ワールドカップが終わって1週間。イタリアサッカー界は今、1年中で最も静かな時期を迎えている。セリエA開幕まであと2カ月弱。大半のクラブは、新シーズンに向けての補強(=チーム作り)を大筋のところ終え、プレシーズンのトレーニングに入ったところである。というわけで、今回と次回は、セリエA主要クラブの動向を取り上げたい。

ユヴェントスは、ビッグクラブの中では、インテルと並んで最も動きが少なかったチームのひとつ。ここまで獲得したのは、ミルコヴィッチ(アタランタ/ユーゴ代表)、トゥードル(H.スパラト/クロアチア代表)という2人のSBと、中盤のブランシャール(メッツ/フランス)。いずれも「脇役」である。

実のところ、チーム作りに取りかかった当初、ユーヴェは、インザーギの放出を前提に、K.アンデルソン(ボローニャ)、クライフェルト(ミラン)といったポストプレーのできるFWを補強し、昨シーズンとはやや異なる、高いロングボール”も”使えるサッカーを志向しようとしていた。しかし、その鍵となるFWの獲得に失敗。結局、インザーギとの契約を延長し、昨シーズンのサッカーをより深める方向を取らざるを得なくなっている。

リッピ監督が今年限り、というのがはっきりしていることもあり、本来ならば新監督を迎えるだろう99-2000シーズンの「転換」に向けた布石をいくつか打っておきたかったところだろうが、何人かの「古株」(トッリチェッリ、コンテ)の放出を除けば、それは持ち越しになった格好。来季も、デルピエーロ、インザーギ、ジダンの攻撃陣をデシャンが支えるという構図は変わらないようである。

これは余談だが、昨シーズン、クラブ創立100年を機に「モデルチェンジ」したユニフォームがあまりにも不評だったため、新シーズンはまた以前の細い縦縞に戻されることになった。ただし、背番号の色は’60年代当時の赤に変わっており、襟も開襟でちょっとレトロ風味が入っている。また、胸のスポンサーも、ソニーとの契約が切れたため、(噂されたトヨタではなく)「D+」という衛星TV局のロゴが入る。

ユーヴェとスクデットを争ったインテルの目玉は、何といってもロベルト・バッジョ(ボローニャ)の獲得だろう。ロナウドとの「夢の2トップ」が期待されるところだが、シモーニ監督は「インテルでレギュラーが約束されているのはロナウドだけ」と明言しており、バッジョも、ジョルカエフ、サモラーノなどとの競争を勝ち抜かなければならない。各国代表のレギュラークラスが、入れ替わり立ち替わりピッチとベンチ(と観客席)を賑わす「インテルナツィオナーレ」なチーム編成は、今季も健在である。

バッジョ獲得を除けば、このシーズンオフのインテルの動きは、むしろ長期的な視点に立ったものだった。ヴェントラ(バーリ)、ピルロ(アタランタ)という2人の将来有望な若手アタッカーを、金に糸目をつけず「先物買い」。更に、フランスリーグから若手選手を何人か獲得するなど、数年後を見据えた「投資」に余念がない。

他のクラブに貸し出している選手も含めれば、インテルの保有選手は50人を軽く超えているのだ。しかし、一面、今が伸び盛りのヴェントラやピルロが、レコーバ、カヌーなどと同様、多くの出場機会を得ることなく、インテルで「飼い殺し」にされるのは残念なことではある。

最後までスクデットを争った上の2つのクラブが、チームを大きくいじることなく新しいシーズンを迎えるのに対して、昨シーズン好調だったもうひとつのクラブ、ラツィオは「大刷新」ともいえる補強を行っている。

前線にサラス(リーヴェルプレート/チリ代表)、中盤にデラペーニャ(バルセロナ/スペイン)、スタンコヴィッチ(レッドスター・ベオグラード/ユーゴ代表)、セルジオ・コンセイソン(ポルト/ポルトガル)、ディフェンスにフェルナンド・コウト(バルセロナ/ポルトガル代表)、ミハイロヴィッチ(サンプドリア/ユーゴ代表)と、総額で150億円近い「投資」を図り、改めてスクデットに挑む。

ラツィオは同時に、ユーゴヴィッチ、チャモ(→A.マドリッド)、フゼール(→パルマ)、カジラギ(→チェルシー)などを放出したが、その収入を差し引いても収支は大幅な赤字。これを支えているのが、以前この連載でも取り上げた、株式公開の収益である。

昨シーズンの好成績にもかかわらず、これだけの補強を行ったことについて、エリクソン監督は次のように述べている。「昨年のラツィオは、相手の攻撃を受けてカウンター、というひとつのスタイルのサッカーしかできなかった。それを研究され尽くしたところで、我々の歩みも止まってしまった。

最後までスクデットを争うためには、ボール・ポゼッションを高めてゲームを支配できる力、そして相手の予測を裏切るヴァリエーションとファンタジーが必要だ。今年のチームはそれを持っている」。

セリエAのビッグクラブの中で、監督が留任したのは、上記3つに加えてローマだけ。残るパルマ、ミラン、フィオレンティーナはそれぞれ新監督を迎え、チームの方も大幅に顔ぶれを変えている。次回は、その「新規巻き直し組」の動向を取り上げることにしよう。

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。