今週を最後に、欧州カップは「冬の陣」を終えて、2月末に再開する「春の陣」まで3ヶ月近い冬休みに入る。これでやっとセリエAのビッグクラブもカンピオナートに集中できる体制になった…かというと、そんなことはない。コッパ・イタリアの試合が、週半ばに組まれているからだ。

昨シーズンまでは8月末にスタートして年内にはベスト4が決まっていたコッパ・イタリアだが、今年は欧州カップの過密日程のおかげで、年内に済ませられるのは1/8ファイナル(12/1、12/15)まで。

1月は12日と26日に1/4ファイナル、2月は9日と16日にセミファイナルが組まれている。ここまで勝ち残ったチームが週半ばに息をつけるのは、セリエAの冬休み(12/20-1/5)を除けば1月第3週と2月第1週、そして欧州カップ再開を目前に控えた2月第3週の3回しかないわけだ。選手にとっては酷いハードスケジュールである。
 
さて、かつてはカンピオナートに並ぶとはいかないまでも、それ相応の権威と注目度を誇ってきたコッパ・イタリアだが、この数年、その重要性は下がる一方。セリエAの多くのクラブにとっては、今や「お荷物」コンペティションになりつつあるといってもいいほどだ。その背景にあるのは、例によって欧州カップの「膨張」である。

イタリアから4-5チームしか欧州カップに参加するチームがなかった95/96シーズンまでは、コッパ・イタリアはそのうちひとつのポスト(カップウィナーズ・カップ)につながる大きな機会であり、どのクラブにとっても、優先順位においてはカンピオナートとそう変わるものではなかった。

システム的にも、セリエA開幕前にスタートする2回戦(32チーム)からセリエA全チームが参加し、決勝まで5ラウンド、8-10試合を戦うという内容の濃いコンペティションだった。

しかし、96/97シーズンにチャンピオンズ・リーグとUEFAカップの出場枠が拡大されると少し様相が変わってくる。カンピオナートで上位に入ればUEFAカップへの出場権が確保できるため、いわゆるビッグクラブはコッパ・イタリアをそれほど重視しなくなりはじめたのだ。というよりも、カンピオナートと欧州カップですでに手一杯で、コッパ・イタリアまでは手が回らなくなってきた、と言った方がいいかもしれない。

その結果かどうか、96/97シーズンのコッパ・イタリアは、ヴィチェンツァとナポリの間で決勝が争われるという波乱に満ちた結果となった。

その翌年も有力クラブの早期敗退が相次ぎ、優勝したのはひとつでも多くのトロフィーが欲しい新興勢力のラツィオ。そのラツィオにとっても、このタイトルはUEFAカップ決勝でインテルに敗れた屈辱を和らげる以上の意味は持っていないように見えた。
 
そして、欧州カップ出場権の更なる拡大と試合数の増加、カップウィナーズ・カップの廃止(UEFAカップへの統合)という「パラダイム転換」が起こった今シーズンに至って、コッパ・イタリアの権威失墜は決定的なものになってしまった。

ビッグクラブにとっては、カンピオナートでよほど大きく躓かない限り、いずれにしてもUEFAカップの出場権は確保できるし、出場すればまずベスト4まではたどり着ける(3大カップの中では最も「イージー」)というカップウィナーズ・カップのメリットもなくなったため、コッパ・イタリアは今や、チームに余計な負担をもたらす「邪魔な」存在でしかない。それを象徴するのが、ミランのガッリアーニ副会長の次のような発言。

「(チャンピオンズ・リーグ敗退で)ミランにはもうカンピオナート以外の目標がなくなってしまった。コッパ・イタリア?あんなタイトルには何の価値もない」。これは明らかに言いすぎだが、本音であることも確かだろう。

事実、そう思っているのがミランだけではないことは、12月1日に行われた1/8ファイナル第一戦を見ればわかる。欧州カップに出場しているクラブ(ここまでシードされていたので、この日がコッパ・イタリア初戦)がピッチに送ったのは、普段はベンチや観客席を暖めている控え選手を中心に構成された、いわば「二軍」のフォーメーション。

欧州カップとは関係のないペルージャでさえ、中田を後半まで温存したのだから、セリエAのクラブがこのコンペティションをどう位置づけているかは察しがつこうというものだ。

当然ながら、試合結果も以下の通り、波乱が相次いだ。

 ナポリ1-3ユヴェントス(65.558人)
 アタランタ3-2ミラン(15.240人)
 カリアリ1-0パルマ(8.081人)
 ローマ0-1ピアチェンツァ(7.753人)
 ラヴェンナ1-1ラツィオ(4.884人)
 ペルージャ1-0フィオレンティーナ(4.543人)
 インテル2-1ボローニャ(3.647人)
 ヴェネツィア3-0ウディネーゼ(1.559人)

欧州カップ出場チームのうち、勝ったのはユヴェントス(相手はBのナポリ)だけ、引き分けでさえ、やはりBのラヴェンナと戦ったラツィオのみで、残る6チームはいずれも敗戦。確かに「ジャイアント・キリング」はカップ戦の醍醐味のひとつだが、それも真剣勝負だからこそ。やる気のない消化試合では興味も薄れるというものだ。

ファンもそれを敏感に感じ取っていることは、スコアの後、( )内に示した観客動員数を見れば一目瞭然。久々のユヴェントス戦に気合いが入ったセリエBのナポリを除き、どのスタジアムもウルトラスの陣取るゴール裏以外はほとんど空席といっていい惨状である。

真冬のナイトゲーム(北イタリアでは気温は摂氏2-3度)というハンディキャップはあるにせよ、あまりにもひどい数字である。
 
こうした状況に危機感を感じたイタリアサッカー協会内では、コッパ・イタリアの権威を高め注目を呼び戻すために、優勝チームにチャンピオンズ・リーグ出場権(あるいはセリエA4位のチームとのプレーオフ出場権)を与える、という案も検討されているようだ。

先頃はイタリア最大のスポーツ紙「ガッゼッタ・デッロ・スポルト」も、同様の案を持ち出してキャンペーンを張ろうとした。

しかし、これもUEFAに認めてもらえる可能性はほとんどなさそうである。なにしろ、これを認めると、場合によってはチャンピオンズ・リーグに2部リーグのクラブが参加することにもなりかねない。

コンペティションのレベルが低く、スペクタクルとしての魅力に欠けるという表向きの理由(本音はTV放映権が高く売れないからだが)でカップウィナーズ・カップを廃止したUEFAに、そんなリスクを受け入れることはできないだろう。
 
出場するクラブだけでなく、ファンやサポーターからすら見放されつつあるコッパ・イタリア。この状況がこのまま続くとすれば、早晩、カップウィナーズ・カップと同じように、消え去る運命にあるのかもしれない。少なくとも今のところ、それを避ける道は見つかっていない。

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。