すみませんマルディーニは故障中でした。たぶん来シーズンもやることになるのでしょう。

さて、今日はついにチャンピオンズリーグ決勝です。イタリア組が早々に敗退してしまったので、気分はすっかり傍観者ですが、果たしてC.ロナウドやルーニー、ドログバやバラックは個人の力で決定的な違いを作り出せるのか、マンUはまたもや(ファーガソンがイタリアのチームから学んだと公言する)カテナッチョを繰り出してくるのか——と、興味は尽きません。

それにちなんで、というわけではありませんが、今回は2年前に書いた欧州サッカーの国別勢力地図みたいな話です。そのうちもう少し掘り下げた続編を書きたいと思っています。

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火曜日にアヤックスを下したインテルをしんがりに、チャンピオンズリーグのベスト8が出揃った。この機会に、過去5年間のベスト8の顔ぶれを表にして整理し、眺めてみることにした。

国別に見ると、ベスト8に最も多くのチームを送り込んだのはイタリアとスペイン(各10回)、それにイングランド(8回)が続くという構図になる。年によって多少の波があるとはいえ、ほぼ毎シーズン、複数のクラブがベスト8に顔を出しているという事実からして、セリエA、リーガ・エスパニョーラ、プレミアリーグを「ヨーロッパ3大リーグ」と呼ぶことに、異論を差し挟む余地はないように見える。

表を眺めているうちに、「サッカー的国力」というコンセプトが頭に浮かんだ。その国のサッカーの歴史や伝統、メンタリティや戦術的傾向、育成力といった、いわばサッカー文化的資産と、サッカー市場の大きさ、クラブの(ひいては国の)経済力、経営手腕といった経済的資産をすべてひっくるめた、国の総合的な「サッカー資産」の蓄積度とでもいえばいいだろうか。

定義としてはちょっと曖昧だが、とりあえずはそういうことにしておいて、試しにこの視点からそれぞれの国を見てみることにしたい。

2年続けてミラン、インテル、ユーヴェの“ビッグ3”が揃い踏みで生き残ったイタリアだが、現在のシステム(シード16チーム+予備予選経由16チームの32チーム制)が導入された99-00シーズンからの3シーズンは、ラツィオが一度ベスト8に入った以外、2年続けてゼロという低迷期も経験している。

興味深いのは、CLでの低迷期が、セリエAで6-7チームが群雄割拠してスクデットを争っていた時代と重なっていたことだ。これを、この国の「サッカー的国力」が、あまりに多くのクラブに分散されてしまったために、個々のチームの絶対的な力が下がっていた、と考えることはできないだろうか。

実際、90年代末の“ビッグ7”からフィオレンティーナ、パルマ、ラツィオ、ローマが脱落し、再び“ビッグ3”の時代に戻ってからこっちは、この3チームが、ヨーロッパの舞台でも主役の座を取り戻し、ベスト8の(ほぼ)常連と化している。

イタリアと同様、ベスト8に累計で10チームを送り込んでいるスペインの場合は、バルセロナ、レアル・マドリードという二強にプラスして、その時々で勢いのある第3のチームが台頭するという、やや流動性のある構図になっている。

「サッカー的国力」という点からいえば、少なくともクラブチームレベルではイタリアに比肩するものを持っているように見えるスペインだが、どうやらそれは、突出した二強だけで分け合うには大き過ぎるらしい。バルサとレアルの取り分を除いても、まだ1チーム分くらいの余剰が残っており、それをいくつかのクラブが奪い合っていると考えるとわかりやすいのではないか。

イングランドは、90年代のマンU一人勝ち状態から、プレミアリーグ自体が徐々に力(とりわけ経済力)をつけてきて、チェルシーの台頭によって一気にイタリア、スペインと並ぶところまで「サッカー的国力」が盛り返してきたという印象だ。

21世紀最初の5年間は、マンUに加えてアーセナル、リヴァプール、そしてチェルシーが覇権争いを繰り広げてきたが(リーズやニューカッスルも一時的に台頭したが続かなかった)、ここに来てチェルシーが突出した独占状態を築きつつある。

ただしチェルシーの場合、躍進の秘密は巨額のロシアンマネー注入であり、イングランドという国の経済力を反映しているとはいえないという点で、「サッカー的国力」という観点から見ると反則ではないかという気もする。
 
ドイツは、今や「サッカー的国力」という点では上の3か国よりも一段下に落ちてしまった印象がある。ブンデスリーガ自体は、1試合平均の観客動員数でプレミアリーグを抜くほどの盛況なのだが、ワールドクラスのスター選手がいないこともあり、国際市場における競争力で三大リーグに大きく遅れを取っている。その背景には、クラブの経営形態の違いなどもあるのだが、話が長くなるのでここでは割愛。

ドイツの場合、その「サッカー的国力」の大半をバイエルン・ミュンヘンが(ほとんど構造的に)独占する形になっているのが特徴。だがそのバイエルンも、00-01シーズンの優勝をピークに、徐々にヨーロッパでの競争力を落としてきている。
 
フランスは、クラブとしての規模や人気度で言えばPSGとマルセイユが二強になって然るべきなのだろうが、どちらも経営手腕が伴わず、群雄割拠の状態が続いてきた。その中でここ数年、着実に実力を伸ばし、今やこの国の「サッカー的国力」を独占、一人勝ちしているのがリヨン。

3シーズン連続でベスト8という成績は、ミランの4シーズン連続に次ぐ、大きな賞賛に値する記録である。経済力では三大リーグのビッグクラブに大きく劣るものの、レギュラーの大半をフランス人(とフランス系アフリカ人)が占めている事実が示す通り、フランスという国の育成力を最大限に生かして総合力を高めているところが素晴らしい。

 卓越した育成力という点ではオランダのPSVやアヤックスもひけを取らない。だがリヨンと違うのは、発掘したり育てたりしたタレントを、複数のシーズンに渡って引き留めておくだけの経済力がないところ。これは、オランダという国のマーケットの小ささがもたらす限界である。■

(2006年3月15日/初出:『El Golazo』連載コラム「カルチョおもてうら」)

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。