2014年10月14日 クラブ

イタリア通信074:「中堅クラブ」の未来(1) (10.1999)

前回も少し触れたように、今シーズンのセリエAの最も大きな特徴は、「二極化」が大きく進展したことである。18チームの顔ぶれをを改めて眺めてみれば、それは容易に納得できるだろう。

スクデットを目指す「7大ビッグクラブ」を除けば、ほとんどはA残留をほぼ唯一の目標とする「弱小クラブ」。その間を埋める、B降格の心配をあまりしなくてもいい「中堅クラブ」(目標はヨーロッパ)は、ボローニャ、ウディネーゼの2つだけになってしまった。

これは、この数年の間に、セリエAはもちろん、ヨーロッパのプロサッカー界を取り巻く環境がどれだけドラスティックに変化したかを象徴する事実である。なにしろ、セリエAの過去の歴史にはまったく見られなかった出来事なのだ。
 
「グランデ・トリノ」がスーペルガの悲劇で突然の終焉を迎えた1949年以来、50年もの間、セリエAの基本的な構図は、ユヴェントス、ミラン、インテルの「ビッグ3」を頂点として、その一段下に、時期によって多少の「浮き沈み」があるとはいえ、トリノ、サンプドリア、ボローニャ、フィオレンティーナ、ローマ、ラツィオ、ナポリといった、それなりの歴史を持ちスクデット獲得経験もある中都市のクラブが名を連ね(ジェノアだけは早い時期にここから脱落したが…)、残るポストを、地方都市の弱小クラブが入れ替わり立ち替わり占める、というものだった。

これは、ある意味で自然の成り行きだったともいえる。’90年代前半までずっと、プロサッカークラブにとって最大の収入源は入場料収入であり、クラブの財政(=チームの戦力)が、スタジアムに足を運んでくれるサポーターの数に依存する割合は、現在とは比較にならないほど大きかったからだ。

そうである以上、都市の規模が、クラブの強さに反映するのも当然のこと。もちろん、オーナーがクラブにどれだけ資金を注ぎ込むかも当時から大きな要因のひとつではあったが、それもやはり都市の産業・経済と無縁ではない。いってみれば、都市の「格」と、その都市を代表するクラブの「格」は、おおむね釣り合っていたのである。
 
この構図に変化が見え始めたのは、’90年代に入ってから。人口17万人に過ぎないエミーリア=ロマーニャ州の都市を本拠地とするパルマが、’90年に史上初めてのセリエA昇格を果たすと、一気に「中堅クラブ」の仲間入りを果たす。

その背景には、プロサッカークラブを企業の「宣伝媒体」として捉え、積極的な先行投資でチーム補強を図った親会社、パルマラット(国際的な乳業メーカー)の存在があった。カルチョ・ビジネス時代の始まりである。

一方、長い伝統とスクデット7回を誇るボローニャはB降格後の’93年に倒産、裁判所の競売でクラブを買い取った現オーナーのガッツォーニ・フラスカーラ会長は、セリエC1からの再出発を余儀なくされる。

マラドーナを失ったナポリも経営危機に陥り、いい選手から順番に売り払いながら目先をしのぐのが精一杯という状態に追い込まれた。さらにトリノも、’90年代初頭の乱脈経営がたたり、徐々にセリエBに向かって滑り落ちていく。

だが、伝統ある「中堅クラブ」の運命がはっきりと分かれたのは、ボスマン裁定による外国人選手の自由化と衛星ペイTVの導入により、欧州全体でプロサッカー・ビジネスが急速に膨張を遂げたこの2-3年のことである。

TVマネーの流入が早かったイングランド、スペインのクラブがワールド・クラスのトッププレーヤーを奪い合い、移籍金の相場が急激に高騰。’96~’97年当時、イタリアのクラブがこれにキャッチアップするためには、当面の採算を無視した「先行投資」が必要だった。

それが可能だったのは、莫大な投資余力を持つオーナー(企業)を背後に持ち、経営規模拡大のリスクを恐れずヨーロッパを舞台とする全面戦争に積極的に参入する準備ができていたクラブのみ。事実、この時期にはほとんどのビッグ・クラブが数十億円単位の赤字を抱え込んでいる。

これは、「ビッグ3」にはたやすいハードルだったが、「中堅クラブ」の中でそれが可能だったのは、新進のパルマに加えて、食品メーカーのチリオを親会社に持つラツィオ、その永遠のライバル・ローマ(億万長者の実業家、フランコ・センシがオーナー)、そしてTVネットワークと映画製作・配給会社をバックに持つフィオレンティーナの4チームだけだった。こうして、現在の「セブン・シスターズ」が形成されることになる。

他方、この流れに全くついていけなかったトリノ、ナポリは’96年、’98年にそれぞれBに転落。選択によってはいくばくかの可能性を持っていたであろうサンプドリアも、赤字拡大を恐れて守りの経営に回り、バスに乗り遅れる。昨シーズンのB転落はアクシデントといってもいいだろうが、Aに復帰しても「ビッグ7」に追いつくのは難しいだろう。

’96年にセリエA復帰を果たしたボローニャにも、まだそれだけの余力はなさそうだ。「マネー」とTVが支配するカルチョの世界では、歴史や伝統も、スタジアムに足を運ぶサポーターの数も、大した意味は持たなくなってしまっている。
 
こうして、「ビッグ3」が「ビッグ7」に拡大する一方で、そこから脱落した「中堅クラブ」もまた、「弱小クラブ」のグループに飲み込まれかけているようにみえる。とはいえ、カルチョの世界全体が大きな転換期のまっただ中にいることを考えれば、この「二極化」も過渡的な現象といえるかもしれない。

当面この何年かの間、セリエAは「ビッグ7」を中心に回っていくことになるのだろうが、現在、一時的に「(ほぼ)空白地帯」となっている「中堅クラブ」、つまり、B降格の心配をせずUEFAカップ出場を目指すレベルには、いくつかのクラブが新たに定着することになりそうな気がする。

その鍵を握るのは、もはや歴史や伝統ではあり得ないが、かといって「マネー」だけでもないだろう。現実を冷静に見つめた総合的なクラブ経営戦略、いってみれば知恵と工夫(たぶん勇気も必要だろうが)の勝負である。

今回は紙幅もつきたので、近いうちに続編として、いくつかのクラブのケーススタディをご紹介したいと思う。

About tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。

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