ドナドーニのイタリア代表シリーズに戻って、その5は2008年2月に行われたポルトガルとの親善試合のレポート。ちゃんとチューリッヒまで行って生で取材してきました。この時点では本当に強いように見えたんですが……。

文末の木村さんというのはもちろん、『footballista』の木村浩嗣編集長のことです。当時はまだ、イタリアは内容は酷いけど結果を出すチームで、スペインは素敵なサッカーをするけれど結果が出ないチームでした。今はそれぞれ内容に相応しい結果を手にするチームに変貌したことはご存じの通りです。

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イタリア強し。この試合の印象はそれに尽きる。ニュートラルとは言えない立場にあるぼくがそう書いても贔屓の引き倒しに見えるだけかもしれないので、記者席で隣にいたポルトガルの専門誌『フットボリスタfutebolista』(本誌とは綴り違いですね)の編集長もまったく同じことを言っていた、という客観的事実を付け加えておこう。

ドナドーニ監督がピッチに送った布陣は[4-1-4-1]。中盤の底により守備力があるデ・ロッシを置き、ピルロを右インサイドハーフに配したのが特徴であり、後で見る通り戦術的にも大きなポイントだ。前線はトーニの1トップ。攻撃陣に関しては「1トップ+2サイドアタッカー」という構成で行く方針がもはや固まったと見て良さそうである。

試合はフレンドリーマッチらしくプレッシャーも当たりもきつくない、したがって比較的ボールが持てる展開になった。おかげで、両チームの攻撃パターンをじっくりと比較することができた。

ポルトガルの布陣は、もはや定番の[4-2-3-1]。安定したポゼッションから、デコを経由して両ウイングに開き、そこからC.ロナウドとクアレスマが1対1の勝負を仕掛けるというおなじみの攻め方は、しかしイタリアの手堅い守りの前に、なかなかシュートにつながる状況を作れない。

一方のイタリアは、前線のトーニにクサビの縦パスを入れ、その落としからのコンビネーションで攻撃を加速するという展開。ポルトガルの中盤守備がユルいこともあるが、1タッチパスが4-5本きれいにつながってゴール前に迫るという、イタリアらしからぬ華麗な場面を再三作り出し、徐々に主導権を握って行った。

その中心にいるのは常にピルロである。デ・ロッシが背後をカバーしているため、躊躇なく敵陣に攻め上がって、絶妙のタイミングでボールを動かし攻撃をオーガナイズ。「10番」的な風格すら漂わせるプレーぶりだった。

ポルトガルとの最大の違いは、仕掛けの局面に必ず3人以上のプレーヤーが絡んでいること。向こうが個人の突破力に依存した「インディビジュアル」な攻撃だとすれば、こちらはオフ・ザ・ボールの動きと組織的なシンクロニズムを活かした「コレクティブ」な攻撃である。

この試合のイタリアは、守備の戦術的秩序と結果への執念という本来の強みを損なうことなく、そこに積極的かつ組織的な攻撃という新たな要素を積み上げたという印象を与えた。実際、攻撃の局面でこれほどコレクティブなまとまりを感じさせたアズーリは記憶にない。これは明らかにドナドーニ監督の功績である。

「内容、結果とも非常に満足している。守備も良かったし、素早くボールを動かしてスピードのある攻撃もできた。チームがサッカーを楽しんでプレーしていたことも、監督としては大きな喜びだった。アンブロジーニに『そんなに走らなくていいから少し休めよ』と言ったら『何言ってるんですか。楽しくてしょうがないのに』という返事が返ってきた。こういうスピリットがチームにあることは大きな強みになると思う」 

試合後の会見で明かしたアンブロジーニとの上のようなやり取りは、アズーリの現状を象徴するエピソードと言える。戦術的秩序とハードワークを最大の長所としてきたアズーリが、その上さらにプレーする楽しみまでも見出しつつあるとすれば……。

次の国際Aマッチデーは3月26日。本番前最後となるテストのお相手はスペインである。楽しみですね木村さん。■

国際親善試合:イタリア3-1ポルトガル
2008年2月6日(水)20:45、チューリッヒ(レツィグラード・シュタディオン)
観客3万500人

得点:45+1′ トーニ(I)、50′ カンナヴァーロ(I)、78′ クアレスマ(P)、79′ クアリアレッラ(I)
警告:なし

○イタリア(4-1-4-1)
GK:アメリア
DF:オッド(80′ カッセッティ)、カンナヴァーロ、バルザーリ(53′ ガンベリーニ)、ザンブロッタ(29′ グロッソ)
DMF:デ・ロッシ(53′ ペロッタ)
MF:パッラディーノ(77′ クアリアレッラ)、ピルロ、アンブロジーニ、ディ・ナターレ
FW:トーニ(71′ ボリエッロ)

○ポルトガル(4-2-3-1)
GK:リカルド
DF:ボシングワ(69′ ジョセ・リベイロ)、リカルド・カルヴァーリョ、ブルーノ・アルヴェス、カネイラ(46′ パウロ・フェレイラ)
MF:ペティート(46′ フェルナンド・メイラ)、マニシェ
OMF:クリスティアーノ・ロナウド、デコ(46′ ナニ)、クアレスマ
FW:マククラ(56′ ウーゴ・アルメイダ)

(2008年2月7日/初出:『footballista』)

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。