「このシーズンの責任を取れというのならそうしよう。いずれにせよ、できることは最大限やってきたつもりだ。インテルのオファーを受けたことは後悔していない。ここはインテルであって、その辺の草サッカーチームではないのだから。ここまでの結果については残念に思っている。でも、クラブとチームのために役立つ仕事も多少はできたと思っている。それが結果には表れてくれなかったが…」。
 
これは、インテルのマルコ・タルデッリ監督が先週末の記者会見で語ったコメントである。まだあと3試合残っているというのに、TVに映った会見の席には、まるでシーズンが終わり解任が決まったような諦めに満ちた空気が漂っていた。

0-6という史上最低のリザルトでミラノ・ダービーを落とし、その4日後に行われたパルマ戦も1-3の完敗。44ポイント(6位)で足踏みしている間に、4位パルマは53までポイントを伸ばして、来期のチャンピオンズ・リーグ出場権は絶望となった。

それどころか、7位以下にアタランタ(43)、ボローニャ(42)、ペルージャ(41)が迫ってきており、下手をすると来シーズンのUEFAカップ出場権さえも失う可能性がある。

実際、状況は決して楽なものではない。3週間前、サポーターがクルヴァの2階席にアタランタ・サポーターが乗ってきたスクーターを持ち込み、火をつけて燃やした上に1階席に投げ落とすという、信じられない暴挙に出たおかげで、インテルは2試合の間、サン・シーロの使用禁止処分を受けている。

つまり、残り3試合のうち2つあるホームゲームを、いずれも中立地(おそらくバーリ)で行わなければならないということだ。しかも、その相手はラツィオとボローニャ。

インテルは、仮にUEFAカップの出場権を逃した場合、7位のチームに与えられるインタートトの出場権を辞退すると表明している。開幕戦でリッピを解任した今シーズンもまた、シーズン半ばでシモーニを解任した2年前(98-99)と同様、ヨーロッパへの切符を失ってシーズンを終えることになるのだろうか。
 
ダービーで惨敗を喫した数日後、「チームは戦う意志すら失っていた。サポーターと会長に対する侮辱だ。さすがの私も、恥ずかしさと屈辱のあまり、すべてを投げ出したくなった」と語っていたモラッティ会長だが、2年前のこの時期に一度会長辞任を表明したときと同様、気を取り直してトップの座にとどまる決意を固めているようだ。

21日に行われたクラブの役員会でも、近いうちに資本金を500億リラ(約28億円)ほど積み増すことが決議されている。

そうなれば、待っているのはもちろん、今や恒例となった“新監督を迎えてのチーム大刷新”ということになる。モラッティはつい1ヶ月ほど前まで、来シーズン末まで契約のあるタルデッリ監督に、もう1年間チームを任せる意向を表明していた。しかし、ダービーの惨敗、そしてそれ以上に戦う意志すら失ってしまったチームの惨状は、そうでなくとも移り気で忍耐力のない会長の考えを変えさせるには十分だったということだろう。
 
次期監督の座が確実視されているのは、つい4日前、ヴァレンシア(スペイン)を率いて2年連続となるチャンピオンズ・リーグ決勝をサン・シーロで戦ったアルゼンチン人、ヘクトール・クーペル。

ご存じの通り2年連続で“ビッグイヤー”を逃すことになったが(マヨルカを率いたカップウィナーズ・カップ決勝でラツィオに敗れているため、3年連続の欧州カップ獲得失敗)、それが、欧州サッカーシーンを代表する偉大な監督であるという彼への評価を揺るがすことはもちろんない。

CL決勝の当日、クーペルの代理人役を務める弁護士アレハンドロ・タマーノが、インテルのクラブ・オフィスを訪れている。両者は、年俸60億リラ(約3億4000万円)の3年契約という基本線では、すでに合意に達していると伝えられており、今回は契約の詳細を詰める作業が進められたものと見られている。
 
確かに、“モダンなカテナッチョ”とでもいうべき彼の典型的なカウンターサッカーには、1-0の勝利よりも4-5の敗北に満足するスペインのメンタリティ(外から見ているとそう見えるのだが…)よりも、イタリア、しかも60年代に元祖カテナッチョでヨーロッパを制したグランデ・インテルの再現を切望するミラノの方が、ずっとよく似合うに違いない。

そして注目すべきは、クーペルのプロフィールが、かつてのグランデ・インテルを率いた名将エレニオ・エレーラ(HH)と酷似していることだ。スペインで成功したアルゼンチン人である、ディフェンス重視のカウンターサッカーを信条とし美しいサッカーよりも勝利を選ぶ、チームスピリットを何よりも優先し厳しい規律で選手に接する、等々、2人には数多くの共通点がある。

就任が決まれば、当分の間は“HHの再来”としてもてはやされ、インテリスタの希望の星となることは間違いないだろう。
 
しかし問題は、インテルがこれまで慢性的に陥ってきた危機は、果たして“新監督を迎えてのチーム大刷新”によって解決できるたぐいのものなのかどうか、というところにある。それは、モラッティの会長就任以来、ホジソン(96-97)、シモーニ(97-98)、リッピ(99-00)と、何度も繰り返されてきた“大刷新”の試みが、ことごとく失敗してきたのはいったい何故なのか、という問いにもつながるものだ。

この5年半の間、インテルを通り過ぎていった監督はタルデッリを含めて8人、選手はその10倍にも及ぶ。クラブの運営を預かるディレクター陣も、昨シーズン、監督にリッピを迎えた時に大幅な刷新が行われ、しかもそこにさらに新しい顔が加わって現在に至っている。その中で唯一変わっていないのは、それらすべての上に君臨するマッシモ・モラッティ会長の存在である。

誰よりもインテルを愛するモラッティは、その愛するインテルに注ぎ込む私財には事欠かない。欠けているのは、チームが苦況に陥った時にも、その私財を注ぎ込むことを我慢し、監督を信頼し続ける忍耐力の方だ。

ミランのベルルスコーニ会長はかつて、セリエBのパルマから抜擢したアリーゴ・サッキ監督がチームを掌握できないまま危機を迎えたとき、試合前のロッカールームから出ていく選手たちひとりひとりを捕まえて、こう言って聞かせたという。

「いいか。これだけは覚えておいてほしい。私はこのチーム全員とサッキひとりとどちらを取るか、と聞かれたらサッキを取る」

そのシーズン、ミランはマラドーナのナポリをひっくり返してスクデットを勝ち取ることになる。“サッキのミラン”の栄光はこうして始まった。

ホジソンもシモーニもリッピも、モラッティからこれだけの信頼と支持を得ることができていれば、もっと違った結果を出すことができたに違いない。
 
インテルはすでに、マテラッツィ(ペルージャ)、ヘルヴェグ(ミラン)、エムレ、オカン(ともにガラタサライ)といった選手を、来シーズンに向けて獲得済みだ。ユヴェントスのゼネラル・ディレクター、泣く子も黙るルチャーノ・モッジを引き抜こうとしているという噂もある。そしてクーペル。終わりを知らない“大刷新”は今年も続く。

つい最近のインタビューで「金を使えば勝てるわけではない、高い選手がいい選手とは限らないということがやっとわかった」という名言(!)を吐いていたモラッティは、今度こそこの“終わりなき大刷新”に終止符を打つことができるだろうか。

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。