ちょっと気を抜いたら、やっぱりまた1週間経ってしまいました。

4年前のドイツワールドカップ期間中に書いた原稿の棚卸しその6は、ベスト8が出揃ったところでの、残り8試合の展望です。全64試合のうちグループリーグだけで48試合、R16が8試合あるので、さあこれからが本番、という時には、もう大会もほとんど終わりになっているという。見る方もいい加減疲れた頃に、やっと本当の見どころがやって来るというところが、また醍醐味だったりもするわけですが。

bar

6月28日のブラジル、フランスを最後にベスト8が出揃った。

去年の12月に組み合わせが決まった時に試しにやってみた、ひねりのない素直な予想がそのまま実現してしまったような、順当きわまりない顔ぶれである。 唯一意外な躍進といえるのはウクライナだが、これはフランスがグループGで2位になって、R16でスペインと当たってしまったがゆえの副産物。この躓きがなければ、ウクライナではなくスペインが来ていたはずだ。

R16の8試合は、順当勝ち(ドイツ、ブラジル、イングランド)、苦戦勝ち(アルゼンチン)、乱戦勝ち(ポルトガル)、強運勝ち(イタリア)、経験勝ち(フランス)、PK勝ち(ウクライナ)と、内容的には様々だった。しかし、その勝ちっぷりはともかく結果的には、やはり勝つべきチームがしっかり勝ち上がってきているという印象である。

実際に、ある分析データを見てみると、勝ち上がった8チームのほとんどが、グループリーグの3試合を通して、攻撃力(シュート総数、枠内シュート数)、守備力(ボール奪取総数、ファウル1回あたりのボール奪取数)ともに、R16での対戦相手を上回っていたことがわかる。

接戦に見えたポルトガル対オランダ(結果的には乱戦になってしまったが)にしても、この4つの指標すべてにおいてポルトガルが上回っており、総合的なサッカーの質という点で、勝つべきチームが勝ち上がったということができる。

8試合の中で唯一、GLのデータが試合結果と適合しなかったのが、スペイン対フランスだった。スペインがシュート総数、枠内シュート数とも16チーム中(参加32チーム中でも)1位という圧倒的な攻撃力を発揮していたのに対し、フランスは枠内シュート数が16チーム中最下位という体たらく。ただし、守備力の方はほぼ互角だった(ともに16チーム中ベスト5に入る)。

しかし、これだけ実力が拮抗したチーム同士の戦いになると、こうしたデータに表れる差は、ほとんど意味を失ってしまう。結果を左右するのは、ほんの小さなミス、ひとつのこぼれ球を巡る運命の機微、そしてたったひとつのスーパープレーである。

スペインの1点目はPK。フランスの同点ゴールは、スペインのオフサイドトラップの失敗。勝ち越しゴールはセットプレーだった。そうした小さな、しかし決定的な違いを作りだすのは、やはり個人だ。この試合ならヴィエイラ、リベリー、そしてジダン。

ここまでのところ、活躍を期待された大物のプレーがいまひとつぱっとしないこともあって、ビッグスター不在の大会という印象がある。しかし「個の力」が勝負を左右し、決定的な輝きを見せるのはむしろ、いや、まさにこれからだ。ワールドカップの真髄は、残り8試合にこそ、みっちりと詰まっている。■

(2006年6月28日/初出:『El Golazo』)

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。