チャンピオンズリーグを見ていると、三大リーグの上位にいる一握りのメガクラブによる寡占化がどんどん進んでいるという印象を受けます。それについてあれこれ書き始めたのは、ここ2、3年くらいでしょうか。これは05-06シーズンが始まる前に書いたもの。これ以降、ことある毎に同じようなことを何度も繰り返して行くことになります。

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ヴァカンスの6月、キャンプの7月と、オフシーズンも風のように過ぎ去って、8月は欧州では新シーズン開幕の月である。緯度の低い日本は猛暑の真っ盛りだが、ヨーロッパでも緯度の高いアルプス以北では、8月第2週ともなれば朝晩は涼しいどころか肌寒いくらいで、日中の気温も20度そこそこ。すっかり初秋の風情となる。

今シーズンは、終了後にワールドカップを控えていることもあり、各国ともスタートは例年よりさらに早め。フランスリーグはすでに2試合を消化しており、ブンデスリーガやスコットランド・プレミアも先週末に開幕した。この週末には、プレミアリーグやエールディビジもスタートする。

ただし、同じ欧州でも地中海に面したイタリアやスペインはまだまだ真夏。開幕は8月最終週からで、ここイタリアなどは、新シーズンのカレンダーすらまだ発表になっていない。そもそも、セリエA、Bの参加チームすらまだ最終的に決定していないのだから、カレンダーの組みようもないわけだが……。

さて、この機会に各国リーグの動向をざっと眺めてみると、ビッグクラブと中小クラブの二極化というトレンドは、もはや完全に固定した感がある。両者を隔てる“貧富の差”は拡大する一方だ。それが象徴的に表れているのは、移籍マーケットの動向である。

全体的に見れば、ここ数年来続いている欧州サッカー界全体の財政難、移籍金相場の下落傾向という流れの中で、移籍マーケットの主流は、余剰戦力のレンタル移籍と契約切れによるフリー移籍に移行してきている。というよりも、大部分のクラブは、財政的な窮状から、それ以外に補強の手段がない状況に置かれているのが実情だ。

だがその中で、一握りのビッグクラブだけは、積極的な投資で戦力強化を進めている。

イングランドで動きが目立つのはチェルシー。右ウイングにライト=フィリップス、左SBにデル・オルノを加え、前線にもミランからクレスポを呼び戻すなど的を絞った補強で、プレミアリーグ連覇に向けて盤石の構えを敷いている。

それを追うべき三古豪の補強は、マンチェスター・ユナイテッド(パク・チソン、ファン・デル・サール)、アーセナル(フレブ)、リヴァプール(シッソコ、クラウチ)とも、チェルシーと比較すると明らかに小粒。総合力でチェルシーに更に水を空けられた印象がある。

スペインでは、フィーゴとサムエルをインテルに放出した一方で、中盤にJ. バプティスタとP. ガルシア、前線にロビーニョを補強したレアル・マドリードの動きが目立つ。懸案だった中盤にファン・ボンメルを移籍金ゼロで獲得した程度で、継続性を重視した手堅い補強を進めるバルセロナとは対照的だ。それ以外のクラブはほとんどが財政的に苦境に置かれており、やりくり程度の補強でお茶を濁しているのが実情。二強との格差は拡大傾向にある。

そしてイタリアでは、ビッグ3が揃って、近年にない資金を投じて補強に乗り出している。ユヴェントスはアーセナルからヴィエイラを引き抜き、ミランはジラルディーノとヴィエーリで前線を強化、インテルはソラーリ、サムエルに加えてフィーゴまでもレアルから“下取り”と、それぞれ30億円規模の“お買い物”に踏み切った。

ここに挙げたビッグクラブが目標に掲げるのは、国内リーグでの優勝というよりもむしろ、チャンピオンズリーグの制覇である。ここ数年で進んだ“貧富の差”の拡大は、それぞれの国内リーグにおけるこれらビッグクラブとその他大勢の中小クラブの戦力格差を拡げ、結果として国内リーグ上位(=チャンピオンズリーグ出場権)は当然の前提と見なされるまでになっている。リーグ優勝の価値も相対的に低下してきた。“富める者”たちの主戦場は、もはや国内リーグではなく欧州戦線に移っているのだ。

現実問題として、CLで優勝を狙えるクラブは、上に挙げたイングランド、スペイン、イタリアのビッグクラブに、ほとんどドイツの“独占国策企業”と化しているバイエルン・ミュンヘンを加えた10チーム前後に絞られている。世界的なトッププレーヤーも90%はこれらのクラブに集中している。

その一方で、昨シーズンのオランダ王者でありCLでもベスト4まで勝ち進んだPSVは、パク・チソンをマンUに、ファン・ボンメルをバルサに、フォーゲルをミランにそれぞれ持って行かれ、明らかに弱体化している。強豪国のビッグクラブがオファーする給料を支払うほどの財力がないから、選手を引き止められず、継続的な強化が不可能なのだ。

03-04シーズンのCLファイナリストであるポルト(ポルトガル)とモナコ(フランス)も同じような道を歩んだ。国内リーグの内部においてだけでなく、欧州各国リーグの間でも、“貧富の差”は広がってきている。

こうして進みつつある“一握りの国の一握りのクラブによる市場の独占”は、ビジネスの論理に立てば必然なのかもしれないが、スポーツの論理に立って考えれば決して歓迎すべきものではない。CLのベスト4が毎年同じような顔ぶれになったら、かなり興醒めだろう。

とりあえずは、これ以上脱落するクラブが出ないことを祈りつつ(アーセナルあたりはちょっと不安)、今年もPSV、ポルト、モナコのようなサプライズが出てくることを楽しみにするしかなさそうだが。■
 
(2005年8月20日/初出:『エル・ゴラッソ』連載コラム「カルチョおもてうら」)

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。