ワールドカップが終わったばかりだというのに、ヨーロッパではもう、2000年欧州選手権(オランダ・ベルギー共催)に向けた予選が始まっている。

スペイン、ドイツが緒戦を落とし、イングランドもブルガリアに引き分けるなど、出足でつまずく強豪も多い中、イタリア代表は、9月のウェールズ戦(アウェイ・2-0)に続き、10/10にウーディネで行われた第2戦でもスイスを2-0で一蹴、順調なスタートを切った。ライバルのデンマークがホームのウェールズ戦を落とすという波瀾もあって、早くもグループ首位のポジションを固めた格好である。

ワールドカップの指揮を執ったチェーザレ・マルディーニ前監督に替わって監督の座に就いたディノ・ゾフは、代表チームの若返りを一気に進めつつある。故障者の補充に若手を抜擢した結果とはいえ、今回の代表召集メンバーの平均年齢は25歳。ワールドカップを主力として戦った選手の中でも、パリウカ、コスタクルタ、ディ・リーヴィオ、ディ・マッテーオなど、何人かはほぼ決定的に「お役御免」となっている。

今回のスイス戦の先発メンバーは以下の通り。
GK:ブッフォン(パルマ)/DF:パヌッチ(R.マドリード)、カンナヴァーロ(パルマ)、マルディーニ(ミラン)、トッリチェッリ(フィオレンティーナ)/MF:フゼール(パルマ)、ディノ・バッジョ(同)、アルベルティーニ(ミラン)、ディ・フランチェスコ(ローマ)/FW:インザーギ(ユヴェントス)、デル・ピエーロ(同)

相手の出方を探るように抑え気味にスタートしたイタリアは、しかし10分を過ぎる頃から徐々にリズムを上げて行く。中盤高めの位置から積極的にプレスをかけ、両サイドバックも常にオーバーラップの機会をうかがうなど、マルディーニ時代と比べるとよりアクティヴで攻撃的なサッカーである。

ディノ・バッジョがDFラインの前に構えて守備的MFに徹している分、彼とペアを組むアルベルティーニがやや上がり目に位置してゲームメーカー的に振る舞う割合が高まり、アウトサイドのMF2人も、ボールをFWに預けたら躊躇せずに前線に走り込もうという姿勢を見せる。

一方、相手のスイスは5-4-1という守備的なフォーメーションを採り、引いてカウンター狙いという典型的なアウェイの戦い方。しかし、ボールを持ってもイタリアの速いプレッシングに出しどころを失い、遅攻への切り替えを余儀なくされるなど、攻め手が見いだせない。

イタリアの1点目が生まれたのはそうした状況の中だった。前半19分、スイスの中盤から前線のシャプイザに出た縦パスを読み切ったカンナヴァーロが素晴らしいアンティシペーションでボールを奪取すると、すぐに中盤に供給。このパスをセンターサークル附近で受けたディ・フランチェスコは、ワンタッチで前を向くと、そのままグラウンダーの速いスルーパスを相手DFの間に通す。

DFを振り切ったデル・ピエーロは、そのボールをダイレクトでゴール右隅へ流し込んだ。この間、わずか5秒足らず。縦パス2本でフィニッシュまで持って行く展開の速さはイタリアのお家芸である。ひとつひとつのプレーを見ても、パスのスピードといい正確さといい、やはり日本の選手とは基本のレベルが違うことを痛感させられる。

試合はその後もイタリアペース。スイスはボールの支配時間は長いのだが、突破口が見いだせずバックパスを繰り返す。たまに前線にパスを通そうとしても、ほとんどはカンナヴァーロ(読み、スピードともに絶品)にカットされてしまう。

2点目が入ったのは後半17分。ペナルティーエリア直前やや右寄りでインザーギが倒されて得たFKからだった。決めたのはまたもデル・ピエーロ。右のインサイドで蹴り出されたボールは、壁の左端に立って「目隠し」になっていたインザーギをかすめ、そのまま沈むようにゴール左隅に飛び込んだ。

4月末以来、クラブでも代表でも公式戦での得点がなかったデル・ピエーロにとって、この2得点は復活への大きな契機となるだろう。

結局スイスは、その後もほとんどイタリアゴールを脅かすことなく、試合は2-0で終了。後半18分にディ・フランチェスコに替わったバキーニ(ウディネーゼ)、25分にデル・ピエーロに替わって入ったトッティ(ローマ)という2人の代表初出場選手も、それぞれいい活躍を見せた。

特にトッティは、最初に触ったボールからすぐに決定的なスルーパスを通そうと試みるなど、常に縦への素早い展開を狙う彼の持ち味を発揮。視野の広さとアイディアの豊富さはさすがに非凡である。

試合後のマスコミの評価は、総じて、2トップへの中盤からのサポートはまだまだ足りないが、ウェールズ戦と比べてより攻撃的になり、しかし守備でもバランスを崩すことがなかったなど明らかな進歩が見られる―というまずまず好意的なもの。マルディーニ前監督の戦い方があまりに守備的だったこともあり、ワールドクラスが顔を揃えるFW陣を生かしたもっと攻撃的なイタリア代表を誰もが望んでいるのだ。

一方、若手を積極的に代表に召集し、監督就任後2試合ですでにディ・フランチェスコ、トッティ、バキーニの3人を代表にデビューさせるなど、世代交代を着実に進めている点は、高く評価されている。

次の試合は11月のスペイン戦(親善試合)。更に多くの若手を試す機会になるだろう。ここでトッティ、ヴェントラなどが活躍でもすれば、今回は故障で召集されなかったロベルト・バッジョあたりは、ますます代表のポストが厳しくなりそうである。  

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。