昨年5月に上梓したレナート・バルディとの共著『モダンサッカーの教科書』に続いて、単著としては2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』以来となる新刊が、4月24日に発売になりました。

タイトルは『チャンピオンズリーグ・クロニクル』。名は体を表す、ではありませんが、1992年にそれまでのヨーロピアン・チャンピオンズ・カップをリニューアルして「チャンピオンズリーグ」になって以来、この「世界最高のフットボール・コンペティション」が辿ってきた四半世紀の歴史を、ピッチ上はもちろんピッチ外のトピックスも含めて他にはない総合的な視点からまとめた一冊です。

といっても、多くの方がお気づきの通りまったくの新刊ではありません。2012年に出版した『チャンピオンズリーグの20年』を底本に、その後欧州サッカーが激動の時代を送った直近6年の経緯を新たに書き下ろし(ボリュームは350ページから500ページへとほぼ5割増し)、CL四半世紀の歴史を包括的に俯瞰した増補改訂・豪華愛蔵版となっています。

以下に、そのあたりの経緯を記した本書のあとがきをコピペしておきます。ご一読の上、ご興味を持たれたら、ぜひともリアルまたはオンライン書店にてご購入の上熟読いただけると嬉しいです。

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 本書は、2012年9月に上梓した『チャンピオンズの20年』を底本に、その後の6年間にピッチ内外で起こった様々な出来事を第6章、第7章として新たに執筆・追加し、全文を増補改訂したアップデート版である。それに伴ってタイトルも『チャンピオンズリーグ・クロニクル』と改めた。 
 
 1995年にイタリアに居を移してから20余年、ヨーロッパの片隅に暮らしながら当地のサッカーを追い、日本の読者に伝えることを仕事とする中で、筆者が否応なく実感してきたのは、スタジアムを舞台にしたピッチ上の栄枯盛衰は、ピッチの外にあるクラブの戦略や経営状況、そしてそのさらに背後にある国や社会という大きな環境と分かちがたく結びついているということだ。

 UEFAチャンピオンズリーグという世界最高峰のフットボール・コンペティションの歴史をたどりながら、その間に欧州のサッカー界が経験してきた「都市/地域のスポーツからグローバルな産業へ」という大きな質的変化、そしてさらにその背景にあるヨーロッパ社会の大きな変化までをひっくるめて、ひとつの大きなストーリーとして語ろうという本書は、見方によってはいささか乱暴な試みに映るかもしれない。

 しかし、あえてそれに取り組むことを通じて、自分がこれまで見てきたヨーロッパにおけるサッカーというスポーツのあり方を、より包括的な視点から描き出してみたい、欧州サッカーの過去と現在を、断片的な情報の継ぎはぎではなくひとつの全体像として提示したいというのが、本書を書こうと思ったそもそもの動機だった。

 今回のアップデートは、オリジナル版の刊行後に本格化し、今なお現在進行形で続いている「資本と市場のグローバル化」の波を受けて、さらなる変化へと向かいつつあるCLと欧州サッカーの現在を改めて整理し、未来を展望してみようという試みである。

 オリジナル版を書き上げた2012年時点において、筆者が「希望的観測」としてぼんやりと思い描いていたCLの未来は、FFPの施行によってメガクラブの過当競争に歯止めがかけられると同時に、赤字経営体質の改善によって「持続可能な発展」の基盤が築かれ、一方では「中堅・弱小国の底上げ」が進むことで、欧州サッカー全体がバランスの取れた共存共栄に向かい、CLもより実力が均衡・伯仲したコンペティションになるだろう、というものだった。しかし本文中で見てきた通り、現実はそれとは大きく異なる方向へと進むことになった。 

 FFPは、2011年時点で合計17億ユーロにも上っていた欧州1部リーグ全クラブの赤字を、6年後の2017年には6億ユーロの黒字に転じさせるという大きな効果をもたらし、欧州サッカー全体の「持続可能な発展」の基盤をつくることには成功した。しかしその一方では、「資本のグローバル化」によって、石油国家の莫大な資金力にモノを言わせてFFPの規制を強行突破しようとするPSGやマンCのようなクラブも現れている。今や制度としてのFFPは、巨大なグローバル資本が強引な手法でメガクラブ間の競争バランスを崩すような事態を避けるための調整弁という側面が強くなっている。

 「資本と市場のグローバル化」の進展は、CLというコンペティションのビジネス規模をさらに拡大させたが、同時に大国と中堅・弱小国、メガクラブと中堅・弱小クラブとの格差は、縮まるどころかむしろ拡大し、「グローバル」と「ローカル」の二極化は、2012年時点には想像できなかったレベルまで進行した(グローバリゼーションが欧州サッカー全体に及ぼした影響については、拙著『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』を参照されたい)。今や、CLを主戦場とするメガクラブとそれ以外のクラブは、ターゲットとする市場から収益構造まで、まったく種類の異なるビジネスをしていると言ってもいいほど、かけ離れた存在になった。

 そしてCLというコンペティションもまた、メガクラブの新たなビジネス、すなわち「メディアを舞台とするグローバルなエンターテインメント産業」の舞台として、自らのあり方そのものを変えようとしているように見える。2016年に新たなスーパーリーグ構想が浮上し、UEFAとメガクラブの水面下での駆け引きを経て、2024年をメドとする「スーパーチャンピオンズリーグ」に形を変えて実現しようとしているのも、その意味で時代的な必然だと考えるべきなのだろう。2024年を分水嶺として、CLは欧州サッカーのピラミッドの頂点に位置するコンペティションではなく、そのピラミッドから切り離されて宙に浮かび、独自の繁栄を享受する別世界のような存在になっていくのかもしれない。その時に、残されたピラミッドがどのような運命を辿るのかは、また別のストーリーである。

2019年3月 片野道郎

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片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。