11月30日、インテルのジジ・シモーニ監督が更迭された。ここまで11節を終えたセリエAでは今シーズン初めての監督交代である。

1ヶ月ほど前の本欄でもお伝えした通り、以前からクラブの周囲にそうした空気が漂っていたのは事実である。しかしインテルは、先週水曜日のチャンピオンズ・リーグでは復活したR.バッジョの活躍でレアル・マドリードを3-1と破り、日曜日のセリエAでも苦戦したとはいえサレルニターナに勝った(2-1)直後。

むしろこれでシモーニ監督の首も当面は大丈夫だろう、と誰もが思った矢先だっただけに、月曜夜に流れたこのニュースは驚きをもって迎えられた。
 
この決定を下したモラッティ会長は、次のように語っている。
「決定は日曜日の夜、サレルニターナ戦の後に召集した役員会で下した。最大の理由は、インテルのサッカーの内容に進歩が見られないこと。純粋にテクニカルな問題で、他の理由は一切ない。

2年目の今年はもっといいサッカーを見せてくれることを期待していた。我々のサポーターは見る目を持っている。昨日の試合(注:サレルニターナ戦)で彼らが示した沈黙が、彼らの不満を何よりもよく表している。年間予約チケットを買ってくれた6万人のサポーターに、ああいう試合を見せつづけることはできない」

確かに、日曜日のサレルニターナ戦の内容は悪かった。前半はディフェンスがガタガタで何度も得点機を与え、まったくいいところのないまま0-1で終了。後半も半ばを過ぎて相手が攻め疲れてきたところでやっと同点に追い付き、ロスタイムに入ってからサネッティのロングシュートで何とか勝ちを拾った。

報道によれば、この試合の途中、モラッティ会長は「このインテルのサッカーには本当にうんざりさせられる。もうこれ以上我慢できない」と語っていたと伝えられる。解任の本当の理由は、モラッティ会長自身がもうこれ以上シモーニ監督率いるインテルを見るのに耐えられなくなったことにある、ということだろう。「6万人のサポーター」というのは結局のところ口実に過ぎない。

事実、解任が伝わった翌日、インテルの事務所の前には十数人のサポーターが集まり、シモーニ解任に抗議する横断幕を張り出している。また、解任が発表になった当日、毎週月曜恒例のサッカー討論番組が行った視聴者アンケートも、80%以上が解任に反対、という結果であった。
 
確かに、インテルのサッカーは「美しい組み立て」や「組織的なプレッシング」にはほとんど縁がない。しかしそれは、シモーニ監督のサッカー・スタイルからすれば、ある意味で必然である。

もともと彼は、相手にかかわらず自分たちのスタイルを貫くというよりも、相手チームに合わせたフォーメーションを敷いて敵の攻撃を受け止め、そこからカウンターをくり出す”リアクション・サッカー”を基本戦術とする伝統的な「イタリア主義者」であり、「美しいサッカー」などには興味のない結果重視の超リアリストなのだ。

そして、それを熟知していたにもかかわらず、さらに当時ウディネーゼを率いていたザッケローニ(現ミラン)と一旦は合意に達していながらそれを破棄してまで、今シーズンのシモーニ続投を決めたのは、ほかならぬモラッティ会長だったはずだ。

とはいえ、モラッティ自身にとっては、この選択は大きな後悔の種だったようだ。実際、すでに10日ほど前には、今シーズン限りで退団が確実視されているユヴェントスのリッピ監督と、来シーズンからの契約について合意に達した、というニュースが伝えられている。いずれにしてもシモーニは、シーズン終了後にはインテルを去らねばならない運命ではあったわけだ。
 
しかし、それとこれとは話が別である。何よりも、シーズン途中での監督交代は大きなリスクを伴う。問題を抱えたチームを引き受け、それをすぐに立ち直らせるのは並大抵のことではない。まず、監督の考えるサッカーをチームに理解・浸透させるために最も必要な要素、つまり時間がない。

さらに、監督の側には、常にこれは自分が作ったチームではないというある種の逃げ道が用意されている。もちろん、すべての監督交代が無意味だとはいえない(昨シーズンのペルージャは、カスタニェール監督の就任後、負けなしでA昇格に滑り込んだ)が、統計的に見ても、成功例よりも失敗例の方がずっと多いのである。

記憶に新しいのは2年前のミラン。5年間で4回のスクデットを獲得したカペッロ監督を切ってまで招聘したタバレス監督をやはりこの時期に解任し、イタリア代表からサッキ監督を迎えたものの、結局はUEFAカップ出場権さえ取れずに終わった。そしてそれ以降、今に至るまでミランはかつての輝きを取り戻すことができずにいる。

昨シーズンもナポリが監督を変える毎に更なる泥沼に落ち込み、結局最下位でBに転落した。今シーズン、ボローニャ、サンプドリア、サレルニターナ、果ては「監督殺し」で有名なザンパリーニ会長率いるヴェネツィアさえもが、監督交代を我慢しているのも、それが決して最善の策ではないことを悟ったからだろう。

現在、インテルはセリエAでトップから5ポイント差の6位、チャンピオンズ・リーグではベスト8進出をほぼ確実にしており、コッパ・イタリアでもベスト8に勝ち残っている。まだ3つのタイトル全てを狙える位置にいるのだ。ここで敢えてリスクを冒す必要があるのかどうかは疑問である。
 
さて、シモーニの後任としてインテルが選んだのは、元ルーマニア代表監督で、イタリアでもこれまでピーサ(A)、ブレシア(A/B)、レッジャーナ(A)の監督を務めたことがあるミチェレア・ルチェスク。すでに見たように、来シーズンはリッピの監督就任が確実視されているから、それまでの「つなぎ」である。

モラッティ会長のルチェスク新監督に対する要請は、もっと攻撃的でスペクタクルなサッカーを、というものだと伝えられる。しかし、攻撃的でスペクタクルなチームを作り上げるのに必要なものは、何よりもまず「時間」ではないのか。

これでインテルは、95年にモラッティ会長が経営権を握って以来、4シーズンで5回、監督を替えたことになる。1シーズンを通して持ったのは昨シーズンのシモーニだけ。’60年代に父親が築いた「グランデ・インテル」を再現するというモラッティ会長の夢は、ここまでのところ挫折の連続である。

その夢を実現するために必要なのは、まずモラッティ会長自身があと少しの忍耐力を持つことだと考えているのは、決してぼくだけではないと思うのだが…。 

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。