親会社パルマラットの破綻によって2004年初めに経営危機に瀕したパルマ。その後、政府主導の再建委員会の下で売却先を探していた同年夏、買収に乗り出してきたのが、1999年までR.マドリーの会長を務めたスペイン人ロレンツォ・サンスでした(結果的には、買収の手付金を振り込まずにケツをまくることになるわけですが……)。ちょうど買収話が具体的に動き出した2004年8月末に書いた、当時の状況のレポートです。

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破産・消滅こそ何とか免れているものの、財政的な困難を抱えてギリギリのところで何とか踏みとどまっているクラブは、セリエAには少なくない。親会社パルマラットが不正経理操作によって100億ユーロ(約1兆3500億円)にも及ぶ巨額の損失を出して破綻したとばっちりを受け、1年前に一度負債を清算して出直すことを強いられたパルマもそのひとつだった。

昨シーズンはピッチ上でも深刻な危機に直面し、プレーオフでボローニャを下して何とかセリエA残留を決めるのが精いっぱい。クラブは親会社同様、政府が派遣した管財人の管理下に置かれ、昨年秋から売却先を探しながら、なかなか買い手がつかないという状況が続いていた。

ところが今月に入って、そこに誰も予想しなかった救世主が現れた。

8月12日、2750万ユーロ(約37億円)でクラブの発行済み全株式を取得する合意を交わし、経営権を手に入れたのは、スペインの不動産業者ロレンツォ・サンス・マンセボ。1995年から2000年まで6年間、レアル・マドリードの会長を務め、96年にはレアルにファビオ・カペッロを招聘して復活のきっかけを作り、翌シーズンには32年ぶり7度目のチャンピオンズカップをもたらした一方で、凡庸なDFである息子フェルナンドを無理やりトップチームに上げ、起用するよう監督に圧力をかけたりしていた、あのサンスである。

2000年の会長選挙で、フィーゴ獲得を公約に掲げた現会長フロレンティーノ・ペレスに敗れ、2004年の選挙で復活を目指したものの、10%の票も取れずに完敗。その後も、スペイン3部のグラナダ、スイス1部のセルヴェッテなど、財政危機にあるクラブの買収に動いていたというから、サッカーの世界に復帰する機会を虎視眈々と窺っていたのだろう。

もっとも、本業の不動産事業でも、1年前からイタリアに投資を始めており、パルマの買収もサンス個人というより、彼が経営する不動産会社インヴェルシオネス・レンフィサの事業展開の一環だと考えることもできる。事実、サンスは新スタジアム建設の可能性を否定していない。

いずれにせよ、こうしてパルマは思わぬ形で、1年半にわたる崖っぷちの状態から抜け出し、実質的な再生を果たす見通しとなった。

2750万ユーロという買収額は、監督、選手、スタッフといった流動資産はもちろん、パルマ郊外のコレッキオにある練習場や新築したばかりのユース選手寮などの固定資産までを含めた金額としては、割安といっていいというのがマスコミの評価。パルマの銀行口座には、すでに“手付け金”として100万ユーロが支払われており、残る2650万ユーロの支払い期限は9月20日に設定されている。いずれにせよ、買収の合意をキャンセルすることはできない。

サンスは、買収が発表された翌日の8月13日、サポーターに向けて「未来の会長より」という公開書簡を発表、その中で「この買収は、パルマを、このクラブが14年間に渡って戦い続け、カップウィナーズカップ1回、UEFAカップ2回、欧州スーパーカップ1回という素晴らしい結果を残した舞台、すなわちヨーロッパに連れ戻すことが目的です」とぶち上げている。

18日にパルマで行われた記者会見でも、サンスのイタリアにおける代理人が「あまり大きなことを言いたくはないが、サンスが残留争いをするためにクラブを買うということはあり得ない。すぐに、というわけでないことは確かだが、将来的にはスクデットを争うチームに育てたいという考えだ」と明言している。

ただし、今シーズンのチーム作りに関しては、まだ買収金をパルマの口座に振り込んでいないという事情(額が大きいため、マネーロンダリングを避けるためにスペイン中央銀行の許可を受ける必要がある)から、現在の経営陣に任せたまま。ジラルディーノという最大の得点源を失った穴は、コッラーディ、デルヴェッキオという中堅・ベテランで埋め、トップ下にはモルフェオをインテルから獲得したが、これらはいずれもレンタルや契約切れによるフリー移籍で、移籍金を支払っての新戦力獲得は今のところゼロ。現時点でのパルマの戦力値は残留争いが精いっぱいのレベル、というのが、大方の評価である(筆者も同意見)。

8月31日の移籍期限までに買収金の支払いが完了すれば、サンス自ら補強に動くことができるはずだが、お役所仕事的な手続きの問題ゆえ、間に合うかどうかは微妙なところ。いずれにせよ、本格的に補強の手が入るのは、1月に再開される冬の移籍メルカートから、ということになるだろう。

これまで、イタリアのクラブに外国の資本が入った例としては、90年代末イングランドの投資会社に買収されたヴィチェンツァ(昨年、地元の実業家が買い戻した)があるが、外国人のオーナーが自ら経営の腕を振るうというのは、過去には例がないはず。今後の成り行きが興味深い。

ちなみにサンスは、現在マラガでプレーする息子フェルナンドをパルマに連れてくるつもりはないらしい。■

(2004年8月25日/初出:『エル・ゴラッソ』)

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片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。