2014年10月14日 クラブ

イタリア通信077:中堅クラブの未来(2) (11.1999)

「プロサッカーのビジネス化」への急速な流れにキャッチアップできず、セリエAとBを往復する地方の「弱小クラブ」のグループに飲み込まれつつある「中堅クラブ」に未来はあるか!?というのが、9月に書いた本稿(1)での話だった。今回は、その続編。1回では書ききれないので、そのうちまた続きを取り上げるつもりだ。

第1回の最後に、「新・中堅クラブ」としての地位を確立するための鍵は、もはや歴史と伝統ではあり得ないが、かといって「マネー」だけでもないだろう、と書いた。

とはいえ、この数年の移籍金・年俸の度を越した高騰により、「金がモノを言う」部分がますます大きくなっていることも事実。今や、セリエAに定着しヨーロッパを狙うだけの戦力を整えようとすれば、20-30億円規模の「先行投資」は避けられない。

ところが、これは中小クラブの財政規模を上回る数字なのだ。「ビッグ7」のように大企業や大金持ちの実業家をオーナーに持たない中小クラブの立場を難しいものにしているのはここである。

それでは、この「先行投資」を負担できる金満オーナーでも現れない限り、中小クラブに明るい未来はないのか、といえば、必ずしもそうではない。金にあかせてトップレベルの選手を買い集めるだけが、競争力のあるチームを作り上げる方法ではないし(ただしこれには時間と忍耐が必要。詳しくは次回)、一方では、欧州における「プロサッカーのビジネス化」の進展が、クラブに新たな資金調達の手段をもたらしつつあるからだ。

要するに、「エンターテインメント・ビジネス」としてのプロサッカーの可能性に目をつけた「投資家」が、純粋な「投資の対象」としてプロサッカークラブに注目しつつあるということ。

このところ増えてきているのは、投資銀行がシンジケートを組み、その代理人ともいうべき経営者を介してプロサッカークラブに資本参加するというやり方。

さらに、スポーツ用品メーカーや大手マスコミといった、サッカー市場から直接・間接の利益を享受できる企業が業務提携や資本参加を通じてクラブに投資し、そこからマーケティングやマーチャンダイジングといった周辺ビジネスを広げようとする動きも目立ち始めた。

前者のタイプの投資は、すでに数年前から、ギリシャ(AEKアテネ)、チェコ(スラヴィア・プラハ)といった「周縁地域」のクラブを対象にイギリス、ドイツなどの投資銀行や投資会社によって進められている。

イタリアでも現在セリエBのヴィチェンツァが、セリエAにいた’97年にイギリスの投資会社・ステリカンの手に渡っており、同じ’97年にトリノ(当時セリエB)の経営権を取得したジェノヴァの投資家、ヴィドゥリッチ会長の背後にも、やはりイギリスの投資銀行がついているといわれている。

こうした投資家のターゲットになっているのは、ビッグクラブではなく、欧州規模で見れば、たまにUEFAカップに進出してもベスト16がせいぜい、といったレベルのクラブ。少ない投資から始めて大きな収益を上げようと思えば、この種のクラブは絶好の「投資対象」となりうるわけだ。ローリスク・ローリターンよりはハイリスク・ハイリターンというわけである。
 
むしろ注目すべきなのは後者のケースだろう。今シーズン久々にチャンピオンズ・リーグに復帰したオランピーク・マルセイユ(フランス)の事実上のオーナーはアディダスだし、2シーズン前はブンデスリーガ2部にいたヘルタ・ベルリンが華々しい躍進を果たした影には、ドイツの大手出版グループ傘下にあるUfaスポーツというスポーツ・マネジメント会社がある。

Ufaスポーツは、ヘルタだけでなく、ボルシア・ドルトムント(ドイツ)、ボルドー(フランス)などとも、マーケティング、マーチャンダイジングなどの業務を代行する契約を結んでいる。この8月には、今年セリエBに転落したサンプドリアとも同様の契約を結び、イタリア進出を果たした。

彼らのやり方は、チームに強化資金を提供してヨーロッパの舞台に送り出し、そこから生まれる周辺ビジネス(彼らが業務を代行している分野)を拡大、それを一手に引き受けることで投資を回収するというもの。サンプに対しても、50億円規模の強化資金の投入が噂されている。

これは、これまで一般的だった直接的な経営参加とはかなり異なる手法。マーケティングやマーチャンダイジング、メディア関連といった周辺ビジネス(彼らにとっては「本業」だが)でこれだけの規模の投資を回収できるという見通しが立つというのは、少し前までは考えられなかったことである。

欧州プロサッカーの「エンターテインメント・ビジネス」としてのポテンシャルの高さがどれだけのものか、想像がつこうというものだ。
 
こうした「外部パートナー」に依存したやり方だけでなく、クラブが「自前」で資金調達をするという方法もある。イギリスでは’80年代から広まっていた株式上場もそのひとつ。

しかし、これには各株式市場が要求する厳しい上場基準を満たさなければならないなど、ハードルも多い。それもあってか、ここにきて株式ではなく社債を発行することによって資金調達をはかろうという動きが出始めた。これも先鞭を付けたのはイングランド(ニューカッスル)だが、イタリアでも先頃、当の(?)サンプドリアが、ミラノの大手証券会社カボートのサポートを受け、無担保社債の発行に踏み切った。

5年満期(満期一括償還)のこの社債の最大の特徴は、利率がチームの成績と連動する点。初年度は2.5%(税込み・以下同じ)の利回りが保証されており、もしセリエA昇格を果たせばそれが7%に跳ね上がる。

2年目以降は、セリエAにいれば5%保証、もしチャンピオンズ・リーグ出場権を獲得すれば14%になるという仕組みである。発行額は約70億リラ(約4億円)と小さいが、これはとりあえず市場の反応を見るためで、反応が良ければ10億円単位の発行に踏み切る計画もあるという。

社債購入の最小単位が約500万リラ(30万円弱)という点からみても、サポーターというよりは投資家が主なターゲットであることがわかる。

湯浅健二氏は先週の“J’s Voice”で次のように書いている。
ヨーロッパのプロサッカーは、このまま、いくつかのビッグクラブに(株式を上場したクラブに対するコングロマリットなどからの投資も含む)資金が集中することで、彼らと経済的に弱小なクラブとの「チカラ(クラブ総合力)の差」が拡大し続けるのだろうか・・。

(言い過ぎかもしれないが)カネで「結果を買える」ような体質の「エンターテイメント(興行)ビジネス」として発展し続けていくのだろうか・・。

現在の動きを見る限り、プロサッカーへの「投資」は、ビッグクラブに集中するというよりも、むしろそれに対抗する「新興勢力」を育成する方向に分散し、「健全な競争」を助長しつつあるようにも思える。しかし、いずれにしても、「カネで結果が買える」という傾向がますます強まって来つつあることは、残念ながらほぼ間違いないようだ。

しかしそれでも、大半の中小クラブは、「カネ」に過剰に頼ることなく、地道に「クラブとしての総合力」を高めようと努力を続けるしかないのだろう。そして、そんなクラブにも「希望」がないわけでは決してない。次回は、そうしたクラブのいくつかをとりあげてみたいと考えている。

About tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。

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