今シーズンは不振をかこち、第12節終了時点でカルピと並ぶ最下位に沈んでいるエラス・ヴェローナですが、久々にA昇格を果たした2年前(13-14シーズン)の今頃は、すごい勢いで躍進して大きな話題になっていました。これだけの不振にもかかわらずマンドルリーニ監督が解任を免れクラブから信頼され続けているのも、この時期を含めて5年間に渡る実績があってこそ。ここからの巻き返しにも期待したいところです。

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ヴェローナの大躍進は、今シーズン(13-14)のセリエA前半戦最大のサプライズだった。01-02シーズン以来11年ぶりにセリエA復帰を果たしたプロヴィンチャーレが、18試合を終えた時点で勝ち点32を挙げて、フィオレンティーナ、インテルというビッグクラブと互角に5位争いを展開しているのだ。

前線の基準点として全盛期を彷彿させるプレーを見せる36歳のトーニ、LP1(3部リーグ)での低迷期からリーダーとしてチームを引っ張ってきた主将マイエッタといったベテランに、今やビッグクラブから熱い視線を浴びる「攻撃的ゲームメーカー」のジョルジーニョ、トリッキーなドリブル突破で決定機を作り出すイトゥルベといった伸び盛りの若手がうまく噛み合い、ダイナミックでアグレッシブなトランジションサッカーで格上のチームとも堂々と渡り合っている。

クラブの正式名称はエラス・ヴェローナFC。北イタリアの中都市ヴェローナ(人口25万人)に本拠を置き、1985年にはスクデットを勝ち取ったこともある名門で、90年代までは「ヴェローナ」と言えば無条件でこのクラブを指したものだ。

しかし2000年代に入った01-02シーズン、90年代までは郊外の街クラブに過ぎなかったキエーヴォがセリエAに昇格し奇跡的な大躍進を遂げて5位になったのと裏腹に、終盤戦の信じられない失速でまさかのセリエB降格。それ以来10年以上にわたり、足かけ5シーズン(07-08から10-11まで)にわたる3部リーグ暮らしも含む長い低迷期を過ごしてきた。

そこから浮上するきっかけを作ったのが、レーガプロ1部(LP1=3部リーグ)時代の10-11シーズンに途中就任した54歳のアンドレア・マンドルリーニ監督だ。現役時代はリベロとしてインテルなどで活躍、指揮官としては90年代末から2部、3部リーグでキャリアを積み結果を残してきた。セリエAではアタランタ(04-05)、シエナ(07-08)と二度とも途中解任に終わっているが、その後ルーマニアのCFRクルージュを率いてリーグ優勝(09-10)の経験もある。

就任1年目の10-11は、LP1グループAの5位でシーズンを終えるとそのまま昇格プレーオフを勝ち抜いて、早速4年ぶりのセリエB復帰という大きな結果を残す。B残留を目標にスタートした11-12シーズンには望外の4位、そして続く12-13はシーズンを通して首位争いを続け、余裕の2位で昇格を勝ち取るなど、常に期待を上回る結果を残してきた。

そしてA昇格1年目でこの大躍進。これまで長年下積みを続けてきたその努力が、ここに来て一気に花開いた格好である。

システムはLP1時代の10-11シーズン以来、一貫して4-3-3。重心を低めに設定したコンパクトな守備ブロックでボールを奪い、そこからサイドのスペースを効果的に使って素早く敵陣にボールを運び、一気にチームを押し上げての攻撃でフィニッシュを狙うという、ダイナミックなトランジション志向のスタイルが特徴だ。

GKラファエル、CBマイエッタ、MFジョルジーニョ、ハルフレッドソンというセンターライン、そして左ウイングのファニート・ゴメスは、セリエB1年目の11-12以来、足かけ3シーズンにわたってチームの中核を担ってきた。

セリエA残留を果たし定着への礎を築く1年と位置づけられた今シーズン、最も楽観的な期待をも上回る大躍進を遂げた最大の鍵は、彼ら昨シーズンまでのメンバーを土台としたチームに加わった新戦力が、それぞれ大きなプラスアルファをもたらしたこと。

その代表格と言えるのが、ここまで9得点9アシストと、攻撃の最終局面を一手に担っている感がある大ベテランのルカ・トーニ。セリエA(フィオレンティーナ・05-06)とブンデスリーガ(バイエルン・07-08)で得点王に輝き、イタリア代表としてドイツW杯優勝も経験している193cmの大型CFは、最前線でDFを背負ってクサビの縦パスを収めチームの押し上げを助ける基準点としての機能だけでなく、その高さを活かしてサイドからのクロスを頭で合わせてのゴールとアシストで、大きな違いを作り出している。

