2014年10月13日 W杯・EURO/代表関連

イタリア通信016:ワールドカップTV観戦事情 (05.1998)

ついにワールドカップが始まる。読者の皆さんは、ヨーロッパ屈指のサッカー・ネーション、イタリアは、さぞ盛り上がっていることだろうとお思いになるかもしれないが、開幕を3日後に控えた現時点では、「まだまだ」それほどでもない。

イタリア人の大部分にとってワールドカップが特別な関心の的であることはもちろんなのだが、出場国としては「常連」だけに、ある意味では4年に一度の恒例行事。「始まる」というだけで、とりたてて大騒ぎするようなものでもないのである。

実際、このところスポーツ・ジャーナリズムを騒がせていたのは、ワールドカップよりもむしろジーロ・ディターリア(先週まで開催されていたツール・ド・フランスのイタリア版ともいえる自転車レース)であった。

しかし、始まってしまえばもちろん話は別で、国民生活そのものがワールドカップを中心に動くようになるといっても過言ではない。大会期間中のTVプログラムを見れば、それは一目瞭然。ワールドカップの放映権を持っているのは、国営放送局RAIと民放のテレモンテカルロの2局だが、いずれの局も、毎日何と8時間以上をワールドカップ関連の番組に割くのだ。

まず、昼食時の13:00前後からは、それぞれの局が、前日の総括とその日の話題を取り上げる1時間ほどの番組を組んでいる。職住接近が当たり前のイタリアでは、仕事をしていても昼食は家に帰って食べる人がまだまだ多いので、この時間帯の視聴率は結構高い。

そして人々が帰宅する夕方からは、試合の中継が始まる。試合の開始時間は、毎日17:30と21:00(一次リーグ中、1日3試合ある日はこれに14:30が加わる)。全試合とも地上波で生中継されることはいうまでもない。

イタリアでは衛星のペイTVがまだまだ普及していないせいもあるが、もし日本並みの普及率だったとしても、ワールドカップの試合を地上波で観られないなどという事態は、おそらく世論が許さないだろう。毎日同じ試合を2局が同時に中継するので、視聴者は好みのコメンテーターを選ぶことすらできる。

もちろん、これで1日が終わるわけではない。2試合目が終わった後の23:00からは、両局とも、その日を総括する1時間半の番組を放映するからだ。

国営放送局では、一流のサッカー・コメンテーターを前面に立て、シリアスにその日の試合を分析し総括するジャーナリスティックな番組、一方のテレモンテカルロでは、元選手から有名人までがテーブルを囲んで、互いに揚げ足を取り合いつつ侃々諤々の議論を派手に繰り広げるという大衆受けする番組(もう18年も続いている老舗のサッカー討論番組の特別版)が、それぞれ組まれている。

要するに、1カ月の間、毎日夕方から夜半過ぎまで、ぶっ通しでワールドカップ番組が続くことになるわけだ。文字どおりワールドカップ漬けの日々である。

しかし、イタリアといえども、これを苦々しく思う人々はいる。その代表が女性たち。他のサッカー・ネイション同様、イタリアでも「サッカー・ウィドウ」は隠れた社会問題なのである。

女性向け雑誌「Noi Donne」が最近行った調査によると、アンケートに答えた20歳から50歳までの女性のうち、ワールドカップに少しでも関心がある、と答えたのは、半数以下の43%にとどまっている。

一方、あなたはイタリア代表の試合を観ますか?という問いには、8割近くの人がYESと答えているが、その理由は、「夫やボーイフレンドにつき合わされるから」、あるいは「他の番組が見られないから」というのが大部分を占めており、「サッカーが好きだから」と答えた人は13%に過ぎない。イタリア女性の大半は、男たちがTVにかじりついているのを、怒りと諦めが入り交じった気持ちで受けとめているというわけである。

いかにもイタリアらしいのが「夫やボーイフレンドがTVにかじりついている隙に他の男と浮気する気はありますか」という問い。YESと答えた女性は何と16%にも上っている。しかし、イタリアの男たちは、大して心配していないに違いない。その時には、浮気相手となるべき男もまた、TVにかじりついているに決まっているのだから。

About tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。

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