ヨーロッパにG14という集まりがあるのをご存じだろうか。これは、欧州通貨統合を目前に控え、G7、G10といった先進国蔵相会議がさらに拡大されたもの…ではまったくなく、欧州各国の主要プロサッカークラブが参加している任意の(しかしメンバーシップは事実上閉じられている)グループである。参加14クラブの顔ぶれは以下の通り。

ユヴェントス、ミラン、インテル(イタリア)、バルセロナ、レアル・マドリード(スペイン)、マンチェスター・ユナイテッド、リヴァプール(イングランド)、バイエルン・ミュンヘン、ボルシア・ドルトムント(ドイツ)、アヤックス、PSVアイントホーフェン(オランダ)、マルセイユ(フランス)、ポルト(ポルトガル)、オリンピアコス(ギリシャ)

歴史と伝統を誇る一流クラブがほとんどすべて名を連ねた錚々たるメンバーであることがおわかりだろう。一昨年から昨年にかけて「欧州スーパーリーグ構想」をぶち上げUEFAと対立、欧州カップの大幅なシステム変更を勝ち取ったのも彼らだった。
 
さて、8月下旬、チューリッヒでそのG14の代表者とブラッターFIFA会長との会談が行われた。話題は、ブラッターが提唱しているワールドカップの隔年開催について。

注目すべきは、FIFAとクラブとの間には、クラブが所属する各国サッカー協会(そしてその上位団体であるUEFA)が存在しており、本来ならばこの種の話題はそちらを通して話し合われるべきものだということ。

それらの組織の頭越しにFIFAとG14が「直談判」するというのは、制度的にはまったく筋が通らない話である。事実、過去にこうした会談はまったく例がなかった。

にもかかわらずこれが実現してしまったという事実は、このG14が欧州はもちろん、世界のサッカー界にどれだけ大きな影響力を持つようになったかをはっきりと示している。スーパーリーグの一件でもわかるとおり、今や「興業」としての欧州プロサッカーを牛耳っているのはUEFAではなく彼らなのだ。

その上、抱えている各国代表選手を合わせれば150人は下らないのだから、彼らの意向を無視してはワールドカップも成り立たない。

多くの代表選手を抱えるこれらのクラブは、代表マッチはクラブの「興業」と対立する上に、クラブの「資産」である選手を何の補償もなく借り出しすり減らす―として、FIFAやUEFAにこれまで何度も噛みついてきた。それを考えれば、この会談の目的が隔年開催反対の「陳情」にあったと想像する方が、むしろ自然というものだろう(UEFAもブラッター案には反対している)。

ところがチューリッヒで実際に起こったのはまったく逆のことだった。G14はブラッターに対して、ワールドカップ隔年開催の支持を表明したのだ。しかも、ワールドカップの非開催年には欧州選手権を実施すること(つまり代表のための選手権が毎年開催されることになる)も受け入れた上で、である。

一見するとこれまでの主張と矛盾するように思われるこの態度には、もちろん「裏」がある。隔年開催を受け入れる条件として彼らがブラッターに突きつけた要求を見れば、それは一目瞭然である。

その要求とは、「世界統一カレンダーの導入」とでもいうべきもの。1年(シーズン)を3つの時期に分け、9ヶ月半はクラブサッカー、1ヶ月から1ヶ月半は代表マッチ、残りはヴァカンスとする年間カレンダーを全世界に一斉導入するというのが、その具体的な内容である。

シーズン開始は9月か2月のどちらか。もちろん、クラブサッカーの期間中は代表マッチ(親善試合も含む)を一切組まないことが前提である。

さらに付帯条件として挙げられているのが次の3点。
1) 代表召集期間中の選手の給料および傷害保険は、各国サッカー協会が負担する。
2) 代表親善試合の大幅削減。
3) ワールドカップ、各大陸選手権、コンフェデレーション・カップの大会期間の大幅短縮。

要するに、ワールドカップを初めとする代表マッチを1年のうち1ヶ月(半)の間に押し込め、残りの期間はクラブが独占すると同時に、代表のためにクラブが現在被っている様々な「損害」(主力選手の代表への「無償貸し出し」や代表での怪我による戦力的・経済的損失)を回避しようというのが、G14の狙いなのだ。

ワールドカップ(FIFA主催の「興業」)の開催頻度が高まればそちらももっと儲かるでしょう。それには手を貸すから、我々の金儲け(クラブの「興業」)の邪魔もしないでほしい。お互い一銭にもならない代表の親善試合なんかさっさと止めて、もっと効率のいいビジネスを追求しようじゃありませんか――というわけである。

しかし、G14の要求通り、隔年開催の構想が「世界統一カレンダー」とセットで実現することになれば、ワールドカップや各大陸選手権(欧州、南米、アジア、アフリカ、北中米)の位置づけが大きく変化することは避けられないだろう。

大体、1年にたった1ヶ月強の活動期間、しかもそのほとんどが「本番」の大会に費やされることになるとすれば、代表チームの強化など事実上不可能になる。そうなればワールドカップも、寄せ集めの即席代表チームによって、タイトなスケジュールの中で戦われる「国別対抗オールスター戦」以上のものではなくなってしまうかもしれない。

そこまでいかないとしても、質の低下は避けられないだろう。長期的には、代表こそが頂点というサッカー界の構造そのものが変わってしまう可能性すらあるのではないか。
 
にもかかわらずブラッターは、G14の要求に対して前向きに検討することを約束したと伝えられている。実現のためには各国の1部リーグを16チームに削り、試合数を減らすことが不可欠、という対案まで示したというから、かなり積極的に賛意を示したと見てもよさそうだ。

にわかには信じがたい話だが、隔年開催の構想自体が、ビジネス・オリエンテッドの発想から生まれたものであることを考えれば、ブラッターのこの態度も決して不思議ではない。おそらく、ワールドカップという大会の「クオリティ」の低下など、隔年開催がもたらす兆単位のビジネスの前では大した問題ではないのだろう。

プロサッカーのビジネス化は、ついに代表という「神聖な」存在すらも巻き込みはじめた。もはや「マネー」以外に、サッカー界を動かす原理は存在しないのかもしれない。しかし、一体誰にその流れが止められるというのだろうか?

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。