前回、W杯に向けたイタリア代表のチームはほぼ「固まっている」と書いた。ではどのように「固まっている」のか、というのが今回の話題である。

W杯予選の途中でサッキからチェーザレ・マルディーニに監督が代わり、イタリア代表のサッカーは少なからず変化した。サッキ時代は、高い位置を保つ4ラインのゾーン・ディフェンスをベースにした4-4-2であったが、現在はリベロを置いた5-3-2。CB2人はゾーンで守ってマークを受け渡すし、サイドバック2人はウイングバック的に高い位置でプレーすることを指向するから、決してかつてのような「カテナッチョ」ではない。

しかし、ボール支配にこだわらない、攻撃の組み立てに人数をかけるというよりもカウンター指向が強い、などからいえば、サッキ時代と比べてかなり「堅い」サッカーになったことは事実。マルディーニは、負けるリスクを冒してでも勝ちに行くよりは、引き分けをよしとする「古い」タイプの監督なのだ(本人は否定しているが)。

しかし、W杯予選で結局グループ1位の座をイングランドに明け渡す原因ともなったその戦い方が、勝ち点3、上位2チームのみ予選リーグ通過という今度のW杯のシステムでどこまで有効か、不安視する声もあるのは事実である。

GK(3人)のレギュラーはペルッツィ(ユヴェントゥス)で決まりだが、問題は残りの2人。実績その他を考えれば、「12番」は、USA’94ではレギュラーだったパリューカ(インテル)、第3キーパーに今年めざましい成長を遂げた20歳・ブッフォン(パルマ)というのが順当な線。

しかし最近の報道によれば、マルディーニ監督は、1月のスロヴァキア戦同様、サブキーパーにブッフォンを選びパリューカは代表から外す、という意志をほぼ固めたとも伝えられる。この2人の現在の評価はほぼ互角、ならばパリューカの経験よりもブッフォンのポテンシャルを選ぶ、というのが伝えられる理由。

第3キーパーの座はパリューカにとって受け入れ難いものであることは明らかで、むしろ「収まり」からいってトルド(フィオレンティーナ)が有力視されている。

DF(7人)は、事実上のチームリーダーであったフェラーラ(ユーヴェ)が怪我で絶望。その穴を埋めてカンナヴァーロ(パルマ)とペアを組むCBにはネスタ(ラツィオ)が確実視されている。スピード、読み、フィジカル、戦術眼、どれを取っても現在セリエAで最高レベル。経験とリーダーシップ以外ではフェラーラに見劣りしない。

リベロのコスタクルタ、左サイドバックのマルディーニ(共にミラン)は議論の余地なし。問題は右SBだが、マルディーニ監督はこれまで、本来MFのディリーヴィオ(ユーヴェ)をここに使うことが多かった。

サブとしては、インテルのサルトール、左右両サイドで使えるトリチェッリ(ユーヴェ)、更にCBのネグロ(ラツィオ)といった名前が挙がっている。。ベナリーヴォ(パルマ)、ペッソット(ユーヴェ)、パヌッチ(R.マドリッド)らは当落線上からやや後退している。

MF(7人)は、右にディノ・バッジョ(パルマ)、中央にアルベルティーニ(ミラン)、左にディマッテーオ(チェルシー)という3人が、マルディーニ就任以来不動のレギュラー。更に、先に挙げたディリーヴィオ、そして、スロヴァキア戦で初代表ながらアルベルティーニの穴をよく埋めたディビアージョ(ローマ)はほぼ当確といっていい。

SBにウイング的な役割を求める一方で、MFには攻撃力よりも守備能力とカバーリングの運動量を求めるマルディーニ監督にとって、残る2つのポストのうちひとつは、守備的MFへの割り当てである。

そこで有力視されているのがスロヴァキア戦で代表にデビューしたコイス(フィオレンティーナ)。このポジションではジャンニケッダ(ウディネーゼ)が最近目覚ましい活躍を見せているが、おそらく「試す」時間はないだろう。

最後のポストは、戦術的なオプションの幅から言っても、ウイング的な攻撃的MF(右サイド)のものである。したがって、フゼール(ラツィオ)、モリエーロ(インテル)のうちどちらか1人(おそらく後者)は落ちることになりそうだ。

メンバーとしては、左サイドにディマッテーオのオプションを欠くのが気になるところである。ウディネーゼのバキーニなどはもっと注目されてもいいはずだが・・・。ちなみに、コンテ(ユーヴェ)はマルディーニ監督と不仲で、代表入りの可能性は低い。

FW(5人)は最大の激戦区。マルディーニ監督は、フィジカルが強くポストができる選手と、スピードがありドリブルでチャンスを作れる選手との組み合わせにこだわっている。

前者ではカジラギ(ラツィオ)とヴィエーリ(A.マドリッド)、後者ではデルピエーロ(ユーヴェ)が当確である。残るポストはわずか2つ。そのうち1つはデルピエーロのサブ、もうひとつはその時に最も状態のいい選手、というのが順当な選択だろう。前者を争うのが、ゾーラ(チェルシー)とロベルト・バッジョ(ボローニャ)。

1年前は不動のレギュラーだったゾーラは、最近の不調とデルピエーロの爆発で、代表落ちの危険にさらされている。逆にバッジョは、W杯メンバー入りに最後の希望をかけて、このところ鬼気迫るプレーを見せており、現在のところ、ゾーラを一歩リードしている、というのが一般的な見方。

残るひとつのポストを争うのは、キエーザ(パルマ)、インザーギ(ユーヴェ)、ラヴァネッリ(O.マルセイユ)といったところ。現時点では、プレーが安定しており、右サイドのMFとしても使えるキエーザが有力視されている。

さて、以上はあくまでも現時点での下馬評である。もちろん大筋は変わらないだろうが、当落線上の争いは、これから2カ月弱のプレーぶりやコンディション次第。イタリア’90のように「22人目」のスキラッチ(イタリアでは”スキッラーチ”と言わないと通じない)が大活躍した例もある。

とりあえずは4月22日のパラグアイ戦に向けた召集メンバーに注目、である。  

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。