12月19日のセリエA第14節、最大の話題となったのは、バーリがインテルを2-1で破った一戦だった。

この日のバーリは、主力のFW3人(マシンガ、オズマノフスキー、スピネージ)を故障で欠くという「非常事態」。ファシェッティ監督は、やむを得ずプリマヴェーラの17歳・カッサーノと今年ナイジェリアから発掘してきたばかりの18歳・エニンナイヤ、2人の「未成年」を前線に並べるという布陣で、この大事なゲームに臨まなければならなかった。

ところが、蓋を開けてみると、この2トップがインテル守備陣を文字通りきりきり舞いさせ、それぞれ1ゴールづつを挙げてチームを勝利に導くという、思いもかけない展開となった。

エニンナイヤの先制ゴール(前半6分)は振り向きざまに放った35mの超ロングシュート。後半42分にはカッサーノが、浮き球のミドルパスを走りながらバックヒールでダイレクトにコントロールし、そのままスピードに乗ったドリブルで25mを独走、最後には追いついてきたDF2人(パヌッチとブラン)をフェイント一発で置き去りにして冷静にゴールに流し込むという、R.バッジョばりのプレーで決勝点を決める。

どちらも、年に何度も見られないスーパーゴールだった。2人合わせても35歳という「子供」たちにいいようにあしらわれたインテルは、トップから8ポイント差の6位に低迷、一方のバーリは、この勝利でペルージャと並び7位に躍進している。
 
さて、10月と11月に2回ほど、「中堅クラブの未来」について取り上げた。「歴史と伝統」がモノをいわなくなってしまった「カルチョ・ビジネス」の時代を迎え、中小クラブがセリエAに定着して生き残っていく道はどこにあるのか、というのがそのテーマ。

前回「カネにあかせて選手を買い集めるだけが競争力のあるチームを作り上げる方法ではない」と書いたが、近年のバーリは、そのひとつのサンプルといっていいだろう。
 
ここ数年、バーリは常に、ビッグクラブにとって重要な選手供給源であり続けている。マンゴーネ(ボローニャ→ローマ)、ヴェントラ(インテル→ボローニャ)、サーラ、デ・アシェンティス(ミラン)、ザンブロッタ(ユヴェントス)といったプレーヤーは、いずれもバーリでセリエAデビューを果たした選手。

また、インゲション、K.アンデション(ボローニャ)も、バーリが海外から獲得してきたプレーヤーである。

こうして、毎年主力選手を売却し続けているにもかかわらず、バーリはこの2シーズン、大きな降格のリスクを負うこともなく、A残留を勝ち取り続けている。それどころか、少しづつではあるが、毎年着実にチーム力を高めつつすらあるのだ。その秘密はどこにあるのか。それは、長期的な視点に立った選手の発掘と育成である。
 
70-80年代のほとんどをセリエBで過ごしたバーリは、A昇格3年目の91/92シーズン、A定着(=中堅クラブへの仲間入り)を狙って、当時としては破格の150億リラを投資し、プラット、ボバン、ヤルニを獲得する。

しかし結果はB降格。投資の「回収」に失敗したバーリは、メンバーの大半を入れ替えて、セリエBで一から出直しを図らざるを得なかった。そして、その後のクラブとしての戦略は、セリエB、Cから有望な若手選手を発掘し育成するという方向で一貫している。

その鍵を握るのがディレットーレ・スポルティーヴォ(英語にするとスポーツ・ディレクター/チーム部門の総責任者で、監督、選手の選定・評価を含め、チーム作りに関するすべての権限を担う:以下DSと略記)のカルロ・レガーリア。今年64歳を迎えたこのベテランは、イタリア全土に渡るスカウト情報網と確かな評価眼の持ち主であり、毎年のように無名選手の発掘に成功している、知る人ぞ知る存在である。

例えば、現在はローマのDF陣の一角を支えるマンゴーネは、19歳から25歳までの6年間をセリエC2(4部リーグ)で過ごしていた。それが、レガリーアに目を付けられ「3段階特進」でセリエAにデビューした1年目からレギュラーに定着。バーリで4シーズンを過ごした後に移籍したボローニャ、ローマでの活躍はご存じの通りである。

またサーラ、デ・アシェンティス、ザンブロッタの3人は、いずれもセリエC1のコモ育ち。10代でトップチームのレギュラーとして活躍していたところを引き抜き、ファシェッティ監督と共に、数年でビッグクラブの食指をそそるレベルにまで引き上げた。

