2014年10月13日 クラブ

イタリア通信039:「現在」と「未来」の狭間で揺れるユヴェントス (12.1998)

ユヴェントスが苦しんでいる。

セリエAでは、14節を終えて半月強のクリスマス休みに入ったこの時点でトップのフィオレンティーナと8ポイント差の8位、欧州チャンピオンズ・リーグでは6戦して1勝5分ながら直接対決のポイント差で辛うじてベスト8に勝ち残り―’90年代後半の欧州サッカーシーンを支配してきたこのチームにとって、今シーズンここまでの成績は明らかに物足りない。

試合内容を見ても、最初から勝利を確信したかのごとく自信にあふれた、昨年までのあの戦いぶりは影を潜めてしまっている。

今年のユーヴェを条件づけているのは、リッピ監督が今シーズン限り、という事実だろう。94-95シーズンに監督に就任して以来の4年間で、スクデット(リーグ優勝)3回、コッパイタリア1回、欧州カップ4年連続決勝進出(1勝3敗)、さらにトヨタカップ、欧州スーパーカップ、イタリアスーパカップと、勝てるタイトルをすべて勝ち尽くした同監督が、そろそろ次のチャレンジを、と考えるのはある意味で当然である(すでにインテルと来期からの3年契約を結んだといわれる彼の最終的な目標は代表監督の座にある)。

昨シーズンを終えた段階ですでにリッピから契約(99年6月まで)を更新する意思がないことを伝えられていたユヴェントスは、今シーズンに向けたチーム作りの段階で、すでに「その先」を見越した戦略を採った。

ほとんど昨シーズンと同じメンバーでもう1年戦うことを選んだのである。これは、チームの核を残しながらも主力選手(特にFW)を毎年入れ替え、チームのリフレッシュを図ってきた今までとは全く逆の方向性である。

今年チームをいじったところで、監督が替わる来シーズンはいずれにせよ大改革になる。だとしたらむしろ今シーズンは現有戦力(それでもスクデットを争えるだけの競争力は十分ある)で戦いながら、来年以降を見据えた長期戦略をじっくりと練るほうが得策、ということだろう。

事実、次期監督には昨シーズンまでパルマを率いていたカルロ・アンチェッロッティ(現在「浪人」中)がほぼ内定しているといわれ、すでにユーヴェとのコラボレーションを初めているという噂さえある。
 
しかし、シーズンが始まれば、予測のつかない事態も起こる。ジダン、デシャン、デル・ピエーロ、ダーヴィッツなどワールドカップ組の調整の遅れ、ディフェンス陣の相次ぐ故障といった戦力的要素に加えて、ドーピング問題をはじめとする外部の「騒音」、さらにはリッピ監督の去就と絡んだモティベーションの問題(誰が来年いなくなる監督にとことん尽くそうと思うだろうか)など、マイナス要因が相次ぎ、昨年までのようにカンピオナートの流れを「支配」するには至らないまま序盤戦が過ぎていく。

そして第8節のウディネーゼ戦(11/8)、決定的な誤算がユーヴェを襲った。やっと調子を取り戻しつつあったデル・ピエーロが、左膝に全治7ヶ月の重傷を負ってしまったのだ。

この時点まで5勝2分1敗(12得点7失点)で17ポイントを稼ぎセリエA2位につけていたユヴェントスは、その後の6試合、3連敗を含む1勝1分4敗でわずか4ポイントしか稼ぐことができなかった。しかも1ヶ月以上無得点、勝ち星なしが続いたのである。

ゲレーロ(アスレティック・ビルバオ)のゴールに助けられる形で、何とかチャンピオンズ・リーグの予選突破は果たした。しかし、現在の得点力不足を解消しないことには、セリエAにせよチャンピオンズ・リーグにせよタイトルは望めない。無冠に終わることそれ自体が耐え難い屈辱である現在のユーヴェ(傲慢な話だが事実ではある)にとって、手薄なFW陣の補強は緊急の課題となっている。
  
今シーズンだけを考えれば、デル・ピエーロの穴を埋める選手、つまりテクニシャン・タイプのFWが欲しいところ。

しかし、ユヴェントスはすでに、インザーギの放出、場合によってはジダンの退団(マルセイユ育ちでスペイン人の夫人を持つ彼は、海も太陽もなくストレスの多いトリノの生活にはもう耐えられないと漏らしており、あと3年の契約を残しているにもかかわらずスペインへの移籍を望んでいるといわれる)をも前提に、来シーズンに向けデル・ピエーロを核としてチームを大刷新する構想を進めている。それに必要なのはむしろ、ポストができヘディングも強いセンターフォワードタイプの選手。

ユーヴェの首脳陣は「目先の『穴埋め』に走ることだけはしない」と明言しており、この矛盾する2つの要件を満足できる水準で満たす選手を獲得しようという困難な努力を続けている。

しかし、それだけの選手をシーズン半ばのこの時期に獲得するのは、もちろんまったく容易なことではない。現在候補にとして挙げられている名前は、ガラタサライのハカン・シュクル(2年前にトリノでプレーしたが2ヶ月も経たないうちにホームシックでトルコに逃げ帰っている)、そして今季ミランからバルセロナに移籍したクライフェルト。

当初はジダンの親友でもあるデュガリー(ミラン、バルセロナを経て現在はO.マルセイユ)の名前が挙がっており一時は契約寸前までいったが、来季の構想に入る余地がないことから当面は見送りとなった。優先順位は明らかに「現在」よりも「未来」に置かれているのである。

場当たり的な補強や監督交代を繰り返すクラブがほとんどを占める中、緊急課題に直面している時にさえ、中・長期的な戦略を踏み外すことを断固として避けようとするこの姿勢は、クラブとしてのユヴェントスの「強さ」を端的に表しているといえる。

あるチームが、ひとりの監督の下、あるいは核となる何人かの選手を中心に、シーンを支配することのできる期間は長くても5-6年。この数年のミランを見てもわかるとおり、ひとつのサイクルの「終え方」を誤れば、その先に待ち受けているのは大きな混乱と困難である。

ベッテガ副会長、モッジ総合ディレクターといった首脳陣にとっては、目先の結果はもちろんだが、今や明らかに終わりを迎えようとしている「リッピのユーヴェ」から、いかにスムーズに新たな「勝利のサイクル」への橋渡しをするかということが、何よりも重大な関心事なのである。

いずれにせよ移籍マーケットの期限は1月末。それまでには結論を出さなければならない。「現在」と「未来」のどこでバランスを取ることになるのか、動向に注目したい。

About tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。

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