日曜日、一度は足を運んでおこうと思っていたペルージャのホームスタジアム、レナート・クーリでペルージャ-パルマ戦を観た。試合結果は、読者の皆さんならもう御存じだろう、これまで5試合無失点のパルマに2-1。内容的にも、ペルージャの完勝といってもおかしくないゲームだった。

特に目立ったのが左ウイングのラパイッチ。中田はやや淡白というか、「省エネ」気味にそつなく試合をこなしたという印象を与えた。代表の試合も含め8日間で3試合(+片道13時間の往復、しかも時差8時間)というハードスケジュールを多少意識していたのかもしれない。とはいえ、各紙の採点は6から6.5の及第点である。

この日一番興味を引かれたのは、しかし、試合そのものよりもむしろペルージャ側のクルヴァ(ゴール裏応援席)だった。

まず、試合開始直前、クルヴァに踊ったいくつもの横断幕。一番上には「ガウッチのペルージャ」、そしてその下には「ペッキア」、「ジュンティ」、「レコーバ」、「シルヴェストル」、「ガットゥーゾ」、「ザネッティ」といった他のクラブの選手たちの名前が連なっている。

これはいずれも、ペルージャが獲得に動きながら失敗した選手たちの名前。開幕前から補強を約束しながら、オファーを出すたびに断わられ続けているクラブ(=オーナーのガウッチ・ファミリー)に対する強烈な皮肉/抗議である。

試合中の応援もまた興味深いものだった。クルヴァから最も頻繁に上がったのは、頭数はいるもののセリエAにはちょっと力不足のラインアップ(こちらはさしずめ「カスタニェールのペルージャ」か)をやりくりしながら健闘するイラリオ・カスタニェール監督に向けた「イーラリオ、イーラリオ」というドスの効いた声援。

ガウッチ会長は、チームが勝てないとすべての責任を監督に押し付けてすぐに首をすげ替えることで知られており(昨シーズンは3回監督を替えている)、今シーズンも、開幕からここまでの2ヶ月間にすでに数回、「カスタニェール更迭か!」といった見出しがスポーツ新聞や地元紙に踊っている。

事実、今のところまだ監督の首はつながっているが、彼以外のテクニカル・スタッフ(コーチ、GKコ-チ、フィジカルコ-チ)は、すでに開幕時とはまったく別の顔ぶれになっているほどなのだ。

こうした事情やオーナーの性格を熟知しているウルトラスたちは、ガウッチではなくカスタニェールの側についていることを、しつこいほどの「イーラリオ」コールではっきりと表明し続けているというわけ(すでに第2節のサンプ戦から「イラリオに手を出すなIrario non si tocca」という横断幕が見られた)。

最も強い「圧力団体」であるウルトラスの旗色がここまではっきりしている間は、ガウッチ会長といえどもうかつには手を出せないだろう。

ところで、ペルージャのウルトラスは血の気が多いことで知られいる。警察が介入するような暴力事件も毎年何回か起こしているのだが、最近最もひどかったのは昨シーズンのセリエB終盤、A昇格最後のポストがかかったトリノとの直接対決(ホーム)前夜に彼らが起こしたそれ。

事もあろうに10数人のグループでトリノの宿舎となっているホテルを「襲撃」し、選手たちにありとあらゆる罵詈雑言(イタリア語はとても豊富な罵り言葉のバリエーションを誇る言語である)を浴びせて挑発、最後には何とホテルのロビーで乱闘が繰り広げられる騒ぎにまでなったのだ。

この乱闘はペルージャ・ウルトラスが逆に返り討ちに遭う(何人かは「正当防衛」を受けて病院送りにされた)という結果になったのだが、トリノの選手たちに大きなショックを与えたことはいうまでもない。

実際、翌日のトリノはまったく精彩を欠き、引き分けでもA昇格が濃厚になるというこの試合をあっけなく落としてしまった。残り1試合のこの時点で両チームは4位に並び、そのままシーズン終了後にプレーオフを戦うことになる。

そして、ワールドカップ期間中に行われたこのプレーオフでPK戦の末A昇格を決めたのはペルージャの方だったというわけだ(この試合後、今度はガウッチ会長がトリノのウルトラス数人に車から引きずり出されて暴行を受けるという事件も起こった)。

さて、クルヴァから抗議を受けたガウッチ会長だが、こちらも、自分の非を素直に認めるようなことは死んでもない、というタイプだけに、早速反撃に出ている。以下は火曜日のインタビューでの発言。

「私はこの何年か、ペルージャのためにできる限りのことをやってきた。昇格だって4回も成し遂げた(訳注:降格も3回成し遂げているが)。しかし、これだけの結果を出してもサポーターたちは満足しない。そうである以上、私としても違う方向に進むことを考えざるを得ない。最近受けた、別のセリエAのクラブを買い取らないかというオファーについて、真剣に考えてみることにした」

確かに、’70年代末に同じカスタニェール監督の下、パオロ・ロッシを擁してセリエAで無敗のまま2位を獲得したのを頂点に、そのロッシが絡んだ八百長事件もあってその後はセリエB、さらにはCに低迷していたペルージャが、こうしてセリエAの舞台に復帰することができたのは、’91年にペルージャのオーナーとなったガウッチ会長の功績にほかならない。

その意味で彼は、たとえ傍若無人な振る舞いを見せる独裁者であっても、ペルージャの人々にとっては「恩人」である。また、最近斜陽気味のウンブリアには、ガウッチに代ってペルージャを買い取れるほどの実業家もいないから、本当に出て行かれたら困るのはペルージャの人々の方。

先のガウッチ発言はそういう事情を十分わかっているからこその「ブラフ」に違いないのだが、抗議する方もそれで思わず怯んだりしてしまうわけだ。
何というか、愛憎相半ばする複雑な関係なのである。

昨シーズンのペルージャは、激しい浮き沈みを繰り返しながらも、最後にはどうにかA昇格というハッピーエンドを迎えることができた。今シーズンの結末がどうなるかはわからないが、今後もこの種のドタバタに事欠かないことだけは確かである。傍目で見ている分には面白がっていればいいのだけれど、中にいる中田はきっと大変なんだろうな。 

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。