2014年10月14日 W杯・EURO/代表関連

イタリア通信071:イタリア代表の悩み (09.1999)

欧州選手権予選が最終局面を迎えている。先週の「代表ウィーク」を終えた時点で、ほとんどのチームはあと1試合を残すのみとなっており、デンマーク、イングランドなど一部のチームは、すでに全日程を終えている。

すでに本大会出場を決めたのは、開催国であるベルギー、オランダを除けば、チェコ、スペイン、スウェーデン、ノルウェーの4カ国のみ。10月5日から10日にかけて、残る10のポストを巡る最後の戦いが繰り広げられることになる。

強豪国の中で最も苦しんでいるのがイングランド。勝負のかかったポーランド戦で0-0の引き分けに終わり、グループ2位で全日程を終了、ポイントで並んでいるポーランドが最終戦でスウェーデンに敗れない限り、本大会出場は不可能になってしまった。

W杯3位のクロアチアは、最終戦となるユーゴとの「ダービー」に勝たない限り脱落が決定。ワールド・チャンピオンのフランスも、ロシア―ウクライナ戦の結果にもよるが、プレーオフに回る可能性が濃厚になっている。

さて、肝心の(?)イタリア代表だが、もうご存じの通り、ホームでのデンマーク戦を2-3で落とし、出場権獲得を最終戦(アウェイのベラルーシ戦)に持ち越してしまった。終始押されていたとはいえ、前半39分までは2-0でリードしていたことを考えれば、これは大失態といっていい\。

事実、翌日のマスコミはゾフ監督、そして不甲斐ない戦いぶりを見せた代表選手たちに厳しい批判を浴びせた。

まず最初に槍玉に挙がったのは選手たちのメンタリティの問題。デンマークに逆転を許したのは、2-0とリードした時点で必要以上に安心し、数日後に迫ったクラブでの試合に備え、また無用な怪我を避けるために「省エネモード」に入った結果ではないか、というのである。

それが事実かどうかは知るよしもないが、この試合を巡る両チームのモティベーションに大きな差があったことは確かである。デンマークは、最終戦となるこの試合に勝たない限り本大会出場の可能性がゼロになるという状況にあり、背水の陣でイタリアに乗り込んできた。

一方のイタリアのポジションは、引き分けはもちろん0-1の負けでもグループ1位抜けが確定する(2点以上取られて負けても次のベラルーシ戦で負けなければOK)というもの。イタリア代表は伝統的に、「勝負がかかった」試合以外では100%の力を発揮しようとしない、というのが定説になっているくらいで、今回も、本大会出場権をほぼ手中に収めているという安心感が、マイナスの方向に働いたことは否定できない。
 
しかし、この程度の話で済むならば、それほど憂慮するには値しない。最終戦でグループ最下位のベラルーシに負け、プレーオフに回ることになれば、それこそスキャンダルになるだろうが、それはまずあり得ないだろう(とあえて言い切っておこう)。いずれにせよ、グループ首位で本大会出場という目標は達成できると見てほぼ間違いない。

だが、問題はその先である。現在のイタリア代表が、ヨーロッパの強豪を敵に回して互角以上に戦えるかどうかとなると、不安を感じさせる要素は決して少なくない。

ゾフが代表監督に就任した当時いわれたのは、マルディーニ前監督のあまりにも守備的なサッカーを脱して、屈指の人材を誇る攻撃陣のポテンシャルを積極的に生かすサッカーを目指すべきだ、ということだった。しかし、この欧州選手権予選を通しての戦いぶりを見ると、率直に言って問題はそれ以前、という印象である。何しろ、前線までボールがつながらないのだ。

ボールを奪取しても、そこから「3人目、4人目の動き」(ゥ湯浅氏)がないために中盤でパスがつながらず、全体の押し上げも効かないままで、結果的に相手に追い込まれボールを奪われるケースが目立つ。

フィニッシュまでたどりつくのは、ほとんどが中盤から相手DFラインの背後(あるいは隙間)にピンポイントでロングパスを通し、うまく抜け出したFWがそのままシュートに持ち込んだ速攻のケース。

中盤がほとんど常に相手に押し込まれており、前線が孤立しているから、サイドを深くえぐる、あるいは2列目からの攻撃参加で相手DFを崩す、といった形で攻撃に人数をかけるパターンは稀にしか見られない。

イタリアのマスコミの中には、これは攻撃陣に人数を割いていないためだとして、3トップあるいは2+1のシステム(3-4-3または3-4-1-2)を採用するべきだと主張する向きも少なくない。

しかし、前線にヴィエーリ、デル・ピエーロ、インザーギと3枚並べたところで(あるいはトッティを2トップの下に置いたところで)、中盤が今のままでは、ただでさえ手薄なところが更に恒常的な数的不利に陥って、全く機能しなくなるのは目に見えている。

前線が孤立しては、そのポテンシャルを生かすどころではない(彼らの個人能力だけに頼って勝ち進めるほど欧州選手権は甘くはないだろう)。「攻撃陣」に人数を割いても、「攻撃」に人数がかけられるとは限らないのだ。

この問題は、戦術の問題以上に、イタリア代表が抱える選手のキャラクターに負う部分が大きいようにも見える。要するに、積極的に攻撃に絡んでいくタイプのMFに人材を欠いているのだ。

これはHPでも触れたことだが、イタリアのセントラルMFはほとんどがボール奪取専業のディフェンシヴ・タイプ。ボールを奪ったらDFラインに戻すか、寄ってきた誰かに預けるかして、再び自分のポジションに戻る(スペースを埋める)ことを仕事にしている選手ばかりである。

攻撃の起点となってパスを散らせるのは、アルベルティーニとディ・ビアージョくらいしか見当たらないし、積極的に前線に走り込んでいくタイプとなるとほとんど皆無(トッティがよりMF的な振る舞いを身につければ話は別だが…)。

カウジオ、コンティ、ドナドーニなど、伝統的にいい人材を輩出してきたアウトサイドのMFも、フゼール以外は汗かきタイプで、ザンブロッタ、バキーニ、ビノットといった若手の成長を待つしかない状況である。

事実、セリエAのビッグクラブでこの種の役割を担っているのは、ジダン、ルイ・コスタ、ヴェロン、ダーヴィッツ、ボバン、レオナルドなど、外国人選手ばかり(ビッグクラブではないが中田もそうだ)。

イタリア人のMFとなると、ビッグクラブでレギュラーを取ればすぐに代表からお呼びがかかるほど層が薄いのが現状だ。ボスマン裁定から3年。こんなところにもその影響は表れはじめている。

About tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。

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