2014年10月14日 監督・戦術

イタリア通信060:動き出した移籍マーケット(1・監督編) (06.1999)

98/99シーズンがミランの優勝で幕を閉じてから1週間。選手たちはヴァカンスに入ったが、セリエAの各クラブは休む間もなく、来シーズンに向けたチーム作りに奔走している。

まず最初に決めなければならないのは、もちろん監督である。この原稿を書いている6月2日の時点で、以下のように、セリエAに残留した14クラブのうち、ウディネーゼを除く13クラブで監督人事が確定している。現監督の続投を決めたのは、半分にも満たない6クラブのみ。昨年が5クラブ、一昨年が6クラブだったから、これは毎年似たようなものである。

最も世間を驚かせたのはローマ。センシ会長は、2月に自ら望んでゼーマンとの契約を更新したにもかかわらず、それを反故にしてまで、前ミラン監督のファビオ・カペッロを呼び寄せた。

ゼーマンは、セリエAの中でもかなり特殊な監督である。自らの信じる4-3-3のシステマティックな攻撃サッカーに頑ななまでにこだわり、決して相手や状況によって戦い方を変えることをしない。

チーム作りにおいても、自己主張の強いスタープレーヤーよりモティベーションの高い中堅選手を好み、自分のサッカーに合わない選手はどんなビッグネームであろうと断固として拒否する。プロ選手としての経験がないこと、外国人であることも含めて、イタリアサッカー界ではアウトサイダーであり、それゆえの遠慮のない発言はしばしば波紋と批判を呼び起こす。

しかし、彼のこの「急進的な理想主義」を受け入れ、100%の信頼を与えたクラブには、誰もが高く評価するアグレッシヴかつスペクタクルな攻撃サッカーが保証されている。もしチームがシーズンを通してコンスタントに彼のサッカーを実現することができれば、スクデットはまず間違いないとさえいわれるほど。

問題は、それが最も困難な課題だというところにあるのだが(ゼーマンの率いるチームは毎年必ず冬になると調子を落とし、ずるずると後退する)、だからといって最初からそれを諦めるには、ゼーマン・サッカーはあまりにも魅力的である。

2月の契約更新でもわかるとおり、センシ会長はつい最近まで、来シーズンもゼーマン体制を維持する意向だった。とはいうものの、その一方で、独自の判断でアッリーゴ・サッキの片腕だったフィジカルコーチ、ピンコリーニの獲得を決めるなど、ゼーマンの「急進性」を和らげコントロールしようという「妥協」に動きつつあったことも事実。

ゼーマンははっきりと不快感を表しており、結果的には、これが両者の溝を深めることになったようだ。

ゼーマン更迭、カペッロ獲得が確実になった当日、センシ会長は「来シーズンは優勝を目指す。そのためにも、またサポーターのためにも、重要な選手を獲得するつもりだ」と発言している。ゼーマンとの訣別によって、ローマもまた他のビッグクラブ同様、ビッグネームの獲得合戦に参入することになるのだろう。
 
ゼーマン更迭と並んで、このところマスコミを賑わせていたのが、ボローニャのガッツォーニ・フラスカーラ会長とマッツォーネ監督の対立。

クラブ経営をビジネスとして捉え、契約切れの選手やレンタル移籍を最大限に活用してチームづくりを進めようとする会長と、自分の仕事はピッチの上で結果を出すことだけと考え、ヴェテラン選手を重用する「古いタイプ」の監督は、すでに開幕前から意見が合わず、マッツォーネはシーズンを通して常に更迭の危機にさらされてきた。

しかし、チームが、7月のインタートトにはじまって、UEFAカップとコッパ・イタリアでともにベスト4まで勝ち進み、セリエAでも常に上位を占めてきたため、ガッツォーニ会長はマッツォーネに手出しができない。それどころか、来シーズンの監督交代が噂に上るやいなや、サポーターはクラブに対し猛烈に抗議、一時は会長の方が辞意を表明するほどの事態になった。

シーズン公式戦60試合目になったインテルとのUEFA出場権をめぐるプレーオフに勝ち、ボローニャにヨーロッパへの切符をもたらしたマッツォーネは一気にまくし立てた。「夏以来、会長からはほとんど無視され続けてきた。これほど馬鹿にした扱いを受けたことは今まで一度もない。

こんなひどい会長を見たことも一度もない。素晴らしい選手たちとサポーターがいなければ、私は2-3ヶ月でチームを投げ出していただろう。同業者の皆さんに警告。ボローニャに来るのはやめたほうがいい」。

クラブはすでに、来季の指揮をプリマヴェーラの監督、セルジョ・ブーゾに委ねることを決めている。ボローニャのプリマヴェーラは今年、カンピオナートでベスト4に残っており、ブーゾに対するクラブの信頼は厚い。

一方、マッツォーネはプレーオフの翌日、ルチャーノ・ガウッチとローマで会談、その場でペルージャとの2年契約に合意した。「チームのレベルはボローニャより落ちるだろうが、少なくともガウッチは情熱を持っている。

クラブのプロジェクトもしっかりしたものだし、サポーターも熱狂的だ。ガウッチが爆発するのは物事が上手く行っていないとき。そうならないようにするのが私の役目だ」。マッツォーネはラパイッチと中田の残留を望んでいるが…。
 
イタリア人だけのチームで4シーズン連続セリエA残留という偉業を成し遂げたピアチェンツァは、マテラッツィ監督を解任し、前インテルのジジ・シモーニを後任に選んだ。ピアチェンツァのように、資金力に限りがあり大きな補強ができないクラブは、チームに新しい刺激を与えるために監督を替えるという手段を取ることが多い。

実際、この4シーズンの残留はカーニ、ムッツィ、グエリーニ、マテラッツィと、4人の異なる監督の下で勝ち取ったもの。シモーニの新たな戦いも、目標はA残留である。

ミランに移って1年目でスクデットを勝ち取ったザッケローニの後を受け、ウディネーゼをUEFAカップに導いたグイドリン監督は、ベティス・セビリアからのオファーを受け、スペインに活動の場を移す。セリエAで唯一確定していない後任の座には、デ・カーニオ(ペスカーラ)、ウリヴィエーリ(前ナポリ)、そしてゼーマンの名前が挙がっている。

About tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。

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