今年のチームでも、リベロのデ・ローザ(26歳・97年にC1のサヴォイアから獲得)、DFのインノチェンティ(24歳・98年にBのルッケーゼから獲得)、MFのマルコリーニ(24歳・97年にC1のソーラから獲得)といった選手が、ビッグクラブの関心を集めている。
 
こうした埋もれた有望選手の発掘は、時間と忍耐を必要とする仕事である。常にスカウト網からの情報やビデオをチェックし、これはと思えばオブザーバーを送ってその選手のプレーを何試合にも渡って観察、必要があれば自らも足を運んでその目で確認する。

そのチェック項目は、技術的な側面だけでなく、メディカル・コンディション、パーソナリティ、さらには素行まで、あらゆる要素を網羅している。

自分のチームの面倒を見る傍ら、年間を通してこうした地道な努力を続けることによって初めて、多くの競争相手よりも早く(ということは安く)埋もれた才能を手に入れることができるのだ。

レガーリアくらいのDSになれば、セリエAからC2までの全選手はもちろん、各チームのプリマヴェーラ、ベレッティ、さらには5部リーグに当たるディレッタンティの有望選手まで、ありとあらゆる選手の情報を把握しているといっていい。監督が「現在」のチームのことを考えている間に、「未来」のチームのことを考えるのがDSの仕事なのだ。

同じことは外国人選手の発掘にも当てはまる。バーリは、K.アンデション、インゲション以来、比較的コスト・パフォーマンスが高い北欧の選手をターゲットにしている。現在、チームの柱として活躍しているオズマノフスキー、A.アンデションは、いずれも昨シーズン、マルモ(スウェーデン)から獲得した、当時は無名の選手。

また最近はアフリカにも力を入れ始めており、モロッコ代表のネクルーズ(97年にスイスのヤング・ボーイズから獲得)に続き、昨年はエジプトからハニ・サイード、今年はチュクウ、そして冒頭のエニンナイヤの2人を、ナイジェリアから直接発掘してきた。
 
バーリはまた、ユースセクションの充実度でも定評のあるクラブである。プリマヴェーラは決勝リーグの常連であり、2年前にはユース年代で最も重要な大会であるヴィアレッジョ・トーナメントでも、ヴェントラを擁して優勝を果たしている。

そのヴェントラに続くバーリの「宝石」が冒頭で取り上げたカッサーノ。すでに10代半ばからビッグ・クラブの標的となって来たが、バーリは、トップチームで主力として活躍するレベルに育て上げるまでは手放すつもりはない。もちろん、少しでも高く売るためである。

いい選手を育て、高く売ることができれば、次にはよりポテンシャルの高い選手を獲得することができる。現在、バーリのトップチームには、カッサーノの他にも、カルダシオ、ラフォルテッツァ、シビリアーノといった、プリマヴェーラ出身のプレーヤーがいて、虎視眈々とブレイクの機会をうかがっている。
 
バーリが毎年、チームの中で最もいい選手を売り続けながらもA残留を果たし、しかも着実にチーム力を高めてきたのは、選手の発掘、育成にこれだけ力をいれ、また成功しているからこそ。

その背景には、マタレーゼ会長、レガーリアDS、そしてファシェッティ監督の3人(いずれも60代前半である)が、明確なクラブとしてのビジョンを共有し、長期的な視点に立った総合的なクラブ運営戦略を、マネジメント、チームの両部門が一体になって進めているという事実がある。

バーリのように財政的に制約があるチームには、選手にビッグクラブ並みの給料を払うことは不可能である。したがって、ビッグクラブからオファーが来るようなレベルに育った選手は、早晩手放さざるを得ない宿命にある。

となれば、そうした選手を少しでも高く売ることはもちろん、その穴をどうやって埋めるかも常に考えておかなければ、安定したチーム力を保つことはできない。そのためには、「次」、さらには「その次」を見据えて、常に選手の発掘と育成を続けなければならないのだ。

ファシェッティ監督がカッサーノとエニンナイヤをインテル戦という重要な舞台にまったく躊躇することなく送り出したのは、決して偶然ではないのである。
 
最後に、余談になるが、イタリアでは、シーズンオフにプロチームが他のクラブをクビになった選手を集めてセレクションを行う、などということは起こり得ない。

プロのクラブならばどこも(実際はアマチュアでさえも)、下部リーグも含めた他チームの選手の情報を常に怠りなく把握しており、シーズンが終わったときには(終わる以前から、といった方がいいだろう)、翌年のチーム作りの方向性はもちろん、選手獲得のターゲットを定め終わっているのが当然だからだ。

日本のクラブ・マネジャーの皆さんも、シーズンオフになってから慌ててセレクションを行うなど、「プロ」として恥ずかしいことだと考えるべきではないのだろうか?

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。