欧州チャンピオンズリーグをめぐっては、メガクラブによる寡占化、二極化の進行というテーマで、何度もしつこく原稿を書いてきました。これはその中でも早い方。今から3年前、04-05シーズンです。

このカテゴリーには今後、似たような話がいくつも並ぶと思います。でも、それを通して眺めてみると、経年変化がわかるというのもあるわけで。単一銘柄のワインを年代順に試飲するようなもんwですね。

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ヨーロッパの人々にとって、クリスマスは我々日本人にとってのお正月のようなもの。年に一度、家族が一同に会し伝統的な料理を囲む、神聖な祝日である。それはサッカー選手とて同じ、というわけで、ヨーロッパ主要国のリーグ戦もこの週末はクリスマス休暇。年末年始の8日間に4試合を詰め込むというマッチョな伝統を誇るプレミアリーグを除き、リーグの再開は年が明けてからとなる。

ちょうどいい機会なので、欧州5大リーグ(イタリア、スペイン、イングランド、フランス、ドイツ)の順位表をひとしきり眺めてみた。

すぐに気がつくのは、まだシーズンが折り返し点にすら達していないというのに、すでに優勝争いがほんの一握りのチームに絞られてしまったことだ。スペインはバルセロナが独走、イタリアはすでにユベントスとミランの一騎討ちになった。イングランドも似たようなもので、実質的にはチェルシーとアーセナルのマッチレースだろう。

フランスも、リヨン(まだ無敗)が実力的にひとつ抜け出している印象がある。唯一の例外はブンデスリーガで、首位が連敗すれば追いつける勝ち点差(6ポイント)に7チームが固まる混戦となっている。

もうひとつの特徴は、そのドイツも含め、各国のチャンピオンズ・リーグ圏内にいるクラブは、ほとんどがここ数年“常連”となっているおなじみの顔ぶれだということ。サプライズといえるのは、ウディネーゼ(イタリア)、エヴァートン(イングランド)、エスパニョール(スペイン)、リール(フランス)くらいのもの。だがこれらのチームにしても、シーズン終盤まで上位に粘れるかどうかは未知数である。

要するに、各国リーグのタイトル、そしてチャンピオンズ・リーグへの出場権は、一握りのビッグクラブがほぼ独占しているということだ。国際的な知名度と人気を誇るこれらビッグクラブと、その他大勢のドメスティックな中小クラブの二極化というトレンドは、年を追うごとに進展している。

ご存知の通り、いま欧州でプロサッカークラブの財政を支えているのは、入場料収入ではなくTV放映権料収入だ。しかし、多くの国で衛星ペイTVの国内市場が破綻をきたした現在、ビッグクラブにとっては、世界的な市場を持つチャンピオンズ・リーグからの収入(放映権料、UEFAからの分配金)が生命線になっている。そしてどの国でも、それを得られない中小クラブの多くが深刻な財政難に陥っている。

こうした状況の中で、「各国リーグの上位陣固定化→CL出場クラブの固定化」という流れが、「持てる者」と「持たざる者」の格差をますます広げる方向に働くことは避けようがない。

象徴的なのは、先日組み合わせが決まったCLベスト16の顔ぶれである。欧州ビッグクラブ連合ともいえるG14(現在は18クラブで構成。詳しくは文末の注参照)のメンバーが、16チーム中13チームを占めている。メンバーでないのはチェルシー、モナコ、ブレーメンのみ。

逆に、G14のメンバーで今回ベスト16に残れなかったのはアヤックス、PSG、ヴァレンシアだけで、CLに参加すらできなかったチームとなると、マルセイユとドルトムント、わずか2つに過ぎない。

G14は、CLを発展的に解消し、欧州統一のトップリーグをUEFAではなくクラブ連合主導で旗揚げするという“欧州スーパーリーグ構想”の「首謀者」でもある。もう10年も前から噂になっては消えてきたこの構想の最大のポイントは、参加チームが国内リーグを離脱し、このスーパーリーグだけを戦うという点にある。

すでにG14内部では、2009年をメドにこのスーパーリーグを実現するための動きが始まっているといわれる。もし実現すれば、世界中のサッカーファンは、ヨーロッパのトップチームがぶつかり合うビッグマッチを毎週堪能できることになるだろう。スーパーリーグは、NBAを上回る世界最大級のスポーツ・エンターテインメント・ビジネスとなるに違いない。

しかしその一方で、国内リーグの地位(=商品価値)がさらに低下し、結果として衰退への道を歩むことも避けられないだろう。Jリーグが憧れた「ヨーロッパのスポーツ文化」は、日本がそこに追いつく前に、ビジネスの波に呑まれて消えてしまうのかもしれない。■
 
注)G14:欧州の主要ビッグクラブが、FIFA、UEFAに対してより大きな影響力を行使することを目指して作った利益団体(というか圧力団体)。当初は単なる親睦組織だったが、2000年にブリュッセルに本部を設立し、欧州経済利益団体(EEIG)として登記。キャッチフレーズは”The voice of the clubs” 。

当初の参加クラブは、レアル・マドリード、ミラン、アヤックス、リヴァプール、ユヴェントス、バイエルン・ミュンヘン、バルセロナ、マンチェスター・ユナイテッド、ボルシア・ドルトムント、PSV、ポルト、マルセイユ、PSGの14チームだったが、2002年に、アーセナル、バイヤー・レヴァークーゼン、リヨン、ヴァレンシアの4チームが加わっている。

(2004.12.22/初出:『El Golazo』連載コラム「カルチョおもてうら」#10)

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。