国際Aマッチウィークなのでイタリア代表の話題など。現在(2016年10月)のFIFAランキングでは13位のイタリアですが、いまからほぼ10年前、2007年2月には1位だったのでした。前年のワールドカップで優勝したばっかりで「貯金」があったのが大きかったわけですが、今から振り返ればここが頂点、すなわち下り坂の始まりだったということになります。そういえばこのテキストが掲載された『footballista』もちょうど10周年。いま発売中の号がその記念号なので、ぜひご一読を。

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2月14日に発表された2007年2月度のFIFAランキングで、イタリアが1位になった。何とこれは1993年11月以来、13年3カ月ぶりの快挙なのだそうだ。

快挙とは言っても、ここ数カ月の間に、イタリア代表がランキング上昇に値するような結果を残したという訳ではまったくない。それまで55カ月もの間1位に立っていたブラジルが、2月6日にロンドンで行われたポルトガルとの親善試合に0–2で敗れて、ランキングポイントを落としたために、何もしなかったイタリアが棚ボタで1位に繰り上がったというだけのことである。

そもそも、現在のイタリア代表が、世界ナンバーワンという位置づけにふさわしいかどうかとなると、残念ながら疑問符をつけざるを得ない。W杯優勝という偉大な結果で幕を閉じたリッピ政権下の2年間は、それに値するパフォーマンスを示したと評価していいだろう。しかし、ドナドーニ新監督の下で再スタートを切ってからは、親善試合も含めた6試合で2勝2分2敗という平凡な成績にとどまっており、しかも宿敵フランスとの真剣勝負(9月のEURO予選)では1–3の完敗だった。

結果以上に不安なのは、チームとして成熟の頂点でW杯を勝ち取ったアズーリが、世代交代の局面を迎えているにもかかわらず、そのビジョンがはっきりと見えてこないことである。新体制になってからも、次代を担うべき20代前半のプレーヤーは、数えるほどしか招集メンバーに入っていない。本来ならば今から徐々に進めて行くべき世代交代を先延ばしにして、ずるずるとチーム力を落としていった揚げ句に、EURO予選でしくじって大刷新を強いられ一から出直し、といったシナリオだけは勘弁してほしいものだ。

成長曲線がピークを越えて下降局面に入った、という点では、代表レベルだけでなくクラブレベルでも同様である。

その一つの指標となるUEFAカントリーランキング(過去5年の欧州カップにおける出場全クラブの成績が基準)では、イタリアはスペイン、イングランドに次ぐ3位にとどまっている。90年代の10年間はずっと1位の座を守り続けて来たのが、2000年にスペインに抜かれて2位に転落、その後はイングランドと2位争いを繰り広げているという状況だ。

カントリーランキングの元になるUEFAクラブランキング(基準となる成績は同じ)では、ミランが1位、インテルが3位、ユーベが9位と、ビッグ3が健闘しているものの、ベスト30には、ここにローマ(16位)、パルマ(21位)を加えた計5チームしか入っていない。これはイングランドと同じだが、スペインは7チーム入っている。これがベスト50となると、スペイン10、イタリア7、イングランド6となり、ビッグクラブはともかく、中堅クラブの層の厚さに差が生まれていることが、はっきりとうかがわれる。

興味深い、というか示唆的なのは、このUEFAクラブランキング(ピッチ上のリザルトがベース)と、ヨーロッパのクラブの売上高ランキングの比較である。

05–06シーズンの売上高ランキングを見ると、上位20クラブの中にスペイン勢はたった2つ(マドリーとバルセロナ)しか入っていない。イタリアは4クラブ(ユーベ、ミラン、インテル、ローマ)、イングランドに至っては8クラブ(マンU、チェルシー、アーセナル、リバプール、ニューカッスル、トッテナム、マンC、ウェストハム)も入っている。

これが示すのは、スペインの中堅クラブはその経済力に対して非常に大きなピッチ上の結果を残しているということであり、逆にイングランドの中堅クラブは経済力に見合った成果を上げていない(要するに金の使い方が下手)ということである。

その点から見るとイタリアの中堅クラブは、イングランドよりはましとはいえ、スペインと比べるとまだまだである。今シーズンUEFAカップに出場したのは、パレルモ、キエーボ、リボルノ、パルマの4チームだが、いずれもリーグ戦と二股をかけるだけの戦力的余裕がなく、UEFAカップは最初から半分捨ててかかるかのように、メンバーを落として戦っていた。

今シーズンのセリエAを見ても、カルチョポリの影響があるとはいえ、本来はA残留のみが目標の弱小クラブであるエンポリ、カターニアが4位、5位を占めるという状況。これは、中堅クラブ層の地盤沈下による二極化の進展を象徴的に表す事実である。

一つ明るい材料があるとすれば、フィオレンティーナ、サンプドリア、トリノ、さらにセリエBのナポリ、ジェノアなど、歴史と伝統を誇る名門クラブが、それなりの資金力を持ったオーナーを背景にして、勢力を取り戻しつつあるところか。ここから数年の間に、これらのクラブがセリエAの中堅層を充実させるようになれば、リーグとしての実力も魅力も、再上昇することが期待できるのだが。

それにしても、片やW杯優勝(とFIFAランキング1位)、片やカルチョポリ、カターニア暴動事件による一部スタジアムの閉鎖と、今シーズンのイタリアは起こることすべてが極端である。このクレイジーな1年を契機にすべてが一度リセットされて、物事があるべき方向に向かい始めることを祈りたいものである。

(2007年2月20日/初出:『footballista』)

By admin

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。