セリエAは、5月16日に今シーズンの最終節を迎えた。

シーズン最後のゲームは、いつも何かしら「お別れ試合」の要素を帯びるものだ。今年は、まだシーズンも終わらぬこの時点で、ユヴェントス、インテル、ローマ、ラツィオ、バーリの5つを除く、ほとんど全てのクラブの監督交代(文末の注参照)がすでに決まっていたこともあり、例年にも増してその印象が強かった。

フィオレンティーナのホーム、アルテミオ・フランキのメイン・スタンドには、「バティストゥータは売りません 会長」と大書した異例の横段幕が掲げられた。目標のUEFAカップ出場権を手にし、まずまず満足のいくシーズンだったとはいえ、キャプテンのバティストゥータは、チェッキ・ゴーリ会長とのたび重なるゴタゴタに嫌気が差し、移籍の意向を表明しているのだ。

この横段幕は、「別れの予感」の中で、サポーターに希望を持たせつつ、すでに代表に合流するためアルゼンチンに帰ったバティストゥータにプレッシャーをかけるという、同会長の苦し紛れの演出だったのである。

この日の相手は、前節、サン・シーロでのホーム最終戦で、ウルトラス(ハードコアなサポーター)はもちろん一般の観客にまで、これまでにないほどの厳しい抗議を受けたミラン。アウェー側の応援席には、フィレンツェまで執念深く追いかけてきたウルトラスの手で、「恥」と一言だけ大書した横段幕が掲げられていた。試合後のインタビューで、カペッロ監督は、ミランを追われる苦々しい思いを吐露することになる。

試合の方は、完全に崩壊しているミランを主力抜きのフィオレンティーナが翻弄し2-0。ところが、試合終了まで10分足らずとなったところで、なぜかフィオレンティーナ側のゴール裏観客席とフィールドを仕切る扉が開かれ、ゲーム中だというのにピッチに数百人の観客が押し寄せる事態となった。

ユニフォームをゲットしようと選手を追い回すサポーターと逃げ回る選手たち。何とかそれを押し止めようと右往左往するマレサーニ監督もサポーターに取り囲まれ、最後は胴上げまでされる始末。その素朴な人柄とスペクタクルな攻撃サッカーで、選手からもフィレンツェの人々からも愛されながら、やはり会長とのゴタゴタから来シーズンはパルマに去ることが決定した若き監督への、少々手荒い「お別れ」のセレモニーであった。

対照的に冷淡そのものだったのが、そのマレサーニが来年指揮を執るパルマのサポーター。ホームにブレッシァを迎えて行われた最終戦を、白けきった雰囲気の中1-3で終え、今季限りでチームを去るアンチェロッティ監督が片手を挙げてフィールドを後にした時にも、スタンドからは拍手ひとつ湧くことさえなかった。

パルマは、イタリア中で最もブーイングの多い観客を持つオペラ座でも知られているくらいだから、これは「土地柄」ということなのだろうが、それにしても、昨年は2位、今年もUEFAカップ出場権獲得と、期待を下回ったとはいえ、決して悪くない成績を残した同監督に対するこの仕打ちは、悲しいほどの寒々しさに満ちていた。

マレサーニ同様、試合途中にフィールドに大挙侵入したティフォージにもみくちゃにされ、おまけに着ているものまではぎ取られたのが、ヴィチェンツァのグイドリン監督。カンピオナート(セリエA)では14位と、残留ラインぎりぎりの成績しか残せなかったとはいえ、初出場のカップウィナーズ・カップでベスト4という成績を納め、クラブ史上最も輝かしいシーズンとなった。

この日の相手は、彼自身が来季から指揮を執ることになるウディネーゼ。ユーヴェ、インテルに次ぐ3位という史上最高の成績でシーズンを終えたザッケローニ監督もまた、サポーターに惜しまれつつチームを去り、今季の快進撃の立役者であるビアホフ、ヘルヴェグとともに、来シーズンはミラン再建という困難かつプレッシャーに満ちた仕事に挑戦する。

試合中にサポーターがフィールドに侵入、というだけでもかなり非常識な行動だが、これでも平和的な分まだましな方、と言わなければならないのが、イタリアの悲しい(かつ恥ずかしい)現実である。

この日ベルガモにユヴェントスを迎えたアタランタのウルトラスは、他会場の途中経過が伝わり、ナポリ、レッチェ、ブレッシァと並んでセリエB降格が確実になった途端、手当たり次第フィールドに物を投げ込む、スタンドとピッチを仕切る透明プラスチック製のフェンスを破壊するなど、手が付けられないほどに暴徒化した。警官隊はスタンドに催涙弾(!)を打ち込み応戦。試合はもちろん中断である。

その後、何とか事態は収拾され、試合は再開されたが、ウルトラス、警官隊の双方に負傷者が出た。この模様をヴィデオでチェックしていた警察は、翌日、ウルトラス50人を特定して逮捕に踏み切ることになる。アタランタにとってはもちろん、4日後にチャンピオンズ・リーグ決勝を控えたユヴェントスにとっても、後味の悪いことこの上ない試合であった。

注)セリエA残留14クラブ・来シーズンの監督一覧
ユヴェントス:リッピ
インテル:シモーニ
ローマ:ゼーマン
ラツィオ:エリクソン
バーリ:ファシェッティ
ウディネーゼ:ザッケローニ→グイドリン(ヴィチェンツァ)
フィオレンティーナ:マレサーニ→トラパットーニ(B.ミュンヘン)
パルマ:アンチェロッティ→マレサーニ(フィオレンティーナ)
ボローニャ:ウリヴィエーリ→マッツォーネ(前ナポリ)
サンプドリア:ボスコフ→スパッレッティ(エンポリ)
ミラン:カペッロ→ザッケローニ(ウディネーゼ)
エンポリ:スパッレッティ→ヴィシディ(前ペスカーラ)
ピアチェンツァ:グエリーニ→??
ヴィチェンツァ:グイドリン→コロンバ(レッジーナ)

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。