2014年10月14日 イタリアサッカー雑感

イタリア通信065:99/2000シーズンに向けて(2) (08.1999)

7月上旬にスタートしたセリエA各チームのプレシーズン・トレーニングも、フィジカル中心のフェーズを終えて、実戦トレーニングの段階に入っている。どのチームも、これから7-8試合のエキジビション・マッチを戦い、基本となるフォーメーションと戦術を固めながら、8月最終週のセリエA開幕(あるいは来週にも始まる欧州カップの予備戦)に備えることになる。

というわけで、前回に引き続き、セリエAビッグクラブの新シーズンに向けた動向をお伝えしたいのだが、その前に、とりあえず一段落した移籍マーケットで、セリエAの各クラブが補強に使った金額(支出のみ)の一覧を見ていただきたい。

現在の円―リラ交換レートは1円15リラ強だから、インテル、パルマは100億円以上を投入していることになる。一方、最も「倹約」したカリアリの投資額は、そのわずか15分の1。同じセリエAでも、財政規模の差はここまで拡大しているのである。ちなみに、弱小クラブの「予算」は以前からこんなもの。

一握りのビッグクラブだけが「プロサッカーのビジネス化」の恩恵を受け、急激に膨張しているのがよくわかる。これはイタリアに限った話ではないが、世界レベルの知名度を誇るビッグクラブと、ローカルの中小クラブの格差は開くばかり。

このままだと、本当に「ヨーロッパ・スーパーリーグ」(主催者がどこであれ)が実現し、ビッグクラブが国内リーグから離脱してしまう日も遠くないのかもしれない。その前に「バブル」が弾けなければの話だが…。
 
さて、上の表でもわかるとおり、パルマは、補強に最も金をかけたクラブのひとつである。ただし、インテルが金に糸目を付けずにひたすらリッピが要求する選手を買いまくったのとは異なり、パルマの場合は、ヴェロン(→ラツィオ/525億リラ)、キエーザ(→フィオレンティーナ/260億リラ)という2人の主力選手を放出したため、移籍マーケットの収支は500億リラほどのマイナスでとどまっている。

ビッグクラブの中では唯一、大都市に本拠を置かず、サポーターの数も多くないこのクラブは、大胆でありながら堅実な経営姿勢を崩すことはない。

セリエAに昇格してからの10年間で監督交代がわずか二度、しかも大都市のビッグクラブを敵に回してほとんど常に5位以内を保ち続ける(さらに3つの欧州カップとコッパ・イタリア2つを獲得)という成績は、クラブの長期戦略の確かさの証明である。これだけ安定した結果を残しているクラブは他にはない。

今年のパルマは、チームの攻撃を支えたヴェロンとキエーザをあえて切り、昨シーズンの得点王アモローゾ(ウディネーゼ/ブラジル代表)、B落ちしたサンプドリアからオルテガ(アルゼンチン代表)という2人のテクニシャンを獲得して、攻撃陣の大幅な組み替えを図った。

さらに、FWの控えに若手のディ・ヴァイオ(サレルニターナ)、中盤には攻撃的MFのヴァレム(ウディネーゼ/ベルギー代表を外れているのが不思議)、左右どちらのMF、DFもこなせるセレーナ(A.マドリード/イタリア代表)、マイーニ(ミラン)なども補強。UEFAカップとコッパ・イタリアの二冠を達成した昨シーズンと比べても、選手層はさらに厚くなっている。

その中で不安があるとすれば、トゥラム、カンナヴァーロという2人のワールドクラスを陰で支え、「ライン3」のディフェンスを統率してきたセンシーニが抜けたディフェンスだろうか。

ラッシッシ、トッリージ、サルトールといった選手がその穴を埋めることになるわけだが、いずれもセンシーニほどの戦術眼やリーダーシップは備えていない。昨シーズンも、不用意な失点からの取りこぼしが致命傷となって優勝戦線から脱落しているだけに、ディフェンスをどう組織するかが、悲願のスクデット獲得に向けた課題になりそうだ。
 
そのパルマからキエーザ、バルボという2人のFWを獲得したフィオレンティーナは、さらにミヤトヴィッチ(レアル・マドリード/ユーゴ代表)をも戦列に加えた。中盤、ディフェンスにも、ディ・リーヴィオ(ユヴェントス)、オコン(ラツィオ/オーストラリア代表)、ピエリーニ(ウディネーゼ)、アダーニ(アタランタ)などを獲得しており、チャンピオンズ・リーグに向けて、戦力はかなり厚くなった。

長い間「ディフェンス主義者」というレッテルを貼られてきたトラパットーニ監督だが(本人は常に否定し続けている)、おそらく今度ばかりは誰も彼をそう呼ぶことはできなくなるだろう。事実、今シーズンのフィオレンティーナは、バティストゥータ、キエーザ、ミヤトヴィッチというワールドクラスのFW3枚を前線に並べ、さらに中盤にはルイ・コスタが控えるという超攻撃的なフォーメーションを敷いているのだ。

「こういうメンバーが揃った以上、そのポテンシャルを最大限に生かそうとするのは当然のことだ。今年はこのやり方(3-4-3)で行く。敵に与えるチャンスは多くなるだろうが、一旦ボールを取り返したら、自陣からでも一気にフィニッシュまで持っていけるスピードとパワーをこのチームは持っている。

今までの私のスタイルに反しているって?そんなことはない。私がプラティニ、ロッシ、ボニエク、ベッテガの4人を同時にピッチに送っていたのを誰も覚えていないのかい?」と、トラップは意気軒昂である。この「前輪駆動」がどこまで機能するのか、来週半ばのチャンピオンズ・リーグ予備戦で最初の答えが出る。
 
というわけで、次回は、大幅な「改革」に踏み切った3チーム(ローマ、ユヴェントス、インテル)の動向をお届けすることにしたい。

About tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。

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