イタリア代表が深刻な不調にあえいでいる。11月13日にレッチェで行われたベルギーとの親善試合を1-3で落とし、9月のデンマーク戦に続き15年ぶり(史上3度目)のホーム2連敗。1999年の通算成績も9試合で2勝5分2敗、しかも過去4試合は2分2敗という低調ぶりである。
 
今回のベルギー戦は、ゾフ監督にとって大きな意味を持っていた。オーソドックスな4-4-2を離れ、3バック、4MFの前に3人の攻撃的プレーヤーを置くシステムを代表に導入する可能性を探る「実験」の機会と、自らこの試合を位置づけていたからだ。

ゾフ監督が、これまで「攻守のバランスを取る上で最も適している」としてこだわり続けてきた4-4-2に替わるシステムを採用しようとした背景には、いくつかの要因がある。まずひとつは、今や代表の主力選手がプレーするビッグクラブのほとんどが、最終ラインを3人のCBで構成する3-4-3(または3-4-1-2)システムを採用していること。

セリエAと欧州カップの過密スケジュールのおかげで、代表として練習するまとまった時間がほとんど取れない以上、大部分の選手が慣れているシステムや約束事を基本に据える方が、チームを完成させる上でより効率的であることは言うまでもない。

また、現在のところ最も厚い選手層を誇る攻撃陣を生かし、より攻撃的なサッカーを指向すべきだというマスコミ(と大衆)の強い論調に何らかの形で答えなければならなかったという事情もある。特に、トッティ(ローマ)という、トップ下で使うには打ってつけの人材がいるのに、どうして彼の才能を生かそうとしないのか、という声は、ゾフとて無視できないほどに高まっていた。

代表監督といえども、世論を全く無視するというのは簡単なことではない。欧州選手権予選後半のふがいない戦いぶりが槍玉に挙がっていただけになおさらである。来年6月の本大会でも同じようなサッカーしかできないとすれば、優勝(イタリアにとってはこれ以外の目標はあり得ない)はもちろん、予選リーグ突破さえおぼつかないだろう、というのは衆目の一致するところだったし、もちろんゾフ自身も大きな危機感を持っていた。
 
という背景の下で臨んだベルギー戦での「実験」は、結果はともかく、内容的にもまだまだ課題は多いと感じさせるものだった。

代表では初めて試みたシステムとはいえ、ディフェンスは及第点からほど遠い不安定さ。アウトサイドの2人のMFは相手ボールになるとすぐにDFラインに吸い込まれるため、数的不利に陥った中盤のフィルターがまったく効かず、容易に自陣エリア前までの侵入を許してしまう。

マルディーニ、ネスタという2人のレギュラーを欠いたDFライン(パヌッチ、フェラーラ、カンナヴァーロ)は、「頭数」はそろっているにもかかわらず、ポジショニングの曖昧さからか、ラインをブレイクして当たりに行くタイミングがつかめず、ドリブルで突っかけられるとずるずる後退するばかり。結果的に、自陣の深いところで4対4、5対5といった状況を作ってしまう。

更に困ったのは、ヘディングでもほとんど競り負けていたこと。前半7分に喰らった1点目は、CKを競り負けたこぼれ球を、さらに頭で押し込まれたもの、後半24分の2点目もアーリークロスをフリーでヘディングさせたものだった。

イタリアは、インザーギを最前線に置いて、その両側やや下がり目にトッティとデル・ピエーロが位置する布陣を敷いていたのだが、守備の局面では必ずどちらかが中盤に戻るという約束事に縛られてか、2人とも切れ味に欠けるプレーぶり。

デル・ピエーロは積極的に動き回るものの、プレッシングに気を取られすぎてうまく攻撃に絡めない。トッティは動きが少なく、自分がどこにいるべきなのか戸惑いながらプレーしているという印象だった。この2人の間で最初にパスが通ったのが前半30分を過ぎてから、という事実がすべてを語っている。

イタリアの攻撃が機能し始めたのは、アウトサイドの2人(フゼール、ヴァノーリ)が上がり目に位置することで、やっとボールが動き始めた前半15分過ぎから。イタリアが作ったチャンスのほとんどは、この2人のどちらかが絡んだものだった。

前半26分のヴァノーリの同点ゴールは、FKを相手がクリアした後のこぼれ球をダイレクトで蹴り込んだ20m強のミドルシュートで、相手ディフェンスを崩して奪った得点ではなかったが、前半半ばから後半15分くらいまで、最後の決め手に欠けるとはいえ、基本的にイタリアがゲームの主導権を握ることができたのも事実。

ヴィエーリがいなかったこともあるが、DFラインから一気に縦に放り込むという展開が減り、ショート、ミドルのパスから攻撃を組み立てようという意志が見られたのは、収穫といっていいかもしれない。

試合後、ゾフ監督は「もちろん結果については非常に残念に思っているが、それだけでこの新しい“プロジェクト”を没にする理由にはならない。前線の3人の動きにはまずまず満足している。決定機を外したのが残念だが…。

いずれにせよ、最終的な判断を下すまでには時間と機会が必要だ。幸いまだ本番までには時間がある。カンピオナートの動向を見ながら、あと何度か試してみるつもりだ」と語っている。

マスコミも国民も、ヴィエーリ、トッティ、デル・ピエーロ、インザーギといった攻撃陣のポテンシャルを引き出し、積極的にゲームを支配しようとするサッカーを代表に求めている。その意味で、ゾフ監督がこの“プロジェクト”をさらに押し進めることに異議を唱える向きはないだろう。

しかし、これから本番の欧州選手権までに組まれている代表マッチはわずかに4試合。大会前の代表合宿も正味2週間強しかない。それだけの時間で、果たしてゾフ監督が、チームとして十分に機能するレベルまでこの“プロジェクト”を持っていけるかどうかが問題である。マスコミの論調は、悲観論の方が多いのが現状だが…。

次の親善試合は、2月23日のスウェーデン戦。その時には、もう少し明るい見通しを語れることを祈りたい。

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。