ワールドカップ・フランス大会まで100日を切り、日本では代表強化に関する論議が盛んだが、イタリア代表の強化日程もまた、日本代表に劣らず(?)かなりお寒いものである。

11月にロシアとのプレーオフで出場を決めてから、本大会までに戦うゲームはわずか3試合のみ。今から5月17日のセリエA終了までは、強化試合2試合を除くと、ミニ合宿すら予定されていないのだ。

その大きな原因は、W杯予選でイングランドにグループ1位をさらわれ、ロシアとのプレーオフに回るという「予定外」の出来事にある。これで、代表強化のために確保してあった日程が、プレーオフに喰われたセリエAの試合に回されてしまったのである。

イタリアでは、自国の代表選手抜きでセリエAの試合をするなど考えられないし、ましてやこれからの時期は、セリエAに加えて、欧州カップ、コッパ・イタリアも大詰めである。クラブにとっては「代表どころではない」というのが実情なのだ。

そして、たった3試合の強化試合の相手も、スロヴァキア(1/28・3-0で勝利)、パラグアイ(4/22)、スウェーデン(6/2)と「中堅どころ」ばかり。W杯でベスト8を狙えるような強豪とは1試合も戦わないまま、本番を迎えることになる。これで本当に大丈夫なのか、というのは、当然の疑問であろう。

しかし、この「控えめな」対戦相手を望んだのは、’96年末からサッキ前監督に代わってイタリア代表を率いているチェーザレ・マルディーニ監督自身である。そしてそれにはそれなりの理由もある。

代表は勝って当然、たとえ勝ったところで、内容が悪ければ、重箱の隅をつついてでもあら探しをする、というのがイタリアのマスコミの態度である。マルディーニ監督自身、昨年2月にイングランドをウェンブレーで下した時には救世主扱いだったものが、結局W杯予選のグループ1位をそのイングランドにさらわれてからは、無敗でW杯出場を勝ち取ったにもかかわらず、常にマスコミの疑問の声にさらされ続けている。

とはいえ、毎週続くセリエAの合間に2、3日代表が集まったところで、大したことは試せない。そんな状態で、例えばドイツやフランスのような強豪と戦って負けでもした日には、マスコミは決して黙ってはいないだろう。

W杯を前に、更にその種のプレッシャーが高まるリスクをあえて負ってまで「強い」相手と強化試合をするよりは、「調整」に徹する方がまだいい、というのが、マルディーニ監督のおそらく本音なのである。

この選択にはもちろん異論もある。しかし一方で、イタリア代表には、日本代表のように、強い相手と戦ってどれだけ通用するか、といったことを心配する必要はあまりないというのも事実である。また、もう新しい選手や戦術を試す機会が物理的にほとんどないということも含めて、チームとしてはすでに固まっているといっていい。

実際のところ、マルディーニ監督は、サッキ前監督から引き継いだチームの「核」をほとんどいじることなくW杯予選を戦い、そのままW杯に臨もうとしているのだ。

これは、予選を共に戦ったメンバーのグループとしての結束をまず重視するという、U-21監督時代(欧州選手権3連勝)からの彼のポリシーによるもの。この数シーズン、円熟の極みに達した質の高いプレーを見せ続けているマンチーニ(ラツィオ)が代表に呼び戻されることがなかったのも、現在伸び盛りのモンテッラ(サンプドリア)、トッティ(ローマ)といった若手がチャンスを得られなかったのも、そのためである。

イタリア代表のメンバーについては、機会を改めて触れたいと考えているが、いずれにしても、戦力的に見て、W杯出場国の中でブラジルに続くグループの一角を、フランス、イングランドなどと共に占めていることはまあ間違いないだろう。

その意味でもマルディーニ監督は、このプアな代表強化スケジュールの下で残された最善の道は、セリエA終了後の数週間できっちりと「調整」し、余分なプレッシャーを周囲から受けることなく落ち着いて本番に臨む環境(とりわけ精神的なそれ)を整えることだと考えているに違いない。

確かに、新しいことを試す機会はこれまでもあったし、また今後も少しではあるが残されている。しかし、この期に及んでじたばたしたところで、得られるものなどたかが知れているというのも、また事実なのである。 

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。