終盤戦を迎えたセリエA。つい2週間前まで優勝は堅いと見られていたラツィオがこのところ2連敗、2連勝のミランに一気に差を6ポイント詰められ、あと5試合を残したこの時点で、両者のポイント差はわずかに1。スクデットの行方はまったくわからなくなってきた。

順位表を見ていただければおわかりの通り、3位のフィオレンティーナ、4位のパルマにも、まだ僅かながらチャンスは残っている。とはいうものの、前者はこのところ明らかに調子が下降気味、後者は、UEFAカップ、コッパ・イタリアで決勝に残っており、むしろそちらに重点がかかっているのが実状。

残り試合を考えると、優勝争いはラツィオ、ミランに絞られたといっていいだろう。今回は、残り5試合、スクデットを賭けて戦うこの2チームの現状を、いくつかの視点から見てみることにしたい。

1) ここ2試合の戦いぶり 

11月末のローマ・ダービー(3-3)から始まったラツィオの無敗記録は、皮肉なことにそれから17試合後に巡ってきた同じローマ・ダービー(4月11日)でストップする。1-3と完敗を喫したこの試合で、ミハイロヴィッチ、ネスタというラツィオ・ディフェンスの柱2人が相次いで退場。

さらに、イエローカードをもらったネグロ、パンカロも警告累積で次の試合は出場停止。こうしてDFのレギュラー4人を欠く状態で臨んだ続くユヴェントス戦では、序盤に訪れた絶好の決定機をヴィエーリがポストに拒まれる一方、GKのマルケジャーニがアンリの何でもないロングシュートをファンブル、やらずもがなの1点を献上してしまった。

これで完全に緊張の糸が切れたラツィオは、この試合も1-3で落とし2連敗。ポイントも56のまま足踏み。

一方、4月11日の時点ではラツィオから7ポイント差の3位(49p)だったミランは、4位パルマとの直接対決で、先制されながらもマルディーニのミドルシュートとガンツの決勝ゴールで2-1と逆転勝ち、続く難しいアウェイのウディネーゼ戦にも5-1で大勝し、ラツィオとの差を一気に1ポイントまで縮めている。

2) 戦力

選手の顔ぶれを見る限りはラツィオの方が「格上」だろう。フォーメーションはオーソドックスな4-4-2。マンチーニを中盤のゲームメーカーに下げ、前線はヴィエーリ、サラスの2トップという布陣を敷いてきたが、最近サラスがやや調子を落としており、エリクソン監督は「マンチョ」をFWに復帰させることを考えている模様。両サイドのMF(コンセイソン、ネドヴェド)はクロスを上げるだけでなく自ら切れ込んでシュートを放つことも多い。

問題は、DFの要ネスタが、ダービーで退場になった際に審判に暴言を吐き、3試合の出場停止を喰らったこと。獅子奮迅の活躍で中盤の守備を支えてきたアルメイダ、FK、CKで何度もチームを救ってきたミハイロヴィッチも、故障明けでベストコンディションとはいえない。

全体として、シーズン終盤を迎えてやや息切れの感もあるが、ボクシッチの復帰で今シーズン初めて故障者がゼロになり、厚い選手層を生かせる状況になったことは好材料。

戦力的にはラツィオに劣るミランだが、ザッケローニ監督はミランの「顔」ともいえる「古参」組(マルディーニ、コスタクルタ、アルベルティーニ)を柱に、開幕当初は第3キーパーだったアッビアーティを初め、アンブロジーニ、グリエルミンピエトロ、サーラといった若手を積極的に抜擢(いずれも期待に応える活躍ぶり)、徐々にチームを自分の色に染め上げてきた。

ウディネーゼ時代からの3-4-3を基本として戦ってきたが、パルマ戦の後半に試行した、ビアホフ、ウェアの2トップの下にボバンを置く3-4-1-2が成功。サイドアタッカーとしての制約から解き放たれたウェアが自由に動き回り、ボバンもディフェンスの仕事が軽減されて本来の「ファンタジスタ」としての才能をより発揮できるようになった。

