとの決戦を制すれば悲願達成の大きなチャンスだが……。

ユヴェントスは、アンチェロッティ政権下の99-00、00-01シーズンに低迷期を経験した後、06年夏のカルチョスキャンダルによる制裁で、過去2シーズン、ヨーロッパの舞台から遠ざかって過ごすことになった。

だが全体として見れば、ここ数年力をつけてきたローマを含めて、過去5シーズンは毎年3チームをベスト16に送り込んでいることも事実だ。00年代初頭の苦しかった時期と比べて、緩やかながら回復基調に乗せて来つつあるといえる。イングランド、スペイン両国のメガクラブ勢との経済格差(これも詳しくは次回取り上げます)が広がりつつあることを考えれば、これは健闘と言ってもいい。ちょうどこれから始まるイングランド勢との直接対決三本立てが見物である。□

(2009年2月20日/初出:『footballista』連載コラム「カルチョおもてうら」)

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片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。