今日のアジアカップ・日本対UAEを見ていて何か既視感があると思ったら、半年前のW杯ギリシャ戦でした。監督の采配は少し違っていましたが、チームとしての基本的な素性というか性格は、人柄と同じでそうそう変わるもんじゃありません。その試合の直後にエルゴラに書いたマッチレビュー、そして続く3試合目コロンビア戦のレビューもオマケで。

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日本0-0 ギリシャ

前半38分の時点で11人対10人。しかもこちらは香川と遠藤をベンチに温存している。主導権は完全に手中にある。こうなったらあとは単に時間の問題でしかない――。

という書き出しで勝ち試合の原稿を書こうとその時は思ったのだが、終わってみればスコアは0-0のまま。遠藤と香川の投入後も試合のリズムは変わらず、ザッケローニは3枚目の交代カードを最後まで使わないまま、肩を落として終了のホイッスルを聞くことになった。

90分を通して70%近いボール支配率を保ったものの、その大部分は4DF+5MF(カツラニスの退場後は4+4)によるギリシャのコンパクトな守備ブロックの外側で、足下に安全なパスをつなぎながら2タッチの単調なリズムでボールを動かしていただけ。そこから先、ラスト30mの崩しという肝心な部分では、組織的な工夫も、そして個のクオリティも明らかに不十分だった。

組織的な工夫という点で物足りなかったのは、オフ・ザ・ボールで裏を狙う動きに合わせて縦パスを送り込み、2ライン間を押し広げようという試みもなければ、スピードに乗ったワンタッチのコンビネーションで強引な中央突破を試みる場面も見られなかったこと。相手の足が止まった最後の15-20分になっても、中央を固めた相手の注文通りサイドに開いてクロスを放り込み、屈強なDF陣にはね返されるという展開が変わることはなかった。

中央突破のコンビネーションで核となるべき本田は、初戦ほどではないにせよ、独力で局面を打開しようという意識がまだ過剰。後半途中に香川が入ってからも、2人がワンタッチのパス交換で攻撃を加速し、個のクオリティで違いを作り出すことはついぞなかった。

斉藤、柿谷、清武という攻撃のカードを持ちながら最後までそれを切らなかったザックの采配を「無策」と呼ぶことは簡単だ。しかし、指揮官がそうまでして命運を委ねた本田、香川、遠藤がその信頼に応えて違いを作り出すことができなかったというのも、また一面の真実ではある。

この2試合を通じて最も気になるのは、いい時の日本代表が持っていたふてぶてしさ、思い切りの良さ(ザックの言う「勇気」だ)が消えていること。初戦はもちろん、この試合ですら相手が10人になってもまだ、カウンターを怖れて萎縮しているような印象があった。問題は戦術やフィジカル以上にメンタルにあるような気もする。

もはや他力本願になってしまったが、勝ち点4で勝ち上がるためには得失点差以上に総得点が重要だ。ここはもうコロンビアと思う存分オープンな撃ち合いを展開して、4-3とか5-4とかで勝ち点3をもぎ取ってほしい。そういう試合を見ることができれば、敗退しても納得できると思う。□

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日本 1-4 コロンビア

結果は1-4の惨敗だが、内容的には最も納得の行く試合。今回対戦した中で最も強力な相手に対して、開き直った戦いぶりでいいところも悪いところもそれなりに出し切り、現時点における自分たちの可能性と限界をはっきりと示したのだから。

日本は立ち上がりから、出口のない「ポゼッションのためのポゼッション」を抑制し、早いタイミングで縦に展開して裏のスペースを狙おうという積極的な姿勢で攻勢に出た。コロンビアの入りが慎重だったこともあって押し気味に試合を進め、あとパスが1本通れば決定機という状況を何度か作り出す。

そういういい流れになりかけた時に、不用意な形でPKを与え、やらずもがなの先制点をプレゼントするところも、またいつもの日本らしさ。エリア内で軽率なスライディングを仕掛けた今野に直接の責任があることはもちろんだが、その背景には、ボランチの一角に攻撃志向の強い青山を起用した影響で中盤のフィルターが効かず、カウンターを喫する場面が頻発したという状況もあった。

もちろんそのリスクはザックも想定済み。実際その後はコロンビアのカウンターをしのぎつつ何度かチャンスを作って、前半終了間際には本田→岡崎のホットラインで同点に追いついた。おまけにフォルタレーザではギリシャが先制ゴールを挙げていたのだから、残り45分の展開次第ではすべての帳尻が合って奇跡的な勝ち上がりを果たす可能性は十分に残っていたのだ。

その希望は、後半開始から投入されたハメス・ロドリゲスが個人技で違いを見せつけて2-1のゴールを演出した時点でかなり薄らいだものの、その後も決定的な3点目を喫した82分まで繋がってはいた。常にカウンターの危険に晒されていたとはいえ、敵陣深くに攻め込んでコロンビアの最終ラインを脅かす場面は何度もあったからだ。

そこで得点を決められなかったのは、コロンビアの守備が1対1、組織的対応の両面で質が高かったこと、そしてそれを崩し切るだけのクオリティを日本の攻撃陣が欠いていたことの双方が理由。それは、少しでも隙を与えればあっと言う間にゴールを奪うJ.マルティネスやJ.ロドリゲスを持っているコロンビアと持っていない日本の違いだと言ってもいい。

3試合で1ゴール1アシストと1人気を吐いた本田、十八番のダイビングヘッドで同点ゴールを決めた岡崎を除くと、攻撃陣は期待に応えることができなかった。とりわけ痛かったのは香川の不調。それも含めて前線の決定力がもう少し高ければ、ギリシャ戦後当コラムに書いた希望的観測の通り、「3-2とか4-3で乱戦を制する」ことも決して不可能ではなかった気が今でもしているのだが……。□

(2014年6月20日/24日:初出:『エル・ゴラッソ』)

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片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。