先週のウディネーゼ戦ではこのフォーメーションで5ゴール。主力で故障しているのはレオナルドのみで、コンディション的には上り調子。欧州カップの負担がなく、カンピオナートに集中できることも大きい。
 
3) メンタル・コンディション

ラツィオは、残り試合が少なくなるに連れて高まるプレッシャーと緊張感に耐えられるかどうかが問題。一時は優勝間違いなしと見られていた分、失敗への恐怖もより大きい。

昨シーズンも、優勝への最後の望みを賭けたユヴェントス戦に敗れた後、緊張の糸が切れてその後1勝も上げられずにシーズンを終えたという「前科」があり、ダービーを含むこの2連敗のショックを乗り切れるか。25年ぶりのスクデットを熱望するティフォージの過度なプレッシャー(なにしろローマ)もマイナスに働く危険あり。

一方のミランにとって、今シーズンは新しい時代の基盤を築く年、という位置づけであり、クラブもティフォージも優勝を期待していなかった分、プレッシャーは少ない。

首位から1ポイント差に迫ったこの時点で初めて、本気でスクデットに照準を合わせた。追う立場の有利さ、失うものがない強みに加えて、主力選手の多くが優勝争いのプレッシャーを経験していることも小さくないアドヴァンテージ。
 
4) 残り5試合のスケジュール

ラツィオ、ミランいずれも、ホーム2試合、アウェイ3試合を残している。
ラツィオはここから2試合続くアウェイで、A残留を賭けて必死のサンプドリア、ミランには1-5で敗れたもののチーム状態は決して悪くない難敵ウディネーゼと戦わなければならない。

最後の3試合の相手は、ボローニャ、フィオレンティーナ(アウェイ)、パルマ。いずれも上位陣で、どの相手にとってもUEFAカップあるいはチャンピオンズ・リーグの出場権が賭かった落とせない試合になるだろう。

更にラツィオは、おそらく勝負が決することになる最終戦の4日前に、カップウィナーズ・カップの決勝戦を戦わなければならない(この原稿を書いている時点で決勝進出は決まっていないが、おそらく大丈夫だろう)というハンディキャップも背負っている。

ミランは、この2試合の相手がヴィチェンツァ(アウェイ)とサンプ。いずれも降格ラインのすぐ下におり、必死の抵抗を試みることが予想されるだけに、見かけほど簡単な試合ではない。そして次が問題のユヴェントス戦(アウェイ)。チャンピオンズ・リーグに敗退したことで、どうしても4位以内に入って来季の出場権を確保したいこのチームが、ミランにとって最大の難敵だろう。

ただし、ラツィオに比べて有利なのは最後の2試合の相手がエンポリ、ペルージャ(アウェイ)であること。おそらくこの時点でエンポリはB降格が決まっているだろうし、ローマ戦での奇跡的な勝利で残留に大きく近づいたペルージャも、最終戦までには残留を決めている可能性が小さくない。もしペルージャが早めに残留を決め、最終戦にスクデットを賭けたミランを迎えるようなことになれば、決してラツィオの優勝を望まないガウッチ会長(大のロマニスタ)の存在が何らかの意味を持つこともないとはいえない…。
 
こうしてみると、状況はここにきて、むしろミランにとって有利な方向に傾いているといえそうだ。ラツィオを、すでにB降格が決まっていたレッチェとの最終戦を落とし、99%手にしていたスクデットを逃した83/84シーズンのローマ(エリクソンが監督だった)にたとえる声がある一方で、ミランについては、最後の5試合で5ポイント差をひっくり返し(当時は勝ち点が2ポイント)、マラドーナのナポリを下して逆転優勝を飾ったサッキ監督の1年目(86/87シーズン)を彷彿とさせる、という声も聞こえてくる。

しかしもちろん、同じようなストーリーが何度も繰り返されるはずはない。唯一確かなのは、これからの5試合を見守る我々が、1ポイントを巡る本当の真剣勝負の醍醐味を存分に味わうことができるということだけである。 

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。