さて、前回のユヴェントス、インテル、ラツィオに続いて、今回は残るセリエA・ビッグクラブの新シーズンに向けてのチーム状況を紹介したい。

昨シーズン4位と健闘したローマは、この連載でも一度取り上げたように、3月に早々とゼーマン監督の留任を決め、比較的早い時期から補強に取り組んできた。

最大の課題は、同監督とそりが合わずパルマに移籍したバルボに替わる、強力CFの獲得。財政的には余裕のあるセンシ会長は、バティストゥータ、インザーギ、ヴィエーリ、シェヴチェンコなど、「30億円クラス」のビッグネームの獲得を目論んできたが、ここまでのところいずれも失敗に終わっている。

結局、目立った補強は、トミッチ(パルチザン・ベオグラード/ユーゴ)、アレニチェフ(スパルタク・モスクワ/ロシア)、ウォメ(ルッケーゼ/カメルーン)という、準レギュラークラスのMF3人のみ。このままだと、昨シーズンとほとんど変わらぬラインアップで新シーズンを迎えることになりそうだ。

ただ、これは「約束ごと」の多いゼーマン監督のサッカーを考えると、決して大きなマイナス要因ではない。トッティ、ディビアージョ、ディフランチェスコといった選手を軸にした昨シーズンの4-3-3攻撃サッカーがより完成度を高めるためには、チームの「核」が不動というのは少なくないアドヴァンテージである。戦力レベルとしては、スクデットは難しいが、昨年を上回る成績なら十分期待できる、というところだろうか。

しかし、ラツィオに負けないワールドクラスのビッグネームを望んでいたロマニスタ(ローマのサポーター)たちは当然ながら大不満で、プレシーズンのトレーニング初日、トリゴリアの練習場まで押し掛けてセンシ会長に抗議した。それこそ「12人めの敵」になることも少なくない、熱すぎるサポーターを持つローマにとっては、その意味では多難の船出である。

監督も含めたチームの「革命」に踏み切ったクラブの中で、最もいい補強をしたと言われているのがパルマ。サッキ流のリジッドな4-4-2にこだわるアンチェロッティを更迭し、より攻撃的な3-4-3フォーメーションで昨シーズンのセリエAをわかせたマレサーニ監督を、フィオレンティーナから引き抜いた。

戦力的にも、FWにバルボ(ローマ/アルゼンチン代表)、MFにボゴシアン(サンプ/フランス代表)、ヴェロン(同/アルゼンチン代表)、フゼール(ラツィオ)、ロンゴ(ナポリ/U-21代表)、DFにはサルトール(インテル)と、非常にバランスのとれた、しかも質の高い選手を、いずれも他のクラブを出し抜いて獲得している。

キエーザ、クレスポ、アスプリーリャ、D.バッジョ、カンナヴァーロ、トゥラムといった既存戦力とあわせれば、「紙の上」では十分にスクデットが狙えるラインアップである。

ただし、これだけ大幅な革新は、それに伴うリスクももちろん大きい。シーズン序盤、つまらない形で星を落とすことなく、マレサーニ監督のサッカーをチームに浸透させて、流れに乗ることができるかが、大きな鍵となるだろう。

同じことは、やはり「革命」を断行したミランにもあてはまる。弱小・ウディネーゼを3年間で3位まで引き上げ、今イタリアで最も注目されまた評価されているザッケローニ監督を迎えたミランは、そのウディネーゼから、監督ともどもビアホフ(ドイツ代表)、ヘルヴェグ(デンマーク代表)という2人の主力選手も獲得。

この10数年の成功のシンボルであり、イタリアサッカーの一時代を作ったともいえる「ミランの」4-4-2を捨て、同じようにシステマティックだがよりスペクタクルな3-4-3で新シーズンに臨む。

新戦力は、上記二人に加えて、ンゴッティ(PSG/フランス)、アヤラ(ナポリ/アルゼンチン代表)、レーマン(シャルケ04/ドイツ)、そしてアンブロジーニ、ココといった若手の「出戻り組」である。昨シーズンの大補強と比べたらこれでも地味に見えるが、サッカーのスタイルやそれに伴う基本的な「約束ごと」がこれまでとは大きく変わることを考えれば、ほとんど一からチームを作るのと変わらないといっても過言ではない。

とはいえ、それでもすぐに「結果」を出さなければならないのが、ビッグクラブの掟である。パルマ同様、現在売り出し中の若手監督の手腕が問われることになる。

ザッケローニ監督は、チームの戦力について「戦力的には、中盤の底で攻守を支えるフィジカル的にも強い選手がひとり欲しいところだ」と語っているが、同監督本人も含めて誰もが最適任と見ていたデサイーを、フロントが独断でチェルシー(イングランド)に売ってしまうという失態を犯すなど、クラブ(マネジメント・サイド)とチーム(テクニカル・サイド)との関係に、まだしっくり来ていない部分があるようだ。これはひとつの不安材料である。

フィオレンティーナは、チェッキ・ゴーリ会長との確執からマレサーニ監督を手放し、ドイツから戻ってきた大御所・トラパットーニ監督をベンチに据えるという、他のクラブとは逆のベクトル(攻撃的ゾーンサッカー→伝統的イタリアサッカー)のチーム改革に踏み切った。

補強の目玉はトッリチェッリ(ユヴェントス)、ハインリッヒ(ドルトムント/ドイツ代表)、アモール(バルセロナ/スペイン代表)といったところだが、最大の問題は「もうフィレンツェにとどまるつもりはない」と公言しているバティストゥータの移籍(残留)問題が、依然として解決していないこと。

パルマ、ローマといったところが食指を伸ばしているが、チェッキ・ゴーリ会長は「絶対に売らない」と断言しており、両者の間の溝は埋まる気配がない。ただ、もしバティストゥータが今からイタリア国内で移籍するようなことになると、玉突き式に大型FWの移籍が続く可能性もある。

セリエA・98-99シーズンの開幕は9月13日。すでに新シーズンに向けてのトレーニングは始まっているとはいえ、移籍市場からもまだまだ目が離せない。

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。