バイエルンからイタリアに戻ってきた2010年1月以来、ローマ、ジェノア、ユヴェントス、フィオレンティーナとチームを転々としながら、控えに甘んじてキャリアの晩年を送っているように見えたが、完全な中心選手として望まれ迎えられたヴェローナで見事な復活を果たした。

そのトーニの2得点でミランを下して幸先のいいスタートを切った後、続く4試合はローマ、ユヴェントスに黒星を喫するなどやや足踏みしたが、第6節リヴォルノ戦からの6試合で5勝して一気に5位に躍進。その後ジェノア、キエーヴォ、フィオレンティーナに3連敗したが、そこからの4試合は3勝1分。連敗中の取りこぼしを除けば、黒星を喫した相手はローマ、ユーヴェ、インテル、フィオレンティーナといずれも明らかな格上であり、中堅以下の相手とは常に互角以上の戦いを展開している。

その大きな要因となっているのが、中堅以下のチームでは屈指のクオリティを誇る中盤だ。3MFの中央に位置しながら、レジスタとしてパスを捌くだけでなくしばしばボールのラインよりも前に顔を出し、組み立てにクオリティと意外性を与えるジョルジーニョは、PKキッカーとしても5得点を挙げてチームに大きな貢献を果たしている。

その両脇を支えるインサイドハーフは、右に走力がありしばしばオフ・ザ・ボールで敵陣深くに攻め上がってチャンスに絡むロムロ、左には戦術センスに長けハードワークで攻守のバランスを保証するハルフレッドソンというコンビだ。

守備の局面ではトーニ1人を前線に残して低めの位置にブロックを形成するため、ボール奪取位置は相対的に低い。しかし一旦ボールを奪うと素早く中盤に展開、そこから前線のトーニにクサビの縦パスを入れると同時に中盤が一気に押し上げ、ポストプレーの落としを受けてウイングに展開、そこからコンビネーションでの突破あるいは縦に抜け出してのクロスでフィニッシュへ、というのが典型的な攻撃パターン。

この崩しのプロセスを担っているのが、開幕後にポルトからレンタルで獲得したアルゼンチンU-20代表のイトゥルベだ。170cmに満たない小兵ながら左足のテクニック、スピードとアジリティが抜群で、逆足となる右サイドから1対1のドリブルでペナルティエリアに斜めに入り込むプレーは、しばしば危険な状況を作り出す。そこから背後をオーバーラップしたロムロに流し、そのロムロが縦に抜け出してクロスをトーニの頭に合わせるというのも「黄金パターン」だ。

攻撃の最終局面をトーニ、イトゥルベというまったく替えのきかないプレーヤーに頼っているだけに(とりわけトーニはまったく代役不在。控えのカチアはセリエAではまったく実績なし)、もし彼らが故障したりコンディションを落としたりした時には、という懸念はあるものの、ここまでに挙げた勝ち点32は、残留に必要な安全ラインといわれる40ポイントの8割近くに達しており、シーズンの最大目標である残留はほぼ手中に収めたと言っていいだろう。

しかし、ヴェローナが今後このまま、セリエAに定着できるかどうかは、まだ予断を許さない。今シーズンのチームは、過去2シーズン積み上げてきた土台にトーニ、イトゥルベという新戦力がぴったり噛み合った幸運によって支えられている側面が大きい。しかし36歳のトーニに来シーズン以降も同レベルのパフォーマンスを期待することは難しく、またすでにビッグクラブが食指を伸ばしているジョルジーニョ、1年限りのレンタルであるイトゥルベをはじめ、躍進の立役者が来季もチームに残る保証はどこにもない。セリエAで残留し続けるだけの安定した基盤は、戦力的にもクラブ経営的にもまだ築かれたとは言えない状況だ。

希望は、熱狂的なサポーターの支持。新興勢力のキエーヴォがセリエAで1試合平均1万人を集められないのとは対照的に、ヴェローナは3部リーグ時代ですら1万人を切ったことがなく、今シーズンはコンスタントに2万人以上の観客をベンテゴーディに集めている。ヴェローナ市民にとって「わが町のチーム」は常にエラスなのだ。

この強固な支持基盤をベースに経営を安定させつつ、チームレベルでも戦力の「発掘・成長・売却」というセリエAでの生き残りには不可欠なサイクルを確立していくことが、今後に向けた課題と言えるだろう。今シーズンの躍進は、その第一歩として大きな希望を与えてくれるものだ。□

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片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。