2014年10月20日 CLと欧州サッカー

ミシェル・プラティニの挑戦(2005.03)

昨春UEFA会長に就任したミシェル・プラティニが、会長選立候補を表明した2005年3月のレポート。当時は、ヨハンソンやG-14が対立候補として、よりビッグクラブ寄りの立場を取るベッケンバウアーの擁立を画策しており、そっちの方が実現性が高かったように見えました。

しかし、その後プラティニが裏で話をつけたのかFIFA会長ポストを狙っているのか、ベッケンバウアーは降り、選挙はプラティニ対ヨハンソンという構図に。その辺りの経緯はまた改めて。

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2005年10月15日火曜日、ミシェル・プラティニが、次期UEFA会長選挙への立候補を正式に表明した。

80年代のユヴェントスとフランス代表で一時代を築き、バロンドールに3度輝いて「ル・ロア」(=ザ・キング←なんでこれが日本で「将軍」になったのかは謎)と呼ばれた偉大なる背番号10。

32歳で引退した後は、フランス代表監督を経て現場を離れ、92年からフランス’98組織委員会副委員長、フランスサッカー協会副会長、UEFA理事、FIFA理事、ブラッターFIFA会長のアドバイザーと、各レベルのヘッドクォーターで意思決定にかかわる要職を歴任し、50歳を目前にしてついに、直接の影響力を行使できる権力の座を自らうかがう段階にたどりついた。

過去の歴史を見ると、UEFAやFIFAの会長職は、いわゆる「事務方」のポストであり、選手としてトップレベルのキャリアを築いた人物が就いた例はない。プラティニ「候補」の特殊性と独自性は、まさにそこにある。

パリ市内のレストランで、フランスサッカー協会新会長のお披露目をかねて行われた記者会見で、プラティニは立候補の理由をこのように語っている。

「私はフットボールを心から愛している。それが立候補する唯一最大の理由だ。私はこれ以上の名誉も金も必要としていない。だが、私が愛するフットボールが壊されていくのを黙って見ているわけにはいかない。それだけだ。

フットボールは祝祭であり、喜びであるべきだ。私にとって、フェアプレーとは、勝利のためにすべてを尽くしたあと、敗北を笑って受け入れることだ。しかし今日、敗北は悲劇でしかない。そこにあまりにも多くの経済的利害が絡んでいるからだ」

この10数年で、ヨーロッパのプロサッカーは大きな変化を遂げた。地域に根ざした都市のスポーツから、マスメディアに支配された世界的なエンターテインメントへ。楽しみとしてのスポーツから、利益のためのビジネスへ。プラティニは、ビジネスもエンターテインメントも否定はしない。ただ、フットボールが本来持っているスポーツとしての価値を、今後の発展の根幹に据えようとしているだけだ。

火曜日の会見で明らかにされた政策の柱は、次の3点に集約されるように見える。

1)ビジネス主導からフットボール主導へ
「私はビジネスが悪いと言っているわけではない。ただ、フットボールがビジネスに従属するのはおかしい、ビジネスがフットボールの論理に従うべきだと言っているだけだ」

2)判定へのテクノロジー導入拒否
「フットボールは審判のミスも含めてヒューマンなスポーツであり続けるべき。テクノロジーを受け入れれば、十数年もするうちに、審判は自ら判定せず、スタンドでコンピュータに囲まれた誰かの指示を代弁するだけの存在になってしまう。

そもそも、末端までそういうテクノロジーを導入することは不可能だ。持てる者のフットボールと持たざる者のフットボール、ふたつのフットボールが存在することは許されない」

3)育成環境の充実
「UEFAのような機関がなすべき仕事の優先順位は、若いフットボーラーが育ってくる環境を整備することにある。育成で成り立っているクラブがビッグクラブの“略奪”に遭っている現状には、何らかの形で歯止めをかける必要がある」

こうしたプラティニのスタンスは、G14を始め、現在の欧州プロサッカー界を牛耳っているビッグクラブの利害と、一致するよりは対立する点の方が多い。例えば、テニストーナメントのようなシード制をチャンピオンズ・リーグに導入し、強豪同士が早い段階で対戦するのを避けようというG14の提案を、プラティニは一笑に付す。

「ビッグクラブは、自分たちでタイトルを独占したいと考えながら、トーナメント1回戦で対戦するとドローに文句を言う。そもそも、いくつものビッグクラブがすべて決勝に進出することなど不可能なのに。G14はマスメディアに非常に大きな影響力を持っている。しかし彼らが制度を作る側に立つことはあり得ないしあってはならない」

こうした主張が、選挙という高度に政治的な場で受け入れられるかどうかはわからない。しかも彼は、2001年のFIFA会長選挙でブラッターを支持し、現UEFA会長のヨハンソンを敵に回している。とはいえ、プラティニほどの人物が、勝算もなしにこの種の選挙活動に乗り出すとも思えないことも事実である。

ヨハンソンの任期は今年で切れるが、次期会長選挙は2006年、あるいは07年になると見られている。ビッグクラブ主導のビジネス化が進む一方の欧州サッカー界に、フットボールというゲームそのものを愛するプレーヤーの立場から、プラティニはどんな変化をもたらすことができるのか。あるいは、できると考えているのか。今後の動向に注目したい。■

(2005年3月16日/初出:『El Golazo』連載コラム「カルチョおもてうら」#19)

About tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。

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