セリエA開幕まであと10日、各チームの調整もそろそろ仕上げの段階に入ってきた。チャンピオンズ・リーグの予備戦やコッパ・イタリア(今シーズンからシステムが変わり、セリエAのほとんどのチームは10月以降の参加)はすでにスタートしており、エキジビション・マッチを含めると、イタリアではこのところ毎日のようにサッカーの試合がTV放映されている。夏休みもそろそろおしまい、という雰囲気である。

今回は「99/2000シーズンに向けて」の最終回として、新シーズンに向けて大きな「改革」を行った3つのビッグクラブの動向を紹介したい。

このオフの移籍マーケットで最も派手な動きを見せたのがインテル。オリアーリDS、リッピ監督のコンビがチーム部門の全権を握る新体制は、昨シーズンまでチームの精神的支柱だったベルゴミ、パリウカを容赦なく(というよりも血も涙もないやり方で)切り捨てるというやり方で大刷新を図った。

900億リラという「非常識」な移籍金でラツィオから「強奪」したヴィエーリに注目が集まりがちだが、実のところ、GKペルッツィを初め、ブラン、ドモロー、パヌッチと、ディフェンス陣はすべて新顔。シメオネ、ヴィンテル、ゼ・エリアスを放出しユーゴヴィッチを獲得した中盤も、昨シーズンとは大きく変化している。

よく見ると気がつくのは、新チームにはペルッツィ、ユーゴヴィッチ、パウロ・ソウザ、バッジョ、ヴィエーリと5人もの「元ユヴェントス」が顔を揃えていること。リッピ監督がどんなサッカーを目指しているかは、この事実からも明白である。

しかし、今のところ、この「ニュー・インテル」はまだチームとして十分に機能するところまで行っていない。ここまで戦ったエキジビション・マッチの内容はいずれもいまひとつ。レアル・マドリードに2-3、ウディネーゼ、パルマとのトライアングル・マッチ(各45分)も1-1と0-1、サンテティエンヌに1-2、更にC1のリヴォルノにまで0-1で敗れるなど、まったく結果が出せずにいるのだ。

最大の問題はゼロから再構築しようとしているディフェンス。パヌッチ、ブラン、ドモローの「フラット3」は、まだ3人の動きがシンクロせずしばしば「穴」があく状態で、あまりにも安定感に欠けている。フロントは慌てて補強に走り、パナシナイコスから左SBのゲオルガトスを獲得したが、泥縄の感は否めない。

調整の遅れという点では、攻撃陣も同じこと。コパ・アメリカで活躍し復活が期待されているロナウドは、この16日にやっとチームに合流したばかりで、ヴィエーリとのコンビがどう機能するかはまだまだ未知数である。

リッピ監督は、この「夢の2トップ」の下にバッジョ(またはレコーバ)を置くシステムに加えて、右からモリエーロ、ヴィエーリ、ロナウドを並べる3トップも考えているようで、ディフェンスを3人で行くか4人で行くかも含め、フォーメーションが固まるまでにはまだまだ試行錯誤が必要だろう。

しかし開幕はもうすぐそこに迫っている。リッピ監督は、何よりもまず「時間との戦い」に勝たなければならない。

インテルと共に大幅な「革命」を断行したもうひとつのチームが、ファビオ・カペッロ(元ミラン)を監督に据えたローマ。彼が就任した時点ですでに、ゼーマン前監督の下で新シーズンに向けた補強がスタートしていたこともあって、ローマの移籍マーケットでの動きは混迷を極めた。

チェルシー(イングランド)への放出が決まっていたディ・ビアージョとデルヴェッキオはカペッロの強い希望で残留。400億リラを払って獲得済みだったフェリペ(ブラジル代表)は、イタリアの土を踏む前にヴァスコ・ダ・ガマに「返却」され、その替わりに世界的にはまったく無名のベラルーシ代表左SB・グレンコ(スパルタク・モスクワ)を、これもカペッロの「指名」で獲得した。

