セリエA最終節でローマのスクデットが決まり、長かった2000-2001シーズンもやっと終わりを告げようとしている。

まだ「終わった」といえないのは、木曜日と日曜日に残りひとつの残留ポストを賭けたヴェローナvsレッジーナのプレーオフがあるためだ。これにヴェローナが勝つと、今シーズンセリエAに4チームあった南イタリア勢のうち、3チーム(ナポリ、バーリ、レッジーナ)が降格ということになる。

入れ替わりでBから上がってくるのが、トリノ、ピアチェンツァ、キエーヴォ・ヴェローナ、ヴェネツィアと軒並み北部勢なので、来シーズンのセリエA地域分布は大きく書き換えられてしまうことになる。

イタリアに限らずヨーロッパ全体のプロサッカー界において、ますます「カネが物を言う」度合いが高まる中、これはイタリア南北の経済的な格差を象徴する出来事ともいえる(もちろん話はそれほど単純ではないがここでは割愛)。
 
さて、最終節までもつれ込んだスクデット争いは、結局ローマの勝利で決着がついた。終盤戦で少々もたついたとはいえ、開幕からほとんど常に首位を走り続けてきたこと、トータルで75ポイント(勝利に3ポイントが与えられるようになった94-95シーズン以降最多)を稼ぎ出したことなどを考えれば、今シーズン最もスクデットにふさわしいチームがローマだったことは間違いないだろう。

そのローマのスクデットにとって最も重要な意味を持った試合が、5月6日のユヴェントス戦だったことにも、異存のある向きは少ないはずだ。この試合から半月後、ユーヴェのアンチェロッティ監督と話す機会があったのだが、その時彼はいつものように淡々と、しかし心の底の苦々しさをにじませるような口調で、こう語っていた。

「中田のシュートが決まるまで、ローマは死んでいた。本当に死んでいたんだ。中田が交代で入ってこなければ、絶対にこっちが勝っていた。あれはそういう試合だった」

トッティに替えて中田、デルヴェッキオに替えてモンテッラを投入し、その2人が決定的な働きをしたユーヴェ戦の最後の30分は、今シーズンのローマの縮図である。他のどのビッグクラブに行っても堂々とレギュラーを張れる選手をベンチ(や観客席)に縛りつけるというデリケートな状況を、深刻な不協和音やトラブルに至らしめることなくシーズン終盤の大事な時期に至るまでコントロールし続けた上に、このカードを最も効果的なやり方で切ることを知っていたカペッロ監督、そしてそれを支えたセンシ会長以下クラブ首脳陣は、賞賛に値する。

回りを見渡せば、ほとんどすべてのライバルが、どこかで何らかのトラブルを起こし、監督の首をすげ替える羽目に陥ってきたのだから。

今シーズンのローマは、これだけの顔ぶれを揃えたチームを構築し、それを維持するために、最初の9ヶ月間で1000億リラ(約55億円)を超える、まったく尋常ではない赤字を計上している。そこまでしてでもスクデットを獲る、獲ってしまえば後はおつりが帰ってくる、というのが、センシ会長の覚悟だったということだ。

とはいえ、ローマはラツィオと並び、セリエAではただ2つの上場企業でもある。上場して最初の決算で赤字でも出した日には、株主と投資家の信頼はがた落ちだから、年度最後の3ヶ月(4~6月)プラス特別収支で、何としてもこの1000億リラを穴埋めしなければならない。

それを可能にするほとんど唯一の手段が選手の売却である。6月30日までにモンテッラと中田を売り払うことができれば、それだけで赤字の大半は埋まってしまう。選手を買うのは、次の決算年度に入った7月まで延ばせばいいのだ。とはいえ、他のクラブも事情は似たようなものなので、それほど話は単純ではないのだが…。

いずれにせよ、センシ会長が中田に700-800億リラという法外な値札をつけている背景には、この膨大な「スクデット赤字」をどうやって埋めるかという思案が反映していることは明らかだ。 

昨シーズンのラツィオに続いて、2年連続でローマ勢がスクデットを獲得した一方で、2度ともあと一歩のところでタイトルを逃したのがユヴェントス。アンチェロッティは、2年続けてチームを2位に導き、いずれも“優勝ライン”といわれた70ポイントを越える(計144ポイント)という、最も安定した成績を残したにもかかわらず、タイトルがひとつも獲れなかったというただひとつの汚点を突かれて解任に追い込まれた。

シーズンが終わったところであるにもかかわらず、あえて“解任”と書いたのは、アンチェロッティはたった2ヶ月前に、今シーズン限りで切れるはずだった契約を、来シーズン末まで更新したばかりだったため。

その詳しい顛末については機会を改めて触れるつもりだが、いずれにせよ確かなのは、どのビッグクラブも来期の監督を決めてしまったこの時期になってこれをやられたら、アンチェロッティに来シーズンの行き場所はない、ということだ。十中八九、来シーズンは浪人だろう。

後任は、前監督のマルチェッロ・リッピ。イタリアには「温め直したスープは不味い」という諺があって、出戻りや同じことの焼き直しを揶揄するときに使われるのだが、カルチョの世界にもこの諺はよく当てはまる。監督の例でいえば、90年代前半にユーヴェに戻ったトラパットーニ、後半にミランに戻ったサッキやカペッロがその好例だ。

リッピの出戻りは、ユーヴェの首脳陣というよりも、その上にいるオーナーの意向(と威光)が強く働いた結果のようだ。果たして、アニエッリ家のオーブンで温め直したこのトスカーナ産のスープ(中にはたぶんヴィアレッジョで獲れた魚が入っているはずだ)はどんな味なのだろうか?

当主のウンベルト博士は、カリブ産(リリアン)やチェコ産(パヴェル)、オーストラリア産(ボボ)といった高級食材やスパイスを奮発して味を調えたいようだが、最初の一口が美味くなければ、つまり1年目でユーヴェにタイトルをもたらすことができなければ、そのままゴミ箱行きになる気配もありそうな…。 

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。