2012年9月に刊行した4冊目の著書です。
1992年にスタートした「UEFAチャンピオンズリーグ」20年の歴史を、ピッチ上とピッチ外、「スポーツ」と「ビジネス」というふたつの視点から俯瞰的にまとめたクロニクル。
以下、「まえがき」と「あとがき」からの抜粋です。
1955年に創設された欧州最強のクラブを決めるトーナメント「ヨーロピアン・チャンピオン・クラブズ・カップ」(欧州チャンピオンズカップ)が、1992-93シーズンに「UEFAチャンピオンズリーグ」という名称になってから、2011-12シーズンで20年が過ぎた。
誕生から20年を経た今、チャンピオンズリーグ(以下CLと略記)はヨーロッパ、そして世界最高峰のフットボール・コンペティションという称号をほしいままにしている。かつて、その称号は4年に一度開催されるナショナルチームの祭典、FIFAワールドカップのものだった。しかしある時期からそれは完全にCLのものになった。
CL20年の歴史は、ヨーロッパのプロサッカーがスタジアムを舞台にした「都市/地域のスポーツ」から、TVを舞台にした「グローバルなエンターテインメント産業」へと大きな変化を遂げた時代と完全に重なっている。というよりも、CL自体がその変化の最も大きな主役として、時代の流れを先導する存在だったと言ってもいい。
その変化の背景にあるのは、ヨーロッパ社会そのものが経験した歴史的な変化、そして世界的に進展したプロスポーツの商業化・ビジネス化という大きな波だった。
本書は、CL20年の歴史をひとつのクロニクルとして通時的に追いつつ、背景となる社会からサッカー界そのものに至る様々な環境の変化、そしてそれがクラブの栄枯盛衰やピッチ上の勢力地図にどのように反映し影響を及ぼしてきたかという具体例まで、その全体像を俯瞰的に視野に収めようとする狙いを持っている。
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15年来、ヨーロッパの片隅に暮らしながらサッカーを追うことを仕事とする中で、筆者が否応なく実感するようになったのは、スタジアムを舞台にしたピッチ上の栄枯盛衰は、ピッチの外にあるクラブの戦略や経営状況、そしてそのさらに背後にある国や社会という大きな環境と分かちがたく結びついているということだった。
UEFAチャンピオンズリーグという世界最高峰のフットボール・コンペティションの歴史をたどりながら、その間に欧州のサッカー界が経験してきた「都市/地域のスポーツからグローバルな産業へ」という大きな質的変化、そしてさらにその背景にあるベルリンの壁崩壊からEU統合、そして昨今のユーロ通貨危機に至るヨーロッパ社会の変化までをひっくるめて、ひとつの大きなストーリーとして語ろうというのは、いささか乱暴な試みだったかもしれない。
しかし、あえてそれを試みることを通じて、自分がこれまで見てきたヨーロッパにおけるサッカーというスポーツのあり方を大きな視点から描き出してみたい、断片的な情報の継ぎはぎではなくひとつの全体像として欧州サッカーの過去と現在を提示したいというのが、本書を書こうと思ったそもそもの動機だった。それがどこまで成功したかは、いつものように読者のみなさんのご判断に委ねる以外にはない。
2012年7月22日
片野道郎