さらに、ほとんど手つかずで残るはずだったディフェンス陣も、ボローニャからアントニオーリ(GK)、リナルディ、マンゴーネ(DF)と、昨シーズンの躍進を支えた3人を丸ごと引き抜き、大刷新されている。こうした事情もあり、現在の登録メンバーは40人近くまで膨れ上がっている。カペッロ監督は「25-6人以上は必要ない」と語っており、コンセル、バルテルを初め10数人の選手は移籍先を探さなければならないだろう。

多くのビッグクラブ同様、ローマも今年は3バックのシステムを採用している。左からザーゴ、アウダイール、マンゴーネと並んだディフェンス・ラインはまずまず機能しており、ここまでTVで放映された数試合を見る限り、ゼーマン時代の4バックよりもむしろ安定している感すらある。

未知数なのはむしろ攻撃陣で、モンテッラ(サンプから500億リラで獲得)、デルヴェッキオの下にトッティを置くことになるのか、あるいはトッティが左サイドのやや下がり目(カペッロがレアルを率いていた当時のラウールのポジション)に位置することになるのかで、中盤における攻守の「約束ごと」が微妙に変わってくる。このあたりのチーム・バランスをどう取るかが、カペッロ監督の当面の宿題だろう。

今シーズンのローマは、スクデットを狙うというよりはむしろ、カペッロの下での「新しいサイクル」の基盤を固める年、という位置づけで、チャンピオンズ・リーグ出場権(セリエA4位以内)とUEFAカップでの上位進出が目標。血の気が多く我慢の足りないロマニスティが足を引っ張らなければ、面白い存在になるかもしれない。

リッピ辞任という予定外の出来事でアンチェロッティ監督の就任が早まったとはいえ、本格的に「出直し」を図る1年目、という意味では、ユヴェントスもインテル、ローマと同様の状況にある。このオフの移籍マーケットでの動きはあまり目立たなかったが、それでもデシャン、ディ・リーヴィオを放出した中盤は、ザンブロッタ(バーリ)、オリセー(アヤックス)、バキーニ(ウディネーゼ)の3人を加えて大きく変化している。

しかし、ユーヴェにとって最大の「補強」がデル・ピエーロの復帰だというのは衆目の一致するところだろう。9ヶ月ぶりにピッチに戻ってきた途端、2試合で早くも2ゴール。印象的なのは、リハビリ中のトレーニングのおかげで、ゼーマンから「ドーピング疑惑」がかけられた昨シーズンよりも更に分厚くなった上半身。

まったく当たり負けしなくなったどころか、ヘディングの競り合いで相手ディフェンダーをはね飛ばすほどの強靱さすら備わってきており、もはやとても「軽量級」とはいえない身体つきである。にもかかわらず、持ち前のスピードや動きのシャープさがまったく失われていないことには驚かされる。

他チームがいずれも攻撃陣を補強した中で、ユヴェントスだけはこのデル・ピエーロにインザーギ(すでにトップフォーム)、ジダン(やや調整が遅れている)を加えたスーパートリオが、今年も攻撃の柱。サイドからの攻撃を重視・多用するアンチェロッティ監督にとっては、中盤に有能な2人のサイドアタッカー(ザンブロッタ、バキーニ)を得たことも大きい。

前線の得点力の高さはすでに証明済みだけに、今シーズンのユーヴェの攻撃の鍵を握るのは、むしろこの両サイドの2人ではないか。

攻撃陣に比べるとやや不安が残るのがディフェンス。ダーヴィッツ、オリセーという中盤のフィルターは超強力だが、その背後のDFラインは、やや衰えが見えてきたフェラーラ、ファウルが多くしばしば出場停止や退場を喰らうモンテーロが相変わらず「核」であり、パルマ、ラツィオなどと比較するとやや見劣りすることは否めない。

ディフェンスを組織することでは定評のあるアンチェロッティ監督の手腕が改めて試されるところだろう。

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。