2014年10月14日 イタリアサッカー雑感

イタリア通信064:99/2000シーズンに向けて(1) (08.1999)

セリエAのオフシーズンに合わせて(?)一時帰国したために、西村編集長に無理を言って1ヶ月ほどお休みをいただいていましたが、イタリアに戻った今週から連載を再開することになりました。今後ともよろしくご愛読の程をお願いいたします。 

この1ヶ月の間に、各クラブとも新シーズンに向けた陣容を整え、すでにプレシーズンのトレーニングに入っている。気の早いチーム(?)の中には、早くも公式戦(インタートト)を戦い、すでに敗退してしまったところもあるくらいで、かつては3ヶ月近くあったオフシーズンも、実質的にはその半分くらいに縮小されてしまった印象である。
 
さて、連載再開にあたって、まずはセリエAビッグクラブの新シーズンに向けた動向をお届けすることにしたい。前シーズンに成果を挙げたチームは大きくいじらず、コケたチームは大幅刷新、というのが補強戦略の基本ライン。

大きく分けると前者はミラン、ラツィオ、フィオレンティーナ、パルマ、後者は監督を交代して刷新を図ったローマ、ユヴェントス、インテルということになるのだが、もちろんそれぞれに濃淡はある。

今年の移籍マーケットの最大の特徴は、トッププレーヤーの大型移籍が例年になく多かったことだろう。その背景にはいくつかの要因がある。まず、ほとんどのビッグクラブが、欧州カップの試合数増加に対応するため、ターンオーヴァーを前提に、各ポジションに複数のレギュラークラスを抱え込もうとしたことがひとつ。

さらに、TVマネーの更なる流入、以前にも触れた代理人の跋扈などにより、移籍マーケットが過度のインフレ状態に導かれて、各チームの主力クラスに破格のオファーが相次ぎ、その結果として、本来ならばクラブが手放すはずのない選手までが移籍するという事態もいくつか起こった。

毎年のようにチームの「基盤」に手をつけることは、決していいやり方とはいえないのだが、プロサッカーを取り巻く環境の変化が、クラブにそれを強いている格好である。

その中で、ほとんど唯一の例外といえるのが、昨シーズン大逆転でスクデットを獲得したミラン。他のクラブがビッグネームの取り合いに躍起になる中、チームの基本的な骨格にまったく手をつけず、チャンピオンズ・リーグ参戦を見据えて、さらに長期的な世代交代も視野に入れながら戦力に「厚み」を持たせるという、非常に実質的ないい補強をした。

獲得したのは、シェフチェンコ(FW:D.キエフ/ウクライナ代表)、ガットゥーゾ(MF:サレルニターナ)、デ・アシェンティス(MF:バーリ)、セルジーニョ(DF:サンパウロ/ブラジル代表)、オルランディーニ(MF:パルマ)など、いずれもまだ「伸びしろ」のある有望な若手・中堅プレーヤー。

ライバルと比べると地味にさえ見えるが、実際にはトータルで1000億リラ以上(約70億円)を投資しており、かなりの戦力強化である。なにしろ、昨シーズンの優勝メンバーはほとんど手つかずでチームに留まっているのだ。

実績から見ればミランのようなビッグクラブでどこまで活躍できるか、未知数の選手も少なくないが、昨シーズンのアッビアーティ、サーラ、アンブロジーニなどの例を見てもわかるとおり、若手の積極的な起用と育成に関するザッケローニ監督の手腕は定評のあるところ。

事実、このオフの補強戦略は、同監督の意向を十分汲んだ上で、ビッグネームよりもむしろポテンシャルの高い若手(できればイタリア人)に焦点を絞るという明確なポリシーの下で進められてきた。

このミランの強みは、チームとしての人的・戦術的基盤がすでに確立されており、継続性を持ってザッケローニ・サッカーの完成度を高めながら戦っていける点だろう。この数年、多くのビッグクラブが開幕当初「試行錯誤」を繰り返し、出足でもたつきがちになることを考えれば、この安定度の高さは、スクデットを争う上でのアドヴァンテージとしては決して小さくはない。

とはいえ、セリエAに集中できた昨シーズンとは異なり、今年はチャンピオンズ・リーグ、コッパ・イタリアも含め、週2試合のハードスケジュールが常態となる。ターンオーヴァーが不可欠となる中、新戦力をどれだけうまくチームに組み込んでいけるかが鍵になりそうだ。
 
昨シーズン2位のラツィオにとって最大の誤算は、もちろんヴィエーリの放出を強いられたことである(事の顛末は数回前に詳しく触れた通り)。本来ならば、525億リラ(約35億円)を投じてパルマからヴェロン(アルゼンチン代表)を獲得して中盤を強化し、FWの控えにシモーネ・インザーギ(ピアチェンツァ)を補強したことで、再びスクデットに挑む体制は万全になるはずだったが…。

とはいえ、ヴィエーリの放出と引き替えに、中盤にシメオネ(インテル/アルゼンチン代表)を獲得、攻撃陣にはK.アンデション(ボローニャ/スウェーデン代表)も加わっており、選手層の厚さは相変わらず。

さらにラツィオはアネルカ(アーセナル/フランス代表)の獲得にも乗り出しており(この原稿を書いている時点では、ユヴェントスとの「三角関係」がこじれて泥沼化しているが)、ともかく金に糸目を付けずにワールドクラスを買い集めようという贅沢な補強戦略はとどまるところを知らない。

ラツィオがここまでビッグネームの獲得に躍起になる背景には、株式を上場しているという事情もある。数日前、アネルカをユヴェントス経由で獲得、というニュースが流れた途端、ラツィオの株が6%もの上昇を見せたことでもわかるように、株価を維持するためには、ポジティブに見えるわかりやすい材料を常に揃えておかなければならないのだ。

そうやって得たキャピタル・ゲインが結局、更なる補強に回ることを考えれば、これはこれで危険な自転車操業に見えなくもないのだが、とりあえずここまでの経過を見る限り、株式上場が戦力強化に(つまりクラブの財政に)大きく貢献していることは確かである。

ヴィエーリに「逃げられた」とはいえ、メンバーの顔ぶれだけをみれば依然セリエA最強といってもいいラツィオだが、問題はその戦力を100%使い回すことができないところ。ミハイロヴィッチ、スタンコヴィッチ、ネドヴェド、サラス、ボクシッチと5人ものEU外選手のやりくり(出場枠は3人)は、今年もエリクソン監督の悩みの種である。

ヴェロンの加入で、中盤の攻守のバランスを根本的に見直さなければならないこと、アネルカを本当に獲れるかどうかも含めて、攻撃をどう組み立てるのかが流動的なことも、不安材料ではある。とはいえ、ディフェンスの安定度、戦力的な充実度から見て、今年も優勝候補のひとつであることを疑う余地はない。

この2年、コッパ・イタリア、カップウィナーズ・カップとタイトルを連取してきているだけに、今年はどうしても悲願のスクデットを手にしたいところだろう。
 
というわけで、続きは次回。場合によってはもう1回を加えて、セリエAビッグクラブの動向を紹介していくことにしたい。

About tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。